2013年にスタートした、「結び目の王」とも呼ばれるBowlineを名に冠したイベント。主催のタワーレコードが一組のアーティストにキュレーションを依頼し、開催ごとに異なる表情を見せてきた。今秋には、9月26日・27日の幕張メッセ2デイズで、それぞれDragon Ashとクリープハイプがキュレーションを担当し、また10月12日のZepp なんば大阪では、HEY-SMITHによるキュレーションで関西圏初のBowlineが繰り広げられる予定である。本稿では、幕張2日目の模様をレポートしたい。クリープハイプが掲げたキュレーションテーマは「Bet in」。クリープハイプが賭けたアーティストたちが登場し、来場者はその一日に賭ける。「ベッドイン」にも掛けられている点が、実にクリープハイプらしい。
go!go!vanillas /pic by HayachiN 東京スカパラダイスオーケストラ /pic by Nobuyuki Kobayashi まずは、2ステージのうちのYELLOW STAGE。Warning Actとして一日の幕を切って落としたのは、キャッチーなフック満載のロックンロールを放つgo!go!vanillasだ。『千と千尋の神隠し』のカオナシの被り物をして姿を見せた、クリープハイプ・長谷川カオナシのエールを受け、柳沢 進太郎(G)加入後初のドライヴ感溢れるシングル曲“カウンターアクション”も披露された。時刻は正午というところで、ひと回り大きなRED STAGEも稼働し、東京スカパラダイスオーケストラが深みのあるイントロセッションから必殺ナンバー連打のパフォーマンスへと突入する。谷中敦(Baritone Sax)は「俺の中ではある意味、クリープ祭りだと思ってます! あの4人が恥ずかしがるぐらい盛り上げようぜ!」と煽り立て、終盤にはゲストとしてスーツ姿のクリープハイプ・尾崎世界観が登場。両A面シングルのコラボ2曲がまとめて披露される。尾崎の切迫したハイトーンが絡み付く“爆音ラブソング”はもちろん痛快だが、甘く切ない“めくったオレンジ”が“めくれたオレンジ”のダブに移行する演奏も極上であった。
青く潔癖で、それゆえに痛ましい心象を騒音美に重ね合わせてゆくきのこ帝国は、あーちゃん(G)が繊細なタッチでギター音響をコントロールする中、佐藤千亜妃(Vo・G)はサウンドと詩情に没入するようにして、凛とした表情で歌い続けていた。一曲ごとに、音が鳴り止んだ瞬間、我に返るように湧き上がる喝采も印象的だ。一方、タワーレコードのタオルを高く掲げ、はち切れんばかりの笑顔で姿を見せたのはmiwa。「皆さん、Bowline楽しんでますか!? まだまだそんなもんじゃないですよねえ!?」とオーディエンスのエネルギーを引き出しながら“chAngE”や“ストレスフリー”(この曲のライヴ映えは本当に素晴らしい)でタオル回しの光景を生み出し、総勢8人のバンドによる“君に出会えたから”まで、ひたすらに陽性ヴァイブで染め上げるステージであった。
私立恵比寿中学 /pic by Nobuyuki Kobayashi 若い人の成長ぶりとは凄いもので、私立恵比寿中学のダンスと歌は、ただ可愛らしい学芸会というよりも、時折本格的なミュージカルの如き迫力を感じさせる瞬間がある。最後にじっくりと披露されたのは、尾崎世界観作詞・作曲“蛍の光”のアカペラ斉唱ヴァージョン。賑々しくエモーショナルなステージを、美しく締めくくった。サウンドチェックで山内総一郎(Vo・G)が“若者のすべて”を弾き語りしていたフジファブリックのステージは、サポートドラマーにあらきゆうこを迎え“虹”から本番スタート。この5日前にはドラマー・BOBOの編成でライヴを観たところだが、爆発力のあるBOBO編成と比べて、あらき編成はフジファブリックの高い演奏力がよりタイトに引き締められる手応えだ。“バタアシParty Night”の、洗練されていながらも強烈にファンキーなサウンドが凄い。金澤ダイスケ(Key)が電飾されたショルダーキーボードで扇動する姿もナイスだった。
