チープ・トリック @ 日本武道館

前代未聞の試み、前代未聞のコンサートだったと言っていいだろう。

チープ・トリックの代表作であり、後にロック史に残るライブ盤の金字塔となった『at 武道館』は、1978年4月28日に武道館で行われた彼らのコンサートを収録したものだ。今回のチープ・トリックのライブはそんな『at 武道館』から30年後に、同じ場所で、同じセットリストで、30年前のコンサートを再現しようという試みだったのだ。こんな企画は後にも先にも聞いたことがないし、チープ・トリックの『at 武道館』がどれほど強烈な記号性を持ったライブ盤であるかを改めて象徴するイべントだったと言える。

会場となった武道館はほぼフルハウス、ぐるっと会場を見渡すと、30年前の武道館コンサートにも参加していたと思しきリアルタイムの中高年層の姿がやはり目を引くが、同時に若いファンも多く見受けられたのが印象的だった。パワー・ポップの元祖として若手バンド達から熱烈なリスペクトを寄せられる存在だけに、伝説のバンドとしてチープ・トリックを捉えている若い世代も多いということだろう。

19時15分、『at 武道館』のオープニングをまんまなぞったMCと共に1曲目“ハロー・ゼア”がスタート。30代の筆者はもちろん後追いでチープ・トリックと出会い、『at 武道館』を聴いた世代だが、何十回と聴いたこのオープニングが目の前で寸分たがわず繰り広げられる様はどうしようもなく鳥肌モノである。が、結局は事前のアナウンスとは異なり、『at 武道館』のセットリストを完コピするのではなく、“ドリーム・ポリス”や“ザ・フレーム”といった『at 武道館』リリース後のヒット曲もフォローした、オリジナルのセットリストを用意してきた彼ら。『at 武道館』最大の見せ場“愛の罠”⇒“サレンダー”の必殺連打が曲順変更になっていたのは唯一残念だったけど、“ドリーム・ポリス”は正直今夜のパフォーマンス中で最もカッコ良かったし、リアルタイマーも後追い世代も一緒に楽しめる、むしろお得感の強いセットリストだったと思う。

ステージ上の彼らを客観的に観察すると、2008年現在、チープ・トリックがチープ・トリックであり続けていることを心底楽しんでいるのはリック・ニールセンだけのようにも見えた。しかしアンコール後にステージ前方に4人並んで武道館を見上げる感慨深げな顔は、4人ともまったく同じだった。チープ・トリックと日本のファン、そしてチープ・トリックと武道館の間にだけ生じる、マジカルな瞬間がそこには確かにあった。(粉川しの)
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