最新ミニアルバム『ILLMATIC BABY』収録の、クラッシュとニルヴァーナがデッドヒートを繰り広げるような“BROKEN WHITE”に始まり、そこから“夜の子供たち”“foolish”“ジェニファー’88”“FADE TO BLACK”……と息つく間もなく畳み掛ける。ここで「雨がすごい降ってますよ」と木下理樹の声に、ようやくフロアが魔法が解けたようにほっと肩の力を抜く。「ART-SCHOOLのライブの日は、いつも雨がすごくて……」と、ダイナミックなサウンドと裏腹にもぞもぞ話す理樹の姿に、ファンがくすくす苦笑するのも、もはやお馴染みの風景だ。
さらに“DIVA”“ロリータ キルズ ミー”など触ると切れそうな衝動ぶん回し的な楽曲を連射。「ここからちょっと静かな曲を連発していくので……どんよりしてください(笑)」という理樹の言葉から始まった“ステートオブグレース”“1965”“LOST IN THE AIR”といったスロウ・ナンバーのパートは、さながらピロートークの時間、といったところか。チューニングの際、「なんかしゃべれば?」と突如メンバーに無茶振りしたり、「この日のために生きてきたようなところあるから。よし! ではみなさんのために、死ぬ気で……今日は死ぬ気でやります」と大風呂敷を広げてまたも苦笑を買ったり……どうもMCになるとネジが外れたようにぎくしゃくしてしまうが、そこから再び“エイジオブイノセンス”“車輪の下”などの楽曲を演奏し始めた途端、一気にグランジの嵐が吹き荒れる。
「僕らずっと、ベスト盤(『Ghosts & Angels』)とミニアルバム(『ILLMATIC BABY』)のツアーをやってて。いろんなバンドとやって、すごく刺激になったんですけど……」と理樹。「僕ら8年目なんですが、ベスト盤を出すってのが、どういうタイミングがいいのかよくわかんなかったんですけど。『新譜と一緒に出すのがいい』と思って……もうね、生きることで限界いっぱいですよ。2004年ぐらいから、鬱病みたいな曲しか書いてなかったんですけど、それが実ってきてる気がするんです。『トップランナー』とか出てみたいですね(笑)……うん、『トップランナー』出てみたいです」。MCの脈絡はともかく、ベスト盤&ミニアルバムを出してツアーを回った今、ART-SCHOOLが大きな果実を掴みかけていることだけは確かに窺える。そんなモードだ。
DOPING PANDAのロックスターことYutaka Furukawaプロデュースの、ART-SCHOOL流4つ打ちディスコ・ファンク“ILLMATIC BABY”が手拍子をフロア全体に広げ、5%のジャンプは20%ぐらいになり、だんだんオーディエンスの身体をフィジカルに揺り動かしていく。“サッドマシーン”“UNDER MY SKIN”“あと10秒で”の稲妻のような3連打で、本編は終了。アンコールで“君はいま光の中に”“Boy Meets Girl”“スカーレット”SWAN SONG”をさらに生き急ぐような勢いで演奏した後、2度目のアンコールで登場した理樹が再びMC。「次で29曲目ですよ(笑)。30歳になったんですけど、体力的にも精神的にも失うものが大きくて……」。再びフロアからくすくす笑いが起こる。しかし、「ずっと同じことをやってるイメージが僕らにあったと思うんですけど……変わりたいなって。それは、ファンを置き去りにするってことじゃなくてね」と、最後の最後で理樹の胸の内で揺れている静かな炎をオーディエンスに覗かせていた。
最後の曲は“しとやかな獣”。≪美しい、しとやかな獣よ/貴方は汚れたままでいい≫――背徳感と愛情と衝動がコングロマリット化した、日本ロック・シーン唯一無二の静かなるビースト、ART-SCHOOL。その真髄を目の当たりにした一夜だった。(高橋智樹)
1.BROKEN WHITE
2.夜の子供たち
3.foolish
4.ジェニファー’88
5.FADE TO BLACK
6.エミール
7.リグレット
8.DIVA
9.左ききのキキ
10.ロリータ キルズ ミー
11.ステートオブグレース
12.1965
13.プールサイド
14.LOST IN THE AIR
15.斜陽
16.JUNKY’S LAST KISS
17.エイジオブイノセンス
18.車輪の下
19.Real Love/Slow Dawn
20.ILLMATIC BABY
21.サッドマシーン
22.UNDER MY SKIN
23.あと10秒で
アンコール
24.君はいま光の中に
25.BOY MEETS GIRL
26.スカーレット
27.SWAN SONG
アンコール2
28.しとやかな獣