ジェイムス・ベイ @ EX THEATER ROPPONGI

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ジェイムス・ベイ @ EX THEATER ROPPONGI

昨年デビュー・アルバムをリリースした中でも、とりわけ大きな注目を集めた新人がこのジェイムス・ベイだ。デビュー・アルバム『カオス&ザ・カーム』は全英1位を獲得、グラミー賞でも新人賞にノミネートされるなど、近年のシンガー・ソングライター・ブームにあって突出した才能の持ち主で、そんな彼の『カオス&ザ・カーム』がこの2月についに日本盤リリース、そして今回の初来日公演となった。会場のEXシアターはソールドアウトの超満員、超新星の満を持しての日本デビューに期待の高さが伺える。そしてそんなこちらの期待に120%応える圧倒的なパフォーマンスを見せてくれたのがこの夜のジェイムス・ベイだった。

セットリストはアンコールまで含めても全13曲とシンプルな構成で、『カオス&ザ・カーム』のナンバーの大半を演りつくすという、いかにも新人らしい内容だった。しかしその一方で「これがデビュー・アルバムの曲のクオリティか!」といちいち改めて驚かされまくる、実に濃い内容のステージでもあった。激しいバックライトの点滅の中で始まったオープニングの“Collide”、ハイポジで構えたセミアコで泣きのブルースを縦横無尽に弾きまくる“Craving”と、冒頭はアッパーなロックンロール・チューンで一気に掴みに掛かる。

この日のバンドはジェイムスに加えてドラム、ギター、ベース、キーボードのこれまた基本的な編成で、しかもこのバック・バンドは非常に黒子的と言うか、むしろジェイムス・ベイという人に華がありすぎると言うか、バンドのステージと言うよりも、あくまでも圧倒的なポテンシャルを持ったシンガーであり、ギタリストであるジェイムス・ベイのワンマン・ソロ・ショウという見え方だった。

『カオス&ザ・カーム』はロックンロール、ブルース、カントリー、フォークと、ベーシックなサウンドがぎっしり詰まったアルバムだが、この日のステージは冒頭のロックンロールを皮切りに、徐々にスローダウンしてカントリーやフォークを中盤でじっくり聴かせるという構成で、セミアコからアコギに持ち替えたジェイムスが爪弾くシンプルな歌物ナンバーが続く。

ジェイムス・ベイという人はとにかく歌が上手い、そして何よりギターが上手い!腰を落とし、細長い足をくねらせながら、ブルース・スプリングスティーンばりのロックンロール・ギターを弾きまくるカリスマ性から、ピンスポの真下で独りアコギと対話するように、ひとつひとつ、正しい音だけを厳選して弾き出していくストイシズムまで、近年、多くの素晴らしいシンガー・ソングライターが登場し、ほとんどブームの様相を呈しているが、ここまで「ギタリスト」であることを意識させるSSWは他にいないと感じた。

彼の強みはシンプルなカントリー、フォーク・チューンが同時に超絶ポップなシンガロング・チューンでもあるという二面性だ。「みんな、シンガロングできる?」と呼びかけて始まった“If You Ever Want To Be In Love”、中盤のクライマックスとなった“Let It Go”、そしてジェイムスの弾き語りからバンド・アンサンブルへと雪崩れ込む構成もドラマティックだった“Scars”と、オーディエンスの合唱がばっちり決まっていく。

デビュー・アルバムたった一枚で既にこんなにも沢山のアンセムを手に入れているって凄いことだと思うし、カントリーをやろうがフォークをやろうが土臭いアメリカン・ロックをやろうが渋すぎない、常にフレッシュな魅力をキープしているのもそれゆえ、それがジェイムス・ベイの個性、当然のようにメジャーな存在感ということなのだろう。ほとんどジャズ・インプロと化していた長大なイントロから、ジェイムスが超絶モダンなカントリー・ギターを炸裂させる“Move Together”はこの日の器楽的なクライマックスだった。

「ノー・モア・スロウ・ソングス!」とジェイムスが叫び、ショウはいよいよ最終コーナーに突入していく。彼の宣言通り、再びロックンロール・チューンへと舞い戻っていくパワフルな終盤戦で、『カオス&ザ・カーム』内でもとりわけポップな“Best Fake Smile”、 “Get Out While You Can”へと畳み掛けて大歓声の中フィナーレを迎える。

そして、本編ラストでステージに投げ込まれた日の丸の旗を律儀にアンプに飾ってアンコールへ。オールドスクールなロカビリーでますますクラシカルなギター・ヒーロー然としてきた“Proud Mary”から、待ってましたの“Hold Back the River”!いやあ、本当に曲が粒揃いすぎるよ『カオス&ザ・カーム』!

文句無し、素晴らしい初来日ステージだったけれど、サマーソニックでの再来日も決定し、この夏にはきっと今日のステージが序章にすぎなかったことに気づかされるはずだ。(粉川しの)


〈SETLIST〉
1. Collide
2. Craving
3. When We Were on Fire
4. If You Ever Want to Be in Love
5. Need the Sun to Break
6. Running
7. Let It Go
8. Scars
9. Move Together
10. Best Fake Smile
11. Get Out While You Can

En1. Proud Mary
En2. Hold Back the River
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