マドンナ @ さいたまスーパーアリーナ

マドンナ @ さいたまスーパーアリーナ - All pics by Yoshika HoritaAll pics by Yoshika Horita
マドンナ @ さいたまスーパーアリーナ

マドンナ @ さいたまスーパーアリーナ

開演予定時刻から遅れること約2時間。洋楽アーティストの場合、20分から30分の遅延は普通だが、2時間も待たせるというのは珍しい。場内では公演の長さの目安と終電に乗り遅れないようにと警告するアナウンスが流れ、やや不穏な空気も漂い始めていた。こんな事態は大阪で観たガンズ・アンド・ローゼズ以来だ。ただ、あのショービズ・サイボーグといってもいいマドンナがこれほど待たせるとはどういうことだろうと考えているうちに、体調悪いのかなと真剣に心配になってきてしまった。しかし、前座のDJも引っ込んだ後、マイケル・ジャクソンの"Wanna Be Startin’ Something"が音量強めで流れて、開演だとわかってほっとした。

オープナーはダンサー軍団をゴシックな王族風衣裳で従えて登場する"Iconic"で、「流した汗と涙で恐れに打ち勝ち、世のアイコニック(聖像)たれ」という、まさにこの日の公演の基調講演ともいえる内容を叩きつけてくる。そして続くのは「放埓な自分全開!」というメッセージをパフォーマンスで開陳する"Bitch I’m Madonna"で、自身に期待されるイメージと芸をすべてみせますという、あまりにも嬉しい導入となった。そもそも今回の新作『レベル・ハート』は自身の反骨的な気質と常に物議を醸してきた行動原理の核になっているものと向き合う作品になっているのだが、まさにそれをパフォーマンスとしてつぶさに披露していくのが本ツアーのテーマなのだということをここでつまびらかにされた感じがして、とてもスリリングな一幕だったし、実際問題としてその後は圧倒的な勢いでさまざまなマドンナの姿態が繰り広げられることになった。

また、舞台はスクリーンとせり上がりと花道と第2、第3ステージまで用意されていたが、この上にあの手この手でさまざまな演出が飛び出てくるところがすさまじい。たとえば、ビデオ・スクリーンが自由自在に動いてはマドンナとダンサーたちの舞台となったり、気がついたら第2ステージに突然ポール・ダンス用のポールが並んでいて超人的なポール・ダンスが披露されたりするなど、目にも止まらない速さで演出が展開していく。しかし、ある意味であまりにも過剰なこのプロダクションにマドンナというキャラクターとそのパフォーマンスがまったく押し潰されることなく、むしろ嬉々としてそのパフォーマンス・エゴが発揮されていくところが、圧巻で痛快だった。

マドンナ @ さいたまスーパーアリーナ

マドンナ @ さいたまスーパーアリーナ

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構成としては要所要所でマドンナの活動の基盤となっているダンス・チューンを配置し、その合間で歌ものをどこまでも魅せていくといういたって定石通りの展開なのだが、それにしても演出とパフォーマンスが見事過ぎるのですっかり持って行かれてしまうのである。超重低音を効かせた"Like a Virgin"では「この舞台、ちょっと暑いの」とシャツをはだけさせたり、"La Isla Bonita"では闘牛士ギャルをしっかり見せたりというキャラクター商売も期待違わずやってくれるし、新作からの"Heartbreak City"ではサム・シェパードの『フール・フォア・ラヴ』を思わせる愛の狂気のような振付も演じてみせてとても刺激的だった。

ところどころで独特な観客いじりも披露し、通常のパフォーマーならありえないようなファンの突き放し方がどこかSMチックでもあったし、ファン・サーヴィス満点の完璧なライヴだった。10年前の公演ではメッセージ性が強調されたものになっていて、どこか違和感と消化不良感が残ったので、マドンナというキャラとパフォーマンスを徹底的に追求した今回のライヴはこれを待っていましたと本当にすっきりする心地だった。

本編の実質的な締めとなったのは"Unapologetic Bitch"で、実はこのフレーズと「ビッチ」は今回のライヴで再三連呼されてきたフレーズで、これが今回の最大のメッセージなのだ。つまり、自分は物怖じしないビッチとしてやってきて自己実現させてきたし、みんなもそうしたらいいというものだ。確か序盤の"Bitch I’ Madonna"のヴィジュアルではわざわざ「雌犬」という日本語のテロップまで流れていて、それをやっちゃうとあんまりあなたのいうビッチ感が伝わらないですとも思ってしまったが。アンコールは"Holiday"で、この曲で初めてマドンナを知って、ここまでの長いキャリアをこれほどわかりやすく、具体的に2時間に詰め込んできた強力な今回のプレゼンテーションについては本当に感無量だったとしかいいようがない。あらためてそのステージに賭ける鬼気迫る情熱を思い知らされた気がした。

そして、観終って思い至ったのは、開演2時間押しというのは、実は「不遜なビッチ」としての演出だったのだろうかということだ。しかし、今日観ようという人は念のため、定刻通りに行ってください。(高見展)
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