6月18日に発売さればかりの、通算5作目の最新作『Unknown Tokyo Blues』をたずさえ、avengers in sci-fi(以下アベンズ)が、名古屋・大阪・東京をサーキットした「Chic City Tour」。そのファイナル、東京・EX THEATER ROPPONGI公演である。開演時間が近づくにつれ、オールスタンディングの会場がオーディエンスで埋め尽くされていく。冒頭のMCで、木幡太郎(G・Vo・Syn)は「『Unknown Tokyo Blues』のツアーが、ついに『Tokyo』ですよ、みなさん!」とあいさつし、続けて「『Unknown Tokyo Blues』なんていう、いまの日本のシーンでは、浮いたものを作っちゃったかなって思ったりしたんだけど、オレたちはこれがカッコいいんだと、自信を持って作ったし、それをツアー先のみんなに好意的に迎えてもらった。こんな曲でみんなで踊れたら、最高だと思ってます!」と率直に、会場に語りかけた。こんな飾らないアーティストの本音が聞けると、うれしくなってしまう。確かに、新作『Unknown Tokyo Blues』には、いままでのアベンズにはない方向性の楽曲が含まれていた。だがそれは、彼らにとってリアルなロックとは何かの表明であり、未来への次のステップなのだと、この日、会場に集まった多くのオーディエンスは、確認することができたのではなかろうか。ハードなロックサウンドに酔い痴れ、踊り狂いながらも、単なる享楽で終わるのでない、音楽が止んだあとに何か確かな手応えが残った、そんな夜であった。
『Unknown Tokyo Blues』のCD歌詞カードに印刷されていた大都市の夜景を写したモノクローム写真。それがステージ全体に大写しで映写されるなか、アベンズの3人が登場する。続いて、ステージ後方スクリーンに「20XX年7月19日 送信」の文字が浮かび上がり、矢印のポインターによって「送信」がクリックされると、演奏がスタートした。曲目は“20XX”。はたしてこの音楽は、20XX年へ向けて送信されるのか、それとも20XX年からの送信なのか? そんなことを思わせる、いかにもアベンズらしい未来感覚溢れるオープニングである。ステージ上は、木幡、稲見喜彦(B・Vo・Syn)、長谷川正法(Dr・Cho)のトライアングルと、各人のポジション周辺に、お馴染みの無数のエフェクター類、シンセサイザー、リズムパッド、ヴォコーダー、複数のマイクなどの膨大な機材が、操縦席を思わせる整然とした佇まいで配置されている。さらに木幡、稲美の後方には、マーシャルアンプの壁。それら巨大な機材群の上に、冒頭で述べた大都市のモノクロの夜景写真が重ねられると、無機質な機材たちが、都市の闇に潜む生き物のような生々しさで、明滅を始めたように感じられる。アベンズの3人にとってこれら機材は、楽器であることはもちろんだが、同時に、彼らの身体の一部でもあり、さらには都市や情報社会といった環境世界へアクセスするためのインターフェイスなのかもしれない、などと考えてみたくなる。そして先ほど「送信」された先=「モノクロームの都市」で鳴り響く音楽が「Unknown Tokyo Blues」なのだ、とも。
この日のライブは、アルバム『Unknown Tokyo Blues』収録の新曲と、彼らの歴史を飾るアンセム級の代表曲やフロアを瞬時に沸騰させるキラーチューンを、数曲づつ交互に配置していく、いわば新旧のサンドイッチ状態の曲順で組まれていた(セットリストもご覧下さい)。オープニングの“20XX”と新しい名曲“Superstar”というロックテイストの新曲2曲に対応していたのが、2曲目で早くもフロアを騒然とさせた“Psycho Monday”と、ノイジーなギターがたっぷり振りまかれハンドクラップが波打った“Lovers On Mars”というキラーチューン2曲。そのあと、新曲の“Riders In The Rain”と、これまた代表曲である“Wonderpower”“Before The Stardust Fades”という、長谷川のドラムとトライバル・ビートが躍動する3曲へとつながれていく。新作の重要なモチーフの1つであった「Tokyo」に関連する未来型ディスコチューン“Tokyo Techtonix”やYMOへのオマージュと受け取れる“Metropolis”では、稲見のチョッパー・ベースが唸りを上げ、続いて演奏された彼らの代表曲“Sonic Fireworks”では、都市の夜景の残像がそのまま宇宙空間で花開くの花火(Fireworks)のイメージにスライドし、会場全体にエモーショナルで幻想的な雰囲気が広がった。新旧の曲を交互に配置することで、新曲の方は、アベンズというバンドの時間の流れのなかにしっかりと組み込まれ、旧知の曲の方は、アンセム、キラーチューンとしてイメージが固定化されることを逃れて、いまのアベンズのリアルなサウンドとして新しく響き始める。「サンドイッチ方式」(勝手な呼び名ですが)には、そんな狙いがあったのかもしれない。
