【来日レポ】パラモア@ Zepp Tokyo公演


前回の来日公演は8年前。以降、パラモアは世界的地位を確立し、前作『パラモア』は全米チャート1位を獲得、収録楽曲“Ain’t It Fun”はグラミー賞最優秀ロックソング賞を受賞した。しかし華々しいキャリアの裏で、メンバーチェンジの問題に悩まされ続けていたこともまた事実だ。2010年にジョシュ・ファロ(G)とザック・ファロ(Dr)の兄弟が脱退、2015年にはジェレミー・デイヴィス(B)までもがバンドを離れた。昨年ザックが復帰するまで、ヘイリー・ウィリアムス(Vo)とテイラー・ヨーク(G)はふたりでの活動を余儀なくされていたのだ。

今回ステージに立ったのは、ヘイリー、テイラー、ザックに加え、Justin York(G)、Rogan Mackenzie(G・K)、Joey Howard(B)、Joseph Mullen(Per)という4人のサポート陣。その豊潤なハーモニーと観る者を圧倒するダイナミズムは凄まじく、仮にパラモアが結成以来のパーマネントバンドであればこのような編成になっていないわけで、むしろこれで良かったのだと、傷だらけの歩みさえ全力で肯定するような熱演をブチかましていたように思う。

オープニングを飾ったのは最新アルバム『アフター・ラフター』の1曲目“Hard Times”だった。自由奔放に踊りまくりながらポップな旋律を歌うヘイリー、しきりに首を振りながら瑞々しいフレーズを奏でるテイラー、バンドの一部であることを謳歌しながら豪腕ドラムを響かせるザック。彼女たちの楽しそうな姿と、16分音符を巧みに配した2018年のスタジアムアンセムが放つパワーに、観客も初っ端から盛大な掛け合いで応えている。

続いて“Ignorance”、“Still Into You”と懐かしいナンバーを連続投下、会場の狂騒をヒートアップさせていく。中盤ではさらに昔の“That’s What You Get”なども披露された。ここで証明されたのは、彼女たちの音楽が一貫しているということだ。例えば『アフター・ラフター』はシンセポップの冒険作である、といった言説はまったく意味をなさない。なぜならパラモアは本質的に初めからポップであり、シンセ風サウンドもあくまでギターで鳴らすなどバンドという形態にこだわっており、歌い続けているのは常に「人生」だからである。

後半のほとんどを占めた『アフター・ラフター』の楽曲、その歌詞はヘイリーの苦悩に満ちている。《It only makes me want to die》(“Caught In The Middle”)、《Oh, it's such a long and awful lonely fall》(“Idle Worship”)。実際、近年の彼女はうつ状態に苦しみ、命の炎が揺らいでしまうほど思いつめ、2015年の一時期はバンド活動からも遠ざかっていた。だからこそライブで天真爛漫な笑顔を見せ、音に身を任せ、心から楽しみながら歌う彼女の姿からは、今この瞬間を全身全霊で生きてるんだ!というエナジーが溢れている。

「Cry hard, Dance harder.」、これが彼女のモットーだ。ロックは何も解決してくれないけれど、メジャーキーの明るさが気分を高揚させ、バックビートが身体を揺らし、空っぽの頭でただただ踊らせてくれる。その陽性の原理を一身に体現し、時にはお茶目におどけながら、誰かの人生を変えるほど大きなパワーを与えてくれる。それがヘイリーというアーティストの比類なきアイコン像なのである。

「最初のデモは東京で作ったの」と明かした“Misery Business”で観客をステージへ上げる恒例のパフォーマンスを繰り出し、“Ain’t It Fun”で圧巻の締め。颯爽と濃密な本編を駆け抜けると、アンコールではザックのボーカル曲“French Class”をサービスした。最後に届けた“Rose-Colored Boy”の直前、ヘイリーは「Tonight, you are TOKYO, and you are PARAMORE」と言った。ロックがど真ん中にいない時代だからこそ、バンドが持つ誇り高い矜持は輝きを増し、また分断の世界だからこそ、人々を繋ぎ合わせるポピュラーミュージックの魔法は強固なものとなる。そのことを、この日のパラモアが教えてくれたような気がする。(秋摩竜太郎)

〈SETLIST〉

Hard Times
Ignorance
Still Into You
Forgiveness
Fake Happy
That's What You Get
I Caught Myself
Pool
Hate to See Your Heart Break
Caught in the Middle
Told You So
Idle Worship
No Friend
Misery Business
Ain't It Fun
Encore:
Grow Up
French Class ※HalfNoise cover
Rose-Colored Boy