Hilcrhyme@日本武道館

Hilcrhyme@日本武道館
2009年7月にメジャー・デビューしたHilcrhymeの、5周年を記念する初の武道館ワンマン「Hilcrhyme in 日本武道館 ~Junction~」。チケットは見事にソールド・アウトとなり、開演時間を迎えて暗転した客席には色とりどりのサイリウムが煌めく。学生時代に武道館で剣道の試合に出たことがあるというTOCは、通常「2階席、1階席、アリーナ」といったふうに呼称される客席を「なんて言うんだ? 上段! 中段! 下段! この呼び方、いいね。剣道っぽい。剣道と音楽の両方で武道館に立った人は、あんまりいないと思うぜ」と語っていた。この日のライヴは3時間半を越える大ヴォリューム(もちろん、Hilcrhymeライヴの最長記録を更新したそうだ)の内容であり、5年の間に届けられた楽曲群を巧みに配置してストーリー性を生み出していた。スキルとアイデアが惜しみなく注ぎ込まれ、5年の間にHilcrhymeが背負った重い経験をも明らかにしながら明日に踏み出そうとする。そんな姿勢が感動的なステージであった。

Hilcrhyme@日本武道館
ギター、ベース、ドラムスの生音アンサンブルに、DJ KATSUが得意の鍵盤プレイも持ち込むというバンド・セット。ステージ中央からせり出した花道に、いきなりTOCがリフトに乗って飛び出し、デビュー・アルバムから“リサイタル 〜ヒルクライム交響楽団 作品第1番変ヒ短調〜”の名乗りを上げるようなラップを繰り出してゆく。とりわけシングル曲群に見られる流麗なメロディはHilcrhymeの大切な武器ではあるが、アルバムやライヴではTOCのラッパーとしてのスキルが全開になる。それを今回のステージでは、先制パンチとして浴びせかけてきた。「堅っ苦しいことは抜きにして、今日はとことん楽しみたいと思います。ナマが一番気持ちいいんだ。どうだ男子?」とオーディエンスを煽り立て、武道館の空気をたっぷりと吸い込んでは気持ち良さそうにパフォーマンスを続けるTOCである。Hilcrhyme Crewとしてライヴではお馴染みのTHUG-HOMEYそしてCLOP、それぞれ3名ずつのダンス・チームも、演奏メンバーと同じくゴールドを配した豪華絢爛な衣装でステージを賑わしていた。

Hilcrhyme@日本武道館
自己表現の自由を唱える“ルーズリーフ”、人それぞれの個性を肯定する“パーソナルCOLOR”や“ジグソーパズル”といった歴代のシングル曲がつるべ撃ちとなる一幕から、満場のサイリウムの煌めきをなぞらえるような“蛍”、そして“光”と、カップリング曲も取り入れて連作物語のように楽曲を繋げてゆく。DJ KATSUのピアノが映えるメジャー・デビュー・シングルのカップリング“ツボミ”が、目下の最新シングル“FLOWER BLOOM”で咲き乱れるという、5年間を一跨ぎの展開も見事だ。武道館の天井には、美しい光の模様が投射される。THUG-HOMEYの面々によるめくるめくダンス・リレーを挟み込むと、今度は吹き上がる炎の中でTOCが自らを誇るシリアル・ナンバー“No.109”、そしてエモーショナルな和メロが武道館に映える“押韻見聞録”という、熱いラップ曲が連発である。“イバラの道”では、オリジナル音源と同じくBOXERが参加して2本マイクのコンビネーションを披露してみせる。

鉄板の美メロ・ラップ・ソング“純也と真菜実”は、「5年と言えば、恋人が夫婦になって、もしかしたら子供が生まれてるかも知れないよね」とファンとの歩みを確かめるように届けられ、椅子に腰掛けたTOC×ギタリストのセッションで穏やかに披露される“My Place”では、「日本武道館は、ホームのようだよ」と大舞台を忘れさせるようなリラックスしたムードも振り撒いてみせる。ダンス系フリーペーパー『movement』とのコラボ・ワークとして、“Your Smile”では年少者も含む男女10名のダンサーが加わりダイナミックな技を繰り出していた。それをCLOPの3人が広いステージ全域を使ったダンスで引き継ぐと、今度はDJ KATSUの跳ね上がる鍵盤プレイを主軸にトロピカル・ディスコの“SEA BREEZE -Instrumental-”でバンドが大活躍する。遂には、電飾衣装のTOCが豪快なダブステップのトラックを乗りこなしながら、昨年の誕生日にリリースしたソロ・デビュー曲“BirthDay”を繰り出し、鮮やかなフィニッシュと同時にソロ・アルバム発表も告知(11月リリース)してしまうのだった。

