オーガナイザーである坂本龍一の呼びかけによってスタートした脱原発フェスティバル「NO NUKES」。4年目となる今年は会場を豊洲PITに移し、11月27日の「NO NUKES 2015 Acoustic Night」と11月28日の「NO NUKES 2015」という2日間にわたってイベントが開催された。RO69ではその両日の模様をお届けするが、ここではまず1日目の「NO NUKES 2015 Acoustic Night」のレポートをお送りする。
2日間にわたるイベントの皮切りとなったトークセッションでは、椅子が6個並べられたステージにASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が司会進行役としてまず登場。続いて、昨年はガンの治療で不参加となったオーガナイザーの坂本龍一が元気な姿を見せ、場内に大きな歓声が巻き起こる。そして、SEALDsの奥田愛基、橋本紅子、元山任士郎というメンバー3名が登場し、「脱原発」をめぐる運動のあり方についてのトークセッションが行われ、スクリーンには小熊英二による初監督映画『首相官邸の前で』の予告映像と本人によるビデオメッセージが流れる。その後、映画監督の舩橋淳による現在製作中の映画『フタバから遠く離れて 第三部』の予告編と監督のコメントが上映され、6人目の参加者としてBRAHMANのTOSHI-LOWも登場し、さらなる盛り上がりの中でトークセッションは終了。
次にステージに登場したのは、華道家の辻雄貴と6名の能楽師たち。単なる伝統芸能の異ジャンル共演ではなく、実に前衛的で熱のこもった能のパフォーマンスを見せてくれた。笛、大鼓、小鼓、太鼓といった楽器と掛け声の組み合わせが繰り返される中、ステージの中央に華道というにはかなり巨大な、流木や葉付きの大枝、切り株などの素材でひとつのオブジェが組み上がっていく。自然との調和や畏怖を忘れた人間の営みである「原発」へ、歴史と伝統の側から生々しいメッセージを送るような素晴らしいステージだった。
そして、弾き語りのアクトのトップバッターとしてステージに現れたのは斉藤和義。先ほどの辻雄貴の手による大きなオブジェが残された舞台の中央で、アコギを弾きながら歌いはじめたのは“ウサギとカメ”。「NO NUKES」は初回からすべて参加している彼だが、今回は最新アルバム『風の果てまで』の全国ツアー中の参戦である。1曲目を終えると、MCではステージにオブジェを残すのがTOSHI-LOWの発案だったことを明かし、「こんなイベントはなくなったほうがいいと思うんですが、何も変わってないので、しばらくは続かざるを得ないんじゃないかと思うんですが、それも嫌ですね」と率直な胸中を語ってから歌いはじめた2曲目は、最新アルバムから“時が経てば”。不穏なコードを奏でつつ、ビルの屋上から飛び降りる寸前の男を見ている主人公のストーリーが歌われ、やがて《がんばれ 負けるな》という率直なメッセージへ帰着していく。そのシンプルな響きを力強くステージに刻んで、彼はステージを去っていった。
「こんばんは! マイネームイズ、チャボ!」と叫んで次に登場したのは、今年がデビュー45周年となる仲井戸“CHABO”麗市だ。9月に13年ぶりのオリジナル・ソロアルバム『CHABO』をリリース、今回は2012年以来となるNO NUKES出演である。最高のテンションのまま、観客の盛大な手拍子を巻き起こして1曲目に歌い始めたのは“ハングリー・ハート”。ブルース・スプリングスティーンの1980年の名曲を日本語詞でカヴァーしたものだが、「誰もが満たされない心を抱えている」という言葉が何度もリフレインされて胸に突き刺さる。そして、「坂本くんの久しぶりに元気な顔を見れて嬉しい。」と心中を語って、2曲目は“ガルシアの風”。屈指の名曲が、ここではポエトリーリーディングという形で、その言葉の一音一音までを音楽とするように豊かな詩情を運んでくる。《ああ どうにもならぬ事など 何もなかったのです/ああ どうしようもない事など 何ひとつなかったのです》という希望のメッセージを、これ以上ないほどピュアなエモーションと共に残して朗読を終えると、手を振って彼はステージを去った。
