TK from 凛として時雨/pic by 河本悠貴「今日はソロ名義で、初めて企画をやったんですけど。尊敬するバンドと、好きな場所で、みんなと一緒に音を出すっていう……シンプルなことなんですけど、今日ここで音を出せて、本当に幸せを感じてます。ありがとうございます」。アンコールでひと言ひと言噛み締めるように語るTK(Vo・G)の言葉に、満場のフロアから熱い拍手が湧き起こる――。「TK from 凛として時雨」名義では初の自主企画としてここSTUDIO COASTにて開催された「error for 0 vol.1」、ゲストアーティストはthe HIATUS! 音楽の力で人間の深淵と極限に同時に迫るような2組の対バンが、真冬の新木場を途方もない熱量で包み込んでいった。
the HIATUS/pic by 三吉ツカサ
the HIATUS/pic by 三吉ツカサ先攻はthe HIATUS。冒頭から“The Ivy”“The Flare”と立て続けに撃ち放つ紅蓮のサウンド越しに、リミッターの外れたエモーションを全開放していく細美武士(Vo・G)。そして、そんな細美のモードと時にせめぎ合い、時にギアをがっちりと合わせ、時にスリリングに絡み合いながら、ダイナミックな音楽空間を描き出していくmasasucks(G)/伊澤一葉(Key)/ウエノコウジ(B)/柏倉隆史(Dr)の珠玉のアンサンブル。“Monkeys”“Storm Racers”といったアグレッシヴなナンバーで巻き起こった高らかなシンガロングや、「TK、どうもありがとう! 呼んでくれて。俺、今年初ライヴ! やっと今年始まった!」と晴れやかに叫ぶ細美の姿が、最高の競演をなおも熱く彩っていく。
the HIATUS/pic by 三吉ツカサ中盤の“Thirst”“Unhurt”のハイブリッドなサウンド&ビート感に、ハンドマイクスタイルの細美の歌が強烈な躍動感を宿らせてみせたところに“Lone Train Running”炸裂! クラウドサーファー続出、圧巻の狂騒感がフロアを満たしていく。「TKとthe HIATUSの歴史はわりかし長くて。2010年、『ANOMALY』のツアーの時に、凛として時雨が参加してくれて……『TKすごいなあ』と。もう、何をやってるかわからないギター(笑)。『ごめん、俺のギターそういう音しない!』って思ったぐらいすごくて」とTKとの初対バンの思い出を語る細美。「でも、つきあってみると、本当に気持ちがいい、ひたすら良い子! 『良い子』にもいろんな言い方があるけど――すっごい良い子!」。そんな饒舌なMCの端々からも、この日の充実感が滲む。ラストの“Insomnia”“紺碧の夜に”“Silver Birch”3連打で熾烈なまでの高揚感を生み出してみせたthe HIATUS。研ぎ澄まされた5つの魂が描く、至高の音の風景がそこにはあった。
TK from 凛として時雨/pic by 河本悠貴そして後攻:TK from 凛として時雨! “unravel”の鋭利にして流麗なサウンドスケープが、先ほどまでのthe HIATUSのエモーショナルな音の肉体性とはまったく異なる、巨大な波動のようなエネルギーをもって広がり、オーディエンスを抑え難い戦慄と感激で支配していく。大古晴菜(Key)/佐藤帆乃佳(Violin)/TOKIE(B)/BOBO(Dr)という辣腕サポート陣とともにこの日の舞台に臨んだTK。目も眩むような音の色彩感と加速感に満ちた“Dramatic Slow Motion”のスリル。TKのギター&大古のピアノの高速アルペジオが描くミステリアスな音のモアレ模様が、心の琴線を妖しくかき鳴らす“phase to phrase”の背徳的なまでの悦楽感。激しく熱気を刻むカッティングと壮絶なスクリームがスタジオコースト狭しと鳴り渡った“Abnormal trick”……魔法にでもかかったように、満場の観客は5人の熱演に魅入られている。
ライヴ中盤のMCで「TKです。今日、初めての企画に来てくれて、本当にありがとうございます」と静かに語りかけるTK。「来月、新譜が出るんですけども。そこから新曲を2曲……」という言葉とともに、3月2日にリリースされる新作ミニアルバム『Secret Sensation』から表題曲“Secret Sensation”と“subliminal”を立て続けに披露。ミラーボールと乱反射し合う4つ打ちのサビが狂おしいまでに切実に胸に迫る“Secret Sensation”。アルペジオからカッティングまで多彩なTKのアコギさばきが、鮮烈なシンセ音のシーケンスと相俟って赤黒い渦を描く“subliminal”。聴き手の心に音の刃を当てるような表現のひとつひとつがしかし、狂気や退廃感ではなく力強い生命力を喚起していく――というTKの音楽世界の核心が、新曲からもはっきりと窺えた。
TK from 凛として時雨/pic by 河本悠貴“contrast”“flower”に続けて、本編最後を“Fantastic Magic”の極彩色のカオスで飾ってみせたTK。アンコールではエレピの音色を繰り出す大古&アップライトベースを弓で奏でるTOKIEとの3人編成で“fragile”を響かせたところで、再びTKが語る。「ライヴ中は、いろんなことを、ぐるぐる考えてしまうんですけど。今日は本番が始まる前に細美さんと――僕もthe HIATUSさんの円陣に参加させてもらったんですけど。『頭空っぽにして音を出せる喜びを感じようね』っていう約束をしたので。今日は最後まで僕も、頭空っぽにして楽しんでいきたいと思うので」……そんなTKのモードが、その凄絶な楽曲とサウンドにどこまでも開放的なスケール感を与えていたし、美に美を塗り重ねて衝撃を描き出すようなラストの“film A moment”が、ひときわ強く、深く胸に残った。3月20日から始まるツアー「TK from 凛として時雨 TOUR 2016 “Secret Sensation”」への期待感が天井知らずに高まる、至上のステージだった。(高橋智樹)
●セットリスト
the HIATUS
01.The Ivy
02.The Flare
03.Monkeys
04.Storm Racers
05.Thirst
06.Unhurt
07.Lone Train Running
08.Insomnia
09.紺碧の夜に
10.Silver Birch
TK from 凛として時雨
01.unravel
02.Dramatic Slow Motion
03.phase to phrase
04.Abnormal trick
05.Secret Sensation(新曲)
06.subliminal(新曲)
07.contrast
08.flower
09.Fantastic Magic
(encore)
10.fragile
11.film A moment