木幡は途中のMCで、アルバム『Unknown Tokyo Blues』について、こんなふうにも語っていた。「いまの日本のロックシーンって、アッパーな曲を作ってフェスで盛り上がればいいみたいな、みんな同じ方向を向いちゃっている気がして。余計なお世話だと思うけど。でもロックにはユルい曲とか、ダークな曲もあったわけで、そういう部分が置き去りになっているんじゃないか、という気持ちから『Unknown Tokyo Blues』ってアルバムを作ったんです」と。「アッパーな曲に偏っている」という発言は、ベスト盤『Selected Ancient Works 2006-2013』発売時(2013年)の、木幡へのインタビューでも読んだ記憶がある。ライブの猛者として、数々のライブ会場でダンスとハンドクラップとシンガロングの嵐を巻き起こしてきたアべンズだからこそ、「それだけでいいのか」という問題意識はよく伝わる。そしてこの日。その発言を裏付けるような、彼らの本気度が伝わってくるライブ終盤の展開がすごかった。絶対的アンセムとして不動の“Yang 2”“Homosapiens Experience”“Delight Slight Lightspeed”に対峙するように演奏された、新作からの“No Future”“Citizen Song”“And Beyond The Infinite”の存在感。この日の最速BPMで、アベンズの楽曲のなかでも最高にアッパーな“Yang 2”“Homosapiens~”“Delight~”の連打で、フロアを盛り上げるだけ盛り上げておきながら、セックス・ピストルズやレッド・ツェッペリンのリフやアイディアを援用しながら、ロックの大元にある「Blues」に由来する、横ユレのヘヴィなグルーヴをエレクトロ・サウンドに仕上げた新曲たちをぶち込んでくる。それでもフロアの盛り上がりはいっこうに下がる気配はなく、観客はむしろ思い思いに揺れたり、シャウトしたり、ダンスしている。最後の曲“And Beyond The Infinite”では、歌詞のとおり会場全体が、ライティングによって血と夕日の赤一色に染め上げられた。ダークな世界の終末の風景。だがその最後、ステージ後方スクリーンには、「We are the future」という希望の文字が。デジタルビートとシンセサイザー、オートチューンを使ったロボットボイスなど、SF的で未来志向のデジタルロックを本領とするアベンズが、よりダークで混沌とした複雑な「未来」を手に入れた瞬間ということか。だがその「未来」は、複雑で混沌としているからこそ、よりリアルで希望にも満ちている。この風景にたどりついたとき、彼らは何倍もスケールの大きなサウンドを手に入れたのだ、と実感させられた。
アンコールに登場した彼らは、“Universe Universe”“Pearl Pool”そして“Odd Moon Shining”という、これまた鉄板のアンセム3曲を連打した。新しいアベンズのライブを体感した私たちは、この日、デジタルビートとロック・ミュージックの一歩先のリアルな未来に、確かに手を触れたのだった。
■セットリスト
01.20XX
02.Psycho Monday
03.Lovers On Mars
04.Superstar
05.Riders In The Rain
06.Wonderpower
07.Before The Stardust Fades
08.Tokyo Techtonix
09.Metropolis
10.Sonic Fireworks
11.Soldiers
12.Starmine Sister
13.Yang 2
14.No Future
15.Homosapiens Experience
16.Delight Slight Lightspeed
17.Citizen Song
18.And Beyond The Infinite
(encore)
19.Universe Universe
20.Pearl Pool
21.Odd Moon Shining