BLUE ENCOUNT /pic by HayachiN ストレイテナー /pic by Nobuyuki Kobayashi “アンバランス”で江口雄也(G)の電光石火フレーズがほとばしるBLUE ENCOUNTは、田邊駿一(Vo・G)がBowlineのトークイベントで尾崎世界観から「おしゃべりクソ野郎」と釘を刺されたらしく、MCは控えめ(田邊にしては、の話だが)だったものの、その分感情を爆音アンサンブルに上乗せするようにして、結局はオーディエンスとの熱く濃密な対話を繰り広げる。ミスフィッツTシャツ(というかノースリーブ)着用のナカヤマシンペイ(Dr)によるカウントで“From Noon Till Dawn”を切り出したストレイテナーは、「Dragon Ashから、なんで俺たちの日じゃねえの?って言われたけど、クリープハイプとやりたかったです」とホリエアツシが笑顔で語り、抱擁力豊かな4ピースアンサンブルがクリープハイプの「Bet in」に応える。静謐に歌い出されながらエモーショナルに展開する、反戦メッセージのナンバー“NO ~命の跡に咲いた花~”の名演は、社会が揺れている時こそ優れた歌を生み出す、ロックバンドの役割を明確に伝えていた。
04 Limited Sazabys /pic by 神藤剛 「尾崎さんは、初めて話した時に、歌詞がいいねって褒めてくれました。そうやって先輩に褒めて貰えると救われるし、モチベーションが上がります」。04 Limited SazabysのGEN(Ba・Vo)は、そんなふうに感謝の思いを伝える。そして、アコギを携え、ただひとりで姿を見せたのは、銀杏BOYZ=峯田和伸である。フォーキーで赤裸々な新曲“生きたい”を圧巻のヴォルテージで歌い始め、そこに頼もしいサポートメンバー3人、藤原寛(Ba/AL)、後藤大樹(Dr/AL)、山本幹宗(G/ex. The Cigavettes)が加わる。身をよじり、口の周りを泡まみれにし、峯田はこの一曲で「歌う必然」を掴み取ってしまっていた。福島県いわき市の被災地にボランティアとして訪れた時、崩れた家の壁の瓦礫を退けるとそこに宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を見つけたことを語って、披露されるのは“新訳 銀河鉄道の夜”。「スマートフォンで簡単に音楽がダウンロードできる時代に、わざわざチケットを買って、幕張まで音楽を聴きに来て。そういう人たちの前でライヴが出来て、僕は本当に幸せです。10年後も20年後もまた会いましょう!」と、峯田は告げていた。
indigo la End /pic by Nobuyuki Kobayashi さあ、YELLOW STAGEの最終パフォーマーは、indigo la Endである。心象をそっくりそのままリスナーの胸の内に移し替えるメロディ、そしてアクロバティックでありながら敷居の高さを全く感じさせない演奏が、スペシャルな時間を育む。キーボード兼コーラス、そしてコーラス担当の2人の女性サポートメンバーが、楽曲のリッチな響きを増幅させていた。クリープハイプのライヴを初めて観に行く往路で交通事故に遭い、止血もせずにライヴを見届け、痛みを忘れるほどの内容だった、と語ってオーディエンスをどよめかせる川谷絵音(Vo・G)である。最後には“素晴らしい世界”が、ひとりきりのエモーショナルなヴィブラートで、余韻を残していった。
いよいよこの日のキュレーターにして大本命、クリープハイプである。尾崎世界観(Vo・G)は「明日に持ち越せないので、あとは皆さんに賭けます。だから、皆さんもクリープハイプに賭けてください」と告げ、“イノチミジカシコイセヨオトメ”から“手と手”と上昇線を描き出していった。トリだからといって、派手なステージ演出はいつもどおりほぼ皆無。ただ、クリアな音像の中に引きつったような歌声が走り、誰にも同情はされないが深く共有されるべき、殺風景な愛の物語が紡がれてゆく。長谷川カオナシ(B)の美声が絡む“グレーマンのせいにする”の後、尾崎は初めて出来た彼女とのエピソード(パンツも変えずに2人で過ごしていたら、いよいよ股間が痒くなり、怖くなって病院に行ったが幸い大事には至らず、彼女の親から「パンツだけは変えなさい」と怒られた、という話)を紹介して、「その思い出を噛み締めながら歌いたいと思います」と“ラブホテル”を披露する。新曲“リバーシブルー”は、この時初めて気付いたのだけれど、靴紐のテーマを詩情の中に織り込んだ作風が、Bowlineのイベントタイトルと重なるようで最高だ。