次に登場したのは、GotchことASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文。バンドとして欧州~南米の海外ツアーを終えたばかりの出演である。1曲目は“Wonderland / 不思議の国”。昨年リリースされた初のソロアルバム『Can’t Be Forever Young』のリードシングルが、控えめなストロークで鳴らされるコードとハーモニカのシンプルな音色の上で差し出されるように歌われる。《まやかしの言葉/見せかけのワンダーランド》と皮肉と警鐘に満ちた歌詞が、早くも会場をGotchワールドに染め上げていく。その後も東京と福島のことを歌った“Blackbird Sings at Night / 黒歌鳥は夜に鳴く”、南相馬市を走る国道6号線にインスパイアされた“Route 6”を経て、“転がる岩、君に朝が降る”でステージからの熱量がぐっと上昇。そして、「最後に歌う曲は、震災と原発事故のことを歌った曲です。人間って愚かだし、もう手遅れだけどまだ手遅れじゃない。そういう曲です」と言って鳴らされたのは“アネモネの咲く春に”。3通の手紙に託して未来への希望を描いたストーリーテリングと、細かな音の震えをステージに置いていくようなアコギの演奏の余韻が、深い感動を残したパフォーマンスだった。
この日最後のステージに登場したのは、BRAHMANのTOSHI-LOWである。「こういう、座ってやるやつは自分のスタイルじゃないわけですよ」と前置きしつつ歌った1曲目は、イカ天の頃のえびというバンドの“君がいれば”という曲にオリジナルの歌詞を加えたもの。94年当時の社会問題を連呼する歌詞が色褪せていないことに加えて、今の世相をごっそりと切り取るワードセンスが素晴らしい。そして阪神大震災の頃、何もできなかった自分を福島から見つめたというエピソードと共に歌われたのはソウル・フラワー・ユニオンとヒートウェイヴの共作曲“満月の夕”。時にオフマイクで歌の力を試すように投げかけられたTOSHI-LOWのエモーションは、続く“Redemption Song”でさらにグローバルに昇華されていく。ボブ・マーリーの原曲をジョー・ストラマーがカヴァーした名曲として、その預言的な歌詞の説明とともにパワフルに歌い上げると、最後は2000年に忌野清志郎が湯川れい子に書いた手紙のメッセージを朗読すると、仲井戸“CHABO”麗市を再びステージに呼び込んでRCサクセションの“明日なき世界”へ。ふたりの共演に会場からも熱い手拍子が湧き、優しいストロークからアルペジオを奏でるチャボのギタープレイのカッコよさに痺れる。
ここでライヴ終了かと思いきや、TOSHI-LOWの呼びこみで、斉藤和義、Gotchのふたりも再びステージに登場。ラストはヴォーカル&ギターが4人並んでの“サマータイム・ブルース”! 当日のリハーサルでチャボ本人に構成をまとめてもらったという裏話の披露から、Gotch→斉藤和義→チャボ→チャボのギターソロ→斉藤和義のギターソロ→TOSHI-LOW→Gotchとつながった歌と演奏は最高の一言。改めて「原発は要らねえ!」と力強く宣言するフィナーレで、この日のすべてのステージがひとつのメッセージへと昇華される手応えは感動的だった。ラストはもちろんオーガナイザーの坂本龍一も登場し、出演者全員にハグした後、手を繋いでお辞儀。「明日もよろしくお願いします」という言葉と共に、この日の「NO NUKES 2015 Acoustic Night」は幕を閉じた。(松村耕太朗)
・セットリスト
・斉藤和義
01. ウサギとカメ
02. 時が経てば
・仲井戸”CHABO”麗市
01. ハングリー・ハート(ブルース・スプリングスティーン カヴァー)
02. ガルシアの風
・Gotch
01. Wonderland / 不思議の国
02. Blackbird Sings at Night / 黒歌鳥は夜に鳴く
03. Route 6
04. 転がる岩、君に朝が降る
05. アネモネの咲く春に
・TOSHI-LOW
01. 君がいれば(えび カヴァー)
02. 満月の夕(ソウル・フラワー・ユニオン 中川敬&ヒートウェイヴ 山口洋 共作曲カヴァー)
03. Redemption Song(ボブ・マーリー カヴァー)
04. 明日なき世界(w/ 仲井戸“CHABO”麗市/RCサクセション カヴァー)
・アンコールセッション
01. サマータイム・ブルース
翌日11月28日(土)に開催された「NO NUKES 2015」@豊洲PIT ライブレポートはこちら
http://ro69.jp/live/detail/135634