Hilcrhyme@日本武道館
驚きの展開が次々に待ち受けているこの本編後半は、TOCとダンサーとのヴァイオレントな迫真ミュージカル仕立てで繰り広げられる“Lost love song”、そしてDJ KATSUの横でサンプラーを打ち鳴らすTOCに導かれるように登場した、今をときめく世界的ヒューマン・ビートボクサーにしてYouTuber=HIKAKINとのセッション“Summer Up”、更にSUNSQRITTが加わって追い込みを掛ける“射程圏内”と、目が回るようなスピード感の急展開で突き進む。“RIDERS HIGH”から“NOISE”にかけてはバンドの爆裂ロック・サウンドも圧巻だった。「知ってる? Hilcrhymeってさあ、めっちゃカッコいいんだよね。クローズアップしようか? 俺って、めっちゃカッコいいんだよね。外見でさえこんなにカッコいいのに、内面がその109倍カッコいい。それが、逆の方向に同じくらいカッコいい奴(KATSU)とやってるんだよ」と告げるTOCは、「俺たちには勝算があった」と、メジャー・デビュー前にPCを導入してしっかりとしたデモCD『熱帯夜』を制作し、夜の子たちが伝えてくれる、という思いを胸に主にキャバクラに配布したこと。それがライヴの動員に繋がり、更に借金もしてインディーズCDの制作に取り組んだこと。そしてメジャー・レーベルの目にとまったことを語りつつ、「リスクを背負わないと成功はないから」と過去を振り返るのだった。

Hilcrhyme@日本武道館
MCと曲の前フリをばっちり決めて終盤戦に向かおうとするTOCだったが、ここでなんと残り曲数のカウントを間違えていたことが判明。「カッコいい男は、ときどき間違えるんだよ」と苦笑いしつつ、“トラヴェルマシン”を披露する。「知ってる? Hilcrhymeってさあ(笑)……いやあ、いい武道館になったわあー!」とオーディエンスとのコールの応酬で“大丈夫”も届けられるのだが、2011年6月にリリースされたシングル“no one”は、3・11後の被災地スライドショーを背負った切実なパフォーマンスになった。そして「インディーズ時代、クラブには、ファンっていう概念がなくて。クラブの人ってのは、踊りに来てるから。メジャーで最初、君たちが何を考えているのか分からなかった」と語り出すTOCは、ライヴのバックヤードにファンを招待するという企画の折、同じくHilcrhymeファンだったという友達の遺影を抱えて「紹介できて嬉しいです」とやってきたファンに触れて、「責任とか使命とか、半端な気持ちではやってらんないなと思った」と語り、本編最後には命の息吹を伝える“鼓動”を残してゆくのだった。

Hilcrhyme@日本武道館
勝算に基づいたメジャー・デビューと成功、それだけではなく、デビュー後に向き合った、共に歩む人々の命の重さまでしっかりと受け止める、素晴らしい武道館ライヴであった。アンコール1曲目の“MESSAGE BOX”は、ハッシュタグと一緒にツイートされたファンの写真を映像に用い、この武道館ライヴのDVD化(「あの間違えた部分は絶対に編集しません!」と宣言あり)、2015年春のニュー・アルバム発表とそれに伴うツアー開催、その前には2015年1月から3月にかけて、これまでに訪れたことのない土地のライヴ・ハウスで繰り広げられるツアー「イッタコトナイ。」の開催も告知された。ステージでは滅多にマイクを握る事のないDJ KATSUが「まだまだ先は長い。来年、再来年と、頑張って行こうな、というライヴでした」と語ったとおり、この武道館ライヴをステップに、更なる飛躍を予感させたHilcrhymeであった。(小池宏和)

■セットリスト

01.リサイタル 〜ヒルクライム交響楽団 作品第1番変ヒ短調〜
02.ルーズリーフ
03.パーソナルCOLOR
04.ジグソーパズル
05.蛍
06.光
07.ツボミ
08.FLOWER BLOOM
 ~THUG-HOMEY:Dance Performance~
09.No.109
10.押韻見聞録
11.イバラの道 feat.BOXER
12.純也と真菜実
13.Changes
14.My Place
15.友よ
16.Your Smile
 ~CLOP:Dance Performance~
17.SEA BREEZE -Instrumental- ~DJ KATSU~
18.BirthDay ~TOC~
19.Lost love song
20.Summer Up feat. HIKAKIN
21.射程圏内 feat.SUNSQRITT
22.RIDERS HIGH
23.NOISE
24.トラヴェルマシン
25.大丈夫
26.no one
27.鼓動

(encore)
28.MESSAGE BOX
29.春夏秋冬
30.エール
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