間違いなく、「時代」が音として放出されていた。これが、これこそが、いま鳴らされるべきロックである。
本当に素晴らしいライヴだった。昨年リリースされた2ndアルバム『ネオン・バイブル』は各種クリティック・ポールでも軒並み高順位にランクされ、名実ともに現在のUSインディ・ロックの牽引者としての存在感を見せ付けたアーケイド・ファイア。アメリカではすでに万単位の観客を動員する巨大なバンドとなっている彼らの来日は2005年のサマーソニック以来、単独公演としては初めてとなる。エポックな来日というのは多々あるが、これもそのひとつとして記憶されるべきだろう。ぎゅうぎゅうに詰め込まれたフロアの観客も、それを身をもって体感したはずだ。
意匠を凝らしたステージ・セットも、バンドのコスチュームも、映像などの演出も、すべてがある世界観に基づいて作り込まれていた。それは国籍も時代も不明、しかしどこか懐かしくもある、不思議な世界観である。ロールプレイング・ゲームのような、といえばいいだろうか。そしてそんな世界観のなかで力強く奏でられる、デコボコで、カラフルで、カオティックなポップ・ミュージック。ハレの祝祭のようにもただの子どもの遊びのようにも思えるハイ・テンションと、バイオリン、アコーディオン、コントラバス、マンドリン……といった多種多様な音色によって、世界がガチャガチャと構築されていく。
ポップ・ミュージックは、ロックは、アメリカは、つまりこの世界は、いまこそこうして新たな「物語」を創り出していかなければならないのだ――そんな切実ともいえる迫力が、圧倒的なグルーヴを生み出す。また、いうまでもないことだが、そこで創り出される「物語」とはほかでもない僕たち自身のものだ。だから、アンセムとなった“ウェイク・アップ”は当然、どの曲でも観客は曲への“参加”を求められる。手拍子やシンガロングがあって、この音楽は完成するのだ。アーケイド・ファイアが何よりもライヴ・バンドとして高い評価を得ているゆえんがここにある。それを観客の側もしっかり心得ていて、会場の雰囲気も素晴らしいものになっていた。ロックによって、世界は生まれ変われる――この夜、この場所に集まった人々は、少なくとも2時間のあいだ、そう信じることができた。そんなライヴをやれるバンドは決して多くはない。(小川智宏)
アーケイド・ファイア @ 新木場STUDIO COAST
2008.02.11