そして本編クライマックスは、“社会の窓”に“HE IS MINE”と、オーディエンスの一斉コールを誘う楽曲が2連発。ブルーのテープキャノンも放たれ、熱狂を彩っていた。アンコールに応えると、尾崎はこんなふうに語る。「ずっと今まで音楽をやってきて、中学の頃からやってきて、嫌なこともたくさんあって、離れることが……今でもあるんだけど、離れるたびにくっつく力が強くなるというか、それを今日、とても感じています。本当にありがとう。ギターとエフェクターボードを担いで新宿のタワーレコードに行って、音楽やってるって思われるのは恥ずかしかったんだけど……自信がなかったから。でも、音楽が好きだから行ってて。初めてCDが出せるってなった時にも、嬉しくて見に行ったら、小さい、こう、クリープパイプって間違えて書かれたやつが挿してあって(笑)。一枚だけ、CDが置いてありました。それから、こんな大きなイベントまでやらせてもらえるようになって、本当に感謝しています」。そして4人は”愛の標識”までを駆け抜ける。1組1組の演奏時間は短かったけれど、人生の光と影を、どちらも隠すことなく、臆することなく音楽が描き出すような、とても濃密な一日であった。(小池宏和)
●セットリスト
・go!go!vanillas
01. マジック
02. エマ
03. アクロス ザ ユニバーシティ
04. ホラーショー
05. バイリンガール
06. カウンターアクション
07. オリエント
・東京スカパラダイスオーケストラ
01. ルパン三世’78
02. 火の玉ジャイヴ
03. DOWN BEAT STOMP
04. Pride of Lions
05. 爆音ラブソング
06. めくったオレンジ
・きのこ帝国
01. 国道スロープ
02. WHIRLPOOL
03. ヴァージン・スーサイド
04. 海と花束
05. 夜が明けたら
06. 東京
・miwa
01. Faith
02. chAngE
03. 360°
04. ストレスフリー
05. ヒカリへ
06. 君に出会えたから
・私立恵比寿中学
01. 仮契約のシンデレラ
02. 大人はわかってくれない
03. ハイタテキ!
04. アンコールの恋
05. 誘惑したいや
06. 蛍の光
・フジファブリック
01. 虹
02. Sugar!!
03. Green Bird
04. バタアシParty Night
05. 夜明けのBEAT
06. LIFE
・BLUE ENCOUNT
01. アンバランス
02. ロストジンクス
03. DAY×DAY
04. LIVER
05. NEVER ENDING STORY
06. もっと光を
・ストレイテナー
01. From Noon Till Dawn
02. Super Magical Illusion
03. DISCOGRAPHY
04. 羊の群れは丘を登る
05. TRAIN
06. NO ~命の跡に咲いた花~
07. Melodic Storm
・04 Limited Sazabys
01. monolith
02. days
03. fiction
04. Chicken race
05. labyrinth
06. midnight cuising
07. milk
08. Terminal
09. swim
・銀杏BOYZ
01. 生きたい
02. BABY BABY
03. ぽあだむ
04. 新訳 銀河鉄道の夜
・indigo la End
01. 瞳に映らない
02. 悲しくなる前に
03. 夜明けの街でサヨナラを
04. 夏夜のマジック
05. 忘れて花束
06. 素晴らしい世界
・クリープハイプ
01. イノチミジカシコイセヨオトメ
02. 手と手
03. ウワノソラ
04. おやすみ泣き声、さよなら歌姫
05. エロ
06. グレーマンのせいにする
07. ラブホテル
08. オレンジ
09. リバーシブルー
10. 社会の窓
11. HE IS MINE
(encore)
12. クリープ
13. 愛の標識