まだこれから東京&大阪で2公演が控えているので、以降のレポートの中でセットリストなどのネタバレ等がある点をご注意ください。
しかしこれだけは最初にお伝えしてきたい。とにかく、最高のセットリストだったのだ! 今回のフェニックスのツアーは彼らのキャリアを網羅したベストヒット・セットであり、会場のすべてのファンを等しく笑顔にする、開かれたエンターテイメント・ショウだった。
昨年のサマソニでのステージがフェス・セットとしてコンパクトに纏まっていたのと比較すると、彼らの時代ごとの歩みが起伏と共に蘇る、長年のファンにとっては感無量のステージだったのではないか。ちなみに、来日の初日ゆえの助走、様子見の時間をまったく必要としないショウでもあった。バンドもファンも、まるでこの日のために各自ウォーミング・アップを続けてきたかのように、最初から温まった身体と阿吽の呼吸、そして互いへの信頼が感じられた一夜だった。
今回の来日は昨年リリースの『ティ・アーモ』を引っさげての新作ツアーで、ショウの冒頭を新作のオープナーである“J-Boy”が飾ったように、『ティ・アーモ』の楽曲が中心に据えられたセットだったのは間違いない。けれど、完全な新作モードのショウだったと言ってしまうと少しニュアンスが異なる。それは、カラフルなシンセのレイヤーで描き出されるエレクトロ・ダンス、ディスコ・ポップに舵を切った新作ナンバーのチアフルなグルーヴ感覚が、ソリッドでアンセミックな過去作のギター・ポップを一層際立てるという、互いのコントラストが相乗効果を生むパフォーマンスだったからだ。
レインボー・カラーのライトが淡く瞬く中で徐々にクリアな輪郭が浮かび上がっていった“J-Boy”のシンセ・ポップから一転、つんのめったドラム・イントロと共にトップスタートで駆け出した“Lasso”、その勢いをさらに煽るコーラス、激しく点滅するフラッシュと早くもクライマックスの盛り上がりを記録した“Entertainment”、そしてイントロ一発で大歓声が巻き起こった“Lisztomania”と、フェニックスのギタポ側面の二大傑作『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』、『バンクラプト!』のナンバーに転じた冒頭の流れが、まさにそのコントラストの勝利を告げていた。
「ドウモ、サンキュー、メルシー」とトーマスが彼ららしい3ヶ国語で挨拶、“Trying To Be Cool”のシンセは無限音階を駆使したドリーミー&サイケデリックな展開に。そして初期の名曲“Everything Is Everything”はファンク・ギターとポリリックなリズムを押し出したポスト・パンク風のアレンジで、以降の中盤はフェニックスのポップ・ソングの美観を解体&再構築していくような即興的セクションになっていった。特に “Sunskrupt!”に至る流れ、四つ打ちのハウスからポスト・ロック、アンビエンスと移り変わっていくインスト・ジャムは圧巻だ。
そしてそんな中盤のアヴァンギャルドの霧を突き破るように始まった“Ti Amo”以降の後半は、迷いなき豪速球のアンセム連投だ。“Armistice”ではパンク・ロックのライブのような縦ノリのポゴ・ダンスが巻き起こり、「思いっきり騒いでシンガロングして!」とトーマスが煽った“If I Ever Feel Better”はこの日一番の大合唱になった。インタールードのギター・ソロといい、ヘヴィ・ベースとバスドラが地を這いフロアを揺るがすリズム・セクションといい、器楽的には完全にラウド・ロックのそれなのだけれど、あくまでメロの鳴りはスウィートで洒脱、そして軽やかであり続けているというのがフェニックス流ポップのすごさだ。
アンコールではファンに手渡された大きな日の丸をバスドラに丁寧に飾り、トーマスとクリスチャンの2人きりのパフォーマンスで冒頭をしっとり仕切り直すという再びのコントラストの演出で、“1901”で最高のクライマックスを達成! フェニックスのライブは常に幸福な一体感に包まれる余韻が約束されているが、オール・ラストの“Ti Amo Di Più”ではトーマスがフロアに降り立ち、会場のど真ん中でファンを煽り、観客に身を任せてダイヴを繰り出し……と、まさにバンドとファンが一体となって互いを祝福する中での最高の幕切れとなった。(粉川しの)
<SETLIST>
J-Boy
Lasso
Entertainment
Lisztomania
Trying To Be Cool
Role Model
Everything Is Everything
Rally
Too Young
Girlfriend
Sunskrupt!
Ti Amo
Armistice
If I Ever Feel Better
Rome
(encore)
Telefono
Fior Di Latte
1901
Ti Amo Di Più