昨夜のブリッツ公演は、新作『スロウダイヴ』のナンバーと彼らのシューゲイザーの筆頭格としてのポジションを決定づけた名作『スーヴラク』(1993)のナンバーを中心に、オールキャリアを網羅したセットリストが組まれたショウだった。そしてそれは、90年代から彼らを追い続けてきたハードコアなファンも、2000年代のエレクトロニカや2010年代のニューゲイザー経由で彼らを発見した若いファンも、恐らく同レベルの昂揚と興奮を共有できたパフォーマンスだったのではないだろうか。何故なら、新作『スロウダイヴ』が明らかにしたのはまさに「時代が彼らに追いついた!」と宣言すべき、スロウダイヴのまったく古びない音響感覚だったからだ。2017年には彼らの他にもライドやジーザス&メリーチェインなど、轟音ノイズ、シューゲイザーの元祖と呼ぶべきレジェンドが立て続けに新作をリリースした年だったが、スロウダイヴの新作はその中でもずば抜けてレトロスペクティヴの意味合いが希薄で、ニューゲイザーや現在のドリーム・ポップ、アンビエント・ポップ勢の原型と呼ぶよりも、もはや同列に並び評するべきモダンな傑作だった。
そんなスロウダイヴのモダンさは、この日のライブでも明らかだった。90年代のシューゲイザーには壁を塗り込めていくような高密度の轟音に圧倒され、滅私していく感覚があったが、スロウダイヴのそれはむしろ高密度の轟音がうねり、漂ってなお充分な余白を感じさせる空間に陶酔する感覚で、これこそがエレクトロニカやアンビエントを内包したニューゲイザーの音響の美観であり、それが彼らの場合は“Catch the Breeze”のような初期のナンバーのプレイにも、既に標準搭載されているのだ。特にそのキーになっているのがドラムスで、“Crazy For You”ではユーフォリックな音の大波を生み出し、ブレイクビーツのような“No Longer Making Time”のビートはビキビキに冴えたグルーヴに直結している。過去2回の来日はフジロックでのステージであり、つまり今回の初単独来日は、スロウダイヴのステージを初めて室内で、密室で体験できた機会でもあった。 “Souvlaki Space Station”のシンフォニックなディレイ・ギターも、“Catch the Breeze”のフィードバック・ノイズも、反響に反響を重ねて身体をすっぽり包み込まれるような圧倒的な体験だ。声が掠れてしまっていることを謝っていたレイチェルだったが(風邪気味だったらしい)、そのぶん器楽的な要素に集中して酔えたパフォーマンスでもあった。
今夏のフジロックのセットはぎゅっと45分にまとめたダイジェスト版で、緩く淡いアンビエンスの前半と、急転直下の轟音カタルシスの後半と、明確なコントラストを持ったプレイだった。それと比較すると、この日の彼らは余裕を持ってなだらかな緩急を描き出していくプレイだ。“Souvlaki Space Station”、“Blue Skied an' Clear”と、ニールのギターのチューニングが狂って2曲連続で仕切り直したのはご愛嬌(「25年もやってるのに…」とレイチェルも思わず苦笑い)、後半は徐々に視界がクリアになっていくように、メロディアスな懐かしのアンセムが懐かしいはずなのにまったく古びておらず、艶やかに瑞々しく流れ出す。“Alison”をこの2017年に改めて聴くと、彼らが20年以上前にザ・エックス・エックスのヒントを既に示していたことに興奮してしまうのだ。本編ラストは近年の定番となっているシド・バレットの“Golden Hair”のカバー。原曲がどシンプルなだけに彼らの自由裁量でいくらでも飛躍が可能で、毎回インプロ的に変化していくナンバーなのだが、今回は約8分に収束していくタイトなプレイだった。再結成、そして新作と共にさらっとシーンの最前線に戻ってきた、現役バンドとしてのスロウダイヴのこれからが楽しみになる、若々しいエンディングだった。(粉川しの)
〈SETLIST〉
Slomo
Slowdive
Crazy for You
Star Roving
Avalyn
Catch the Breeze
No Longer Making Time
Souvlaki Space Station
Blue Skied an' Clear
When the Sun Hits
Alison
Sugar for the Pill
Golden HairEncore:
Don't Know Why
Dagger
40 Days