筆者もまさにそのパターンで、3度のフェス来日を経てこれが4回目のニュー・オーダー体験だった。そしてこれは嬉しい驚きの私的結論でもあるのだが、これまでのどの公演よりも今回の単独は遥かに素晴らしい内容だった。喩えるならば「初めてニュー・オーダーを100%体験できた」、そういう興奮と感動があったのだ。そしてその興奮と感動の原動力となったのは、間違いなく新作『ミュージック・コンプリート』そのもの、完全体のニュー・オーダーを彼ら自身が奪還したこの新作にこそあると感じられたライヴだった。
オープニングの“Singularity”は『ミュージック・コンプリート』におけるニュー・オーダー・サウンドの復活を象徴するナンバーで、まさに現在の彼らの幕開けに相応しい1曲。シンセ&ベース&ドラムのコンビネーションからなるダンス・ビートにギターとヴォーカルのメランコリーが乗るという、ニュー・オーダーの定型中の定型なサウンドだが、ビートが思いっきり硬質でジリアンのキーボードの鳴りもかなりハード。『ミュージック・コンプリート』に感じられるアグレッシヴなモードはこの日のライヴの全編に影響していたと思う。
続く“Regret”はイントロのギター、あのバーニーの一撃と呼ぶべきストロークに一瞬でヤラれた人も多かったんじゃないか。まさに鮮烈、“Singularity”の憂鬱なビートを突き破るようなそれにうわーっ!と胸が昂り熱くなるのを感じる。そんな冒頭の2曲から“Crystal”、“Restless”あたりまでは新旧のポピュラーな歌物アンセムを畳み掛けていく構成だ。「今プレイしたのは“Restless”、ニュー・アルバムからの曲だ。でも、次にやるのはすごく古い曲だよ」とバーニーが言って“1963”へ。この日のセットは新作『ミュージック・コンプリート』からのナンバーが最多なのは当然として、80年代半ばのナンバーもかなりの存在感だった。『サブスタンス』でニュー・オーダーを初体験したようなアラフォー世代にはぐっとくるセットだったのではないか。
ショウのムードが一変したのが“Tutti Frutti”だ。これまでのポップなアンセムを単発で聴かせていく流れから一転、クラブ、レイヴっぽいシームレスなダンス・モードに突入していく。“People on the High Line”は超絶ファンキーなベースとエスノでフリーキーなリズムを叩ききるスティーヴンのドラムが最高で、激しく点滅するストロボライト、フロアに向けて交錯していくレーザーの演出も猛烈に格好良い!! ライヴハウスの密室で観るニュー・オーダーの醍醐味を噛み締める瞬間だ。でもってバーニーは意外なほど軽やかなステップでダンスしている!
思い返せば、2001年の彼らはとりわけロック色の強いアルバム『ゲット・レディー』のタイミングでの来日だったし、2005年も同路線を引き継ぐ『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』、もっと言えばフッキーの影響力を強く感じた来日だった。そして前回2012年はバーニーたちとフッキーの確執が最悪の状況に陥っていた中での来日だった。つまり過去3回の来日には常になにがしかのバイアスが存在していて、どれも素晴らしいライヴには違いなかったが、同時に「これはニュー・オーダーの一側面なのだろう」という感覚があった。それに対して、今回の彼らはニュー・オーダーの基準値に立ち戻ったと言うか、『ミュージック・コンプリート』によってニュー・オーダーのど真ん中、王道を取り戻した自信と正しさの中でプレイしていて、それが「ニュー・オーダーのすべてをついに観た!」という感動と興奮を生んだのだろうと思う。新作の中でもとりわけハードな“Plastic”は、クラフト・ワークと『エクスターミネーター』期のプライマル・スクリームのちょうど真ん中で鳴っている、みたいなテクノ・サウンドが最高だ。
そしてほとんど反則技だったのが“The Perfect Kiss”、“True Faith”、“Temptation”の本編ラストの3連発!! 初っ端の“Regret”のギター・イントロで胸撃ち抜かれて以降、何度も何度も「もうダメだー!」という瞬間があったのだが、この3連発はさすがに耐えきれず涙が噴出。涙腺が決壊したのはどうも私だけではなかったようで、波打つフロア、絶え間ない歓声と合唱と怒号、集団の祝祭と個人の感傷がミックスされた数千人分の熱が渦巻いて、会場のカタルシスもとんでもないレヴェルに達していた。いやほんとに、“Temptation”でミラーボールが回り始めた瞬間の昂りは制御不能なものがあった。
「ありがとう東京、君らはほんとにファンタスティックなオーディエンスだ」と何度も繰り返していたバーニーだけど、私たちがファンタスティックなオーディエンスだったのは当たり前なのだ。だって、本当に、本当にファンタスティックなライヴだったのだから!27日の追加公演を行こうかどうしようか迷っているあなた、未だ間に合います。ぜったいに、ぜったいに観ておくべきです!約2時間の今回のステージがあなたにとって最高のニュー・オーダー体験となるだろうことを保証します。(粉川しの)
01. Singularity *
02. Regret
03. Academic *
04. Crystal
05. Restless *
06. 1963
07. Your Silent Face
08. Tutti Frutti *
09. People On The High Line *
10. Bizarre Love Triangle
11. Waiting For The Sirens' Call
12. Plastic *
13. The Perfect Kiss
14. True Faith
15. Temptation
En1. Blue Monday
En2. Love Will Tear Us Apart
En3. Superheated *
*最新作『ミュージック・コンプリート』収録曲