SEが全く流れない異様な雰囲気の中、会場が暗転したのは定刻を10分ほどまわった頃。静かにメンバーが入場し、映像が流れ始める。1曲目はもちろん、『アトミック』収録順どおりの“Ether”。そこからドキュメンタリーが進むのに合わせ、粛々と演奏が続けられていく。シンプルかつ厳かなスコアながら、細かいフレーズの変化と、ヒリついたギターが幾重にも張り巡らすレイヤーが、耳を捉えて離さない。しかし、今日の公演の主役は、モグワイではなかった。ステージ上のメンバーが照明を受けることなく、あくまでドキュメンタリー作品の劇伴演奏に徹していたのだ。さらに、映像によっては、数分間ほぼ演奏を止めることも数回あった。例えば、広島への原爆投下のシーン。バンドの良い演奏を聴かせること以上に、映像を際立て、引き立てることを何より優先しているのだろう。その後も、反核のデモ行進、チェルノブイリ、汚染された漁村、そして福島、次々と核を中心に据えた悲痛な歴史が振り返られていく。織り込まれるナレーションもまた、「あっという間に、このロボットは一線を越えるだろう。そこにあるのは生き物にとっての死」や「地球。これに代わるものがあるだろうか」といった、観る者一人一人に核の功罪に対する見地を問うような鋭利なもの。演奏、映像ともに受け手に感傷に浸る猶予さえ与えず、ひたすらにシリアスな現実を突き付け続けるのである。後半には、レントゲンやNMRなど医学や生化学分野での核の多大な貢献が描かれるのだが、その際でも、モグワイの演奏に光が差し込むことはない。さらには、ドキュメンタリー終盤のクライマックスにおいて初めてギターを激しくかき鳴らし、物語の最後まで音を添い遂げさせる中でさえ、その音像は微塵も救いや解放を感じさせることはなかった。核を描くとは、表現するとは、こういうことなのだ。そんな確信と、救い無き重厚なムードを残して、約70分の公演は幕を閉じた。
〈SETLIST〉
01. Ether
02. Fat Man
03. Scram
04. Fat Man 2
05. Bitterness Centrifuge
06. U-235
07. Pripyat (no drums)
08. Weak Force
09. Pripyat
10. Little Boy
11. Roof
12. Are You a Dancer?
13. Tzar
14. Fat Man 3