ポルノグラフィティ/NHKホール

ポルノグラフィティ/NHKホール

●セットリスト
01. 夜間飛行
02. Montage
03. 真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ
04. ワールド☆サタデーグラフティ
05. ダリア
06. ネオメロドラマティック
07. メリッサ
08. Working men blues
09. 170828-29
10. 君の愛読書がケルアックだった件
11. クリスマスのHide&Seek
12. カゲボウシ
13. インプロヴィジョン〜月飼い
14. Part time love affair
15. Fade away
16. Rainbow
17. ギフト
18. THE DAY
19. ハネウマライダー
20. キング&クイーン
(アンコール)
EN1. カメレオン・レンズ
EN2. ジレンマ


ポルノグラフィティは、今年デビューから19年目を迎えており、来る20周年に向けて充実のシーズンを迎えているように思う。常に日本のミュージックシーンでトップクラスのポピュラリティと楽曲のクオリティを期待され、それに応え続けてきた彼らだからこそ、きっと「続いていくこと」の重みをいつだって感じてきたはずだ。「自分たちのやりたい音楽」を「より多くの人に受け入れてもらう音楽」として完成させること──シンプルに言ってしまえば、理想として思い描くサウンドを追求することと、1人でも多くリスナーの気持ちをつかむこと、その両立を決して諦めないアーティストだけが、ポップシーンの最前線に立ち続けることができるのだと思う。そして、昨年11月からスタートした、彼らの15回目の全国ツアー「15thライヴサーキット “BUTTERFLY EFFECT”」でのステージは、まさしく彼らのその覚悟が示されたかのようにエネルギッシュで、それでいて、洗練されたステージ運びは彼らがこれまでのキャリアで得た自信を存分に感じさせるものだった。

約2年ぶりに行われたツアーは全国39公演が組まれ、3月20日の神戸公演でファイナルを迎える予定だった。しかし途中、岡野昭仁(Vo)のインフルエンザ罹患により、3公演が中止を余儀なくされ、それぞれ振替公演が実施されたため、最終的には4月29日のパシフィコ横浜での公演が、ツアーのラストとなった。筆者は1月31日の東京・NHKホールでのライブに足を運んだのだが、今改めて、その日、備忘録的に書き付けた感想を整理しながらまとめているところである。というわけで、想定以上に「15thライヴサーキット」は長期に及ぶツアーとなったわけだが、ツアータイトルにもなった、昨年10月リリースのアルバム『BUTTERFLY EFFECT』からの楽曲はもちろん、過去曲もランダムに交え、現在のポルノの強みを濃縮したようなライブは、約3ヶ月を経た今でも鮮明に記憶に残るものとなった。

ポルノグラフィティ/NHKホール

ツアー中盤の東京公演。開演前からステージに降ろされた紗幕に、グラフィカルな映像が映し出されていく。「BUTTERFLY EFFECT」のアルファベット文字、飛行機の映像、岡野昭仁と新藤晴一(G)のものと思われる2人のシルエット画像。やがて飛行機の離陸を思わせる音像とともに、2人のシルエット画像が実写に代わり、その映像に重なるようにしていつの間にか紗幕の向こうに岡野と新藤が並び立つという、とてもクールな演出でライブはスタートした。そう。最新アルバム『BUTTERFLY EFFECT』に収録された、“夜間飛行”での幕開け。さらには2人の顔がモンタージュのように交わりながら映し出されると、同じく最新作から“Montage”へ。ダークでハイパーなエレクトロサウンドにバンドサウンドが融合した楽曲で、その厚みのあるサウンドにも霞むことのない強い強い声が突き刺さる。さらに畳み掛けるように“真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ”で疾走感抜群のギターロックサウンドを浴びせ、序盤からクライマックス級の展開。まるで「これが今のポルノだ」と突きつけるような激しさに、曲が終わったあとも、しばらく客席のざわめきは収まらなかったほど。

アルバム曲に圧倒されつつ、その後は“ワールド☆サタデーグラフティ”、“ダリア”と、過去のシングルのカップリング曲をピックアップするなど、まるで『BUTTERFLY EFFECT』という最新作が、過去のポルノの楽曲にまで再びのエネルギーを注ぎ込んだかのような流れが素晴らしい。「まだまだ攻撃の手はゆるめません!」と“メリッサ”を披露すると、そのはじけるようなバンドアンサンブルに会場中が身を預ける。その様子を受けて、岡野も「ええ感じじゃないですか! さすが東京!」と笑顔で語りかけた。

最新アルバムに『BUTTERFLY EFFECT』と名付けた理由について、新藤がとてもわかりやすく語ってくれた。日々、世界中で新しい曲が生まれて、それこそ何十万曲、何百万曲とストックされていく中で、自分たちの曲がそこに1曲追加されたとして、それがどうなるというのか──。そんなことを考えることがよくあるという。でも「すでにそこに海があるから雨が降らんでいい理由にはならんから」と。蝶の一羽ばたきが、いつしか大きな風を起こすように、自分たちの音楽が、たとえほんの雨の一滴だとしても、それがやがて海へとたどりつくのだと、このアルバムとツアーのタイトルに込めた思いを言葉にしていく。そして「こっからはアルバムの世界にどっぷりと」と、再び『BUTTERFLY EFFECT』の楽曲を立て続けに披露する。“Working men blues”で聴かせるブルージーなロックンロール、“170828-29”の不穏でヘヴィなバンドサウンドなど、改めて、最新作は「攻め」の楽曲が多いことにも気づかされる。ライブ演奏で、よりその先鋭性が浮き彫りになったように感じた。

一転、スクリーンに森を思わせる映像が映し出されると、岡野がひとり、アコギを抱えて座る。「こうやってバンドで歌うようになって20数年が経つわいね」と、過去を振り返りながら、自身の声について思うところを語っていく。「岡野さんの声は滑舌が良くて聴き取りやすくていいですね」と言われて、「わしみたいな調子乗りは、その言葉の上にあぐらをかいてしまう。それに気づいたのが4年前」だという。そしてボイトレにも通い始め、「歌の扉がまた開いた気がする」と。でも「それで意気揚々と歌っていた自分」がいて、「昨年『Amuse Fes』に出たときに、Perfumeの“ポリリズム”を歌った」が、その様子をたまたまテレビで見たという「尊敬する大先輩」のスガ シカオから「あの曲は、そんな青筋立てて歌うような曲ではない」と、辛口の感想をもらったことを明かした。そして「やさしく、一歩引く」ことも重要だと気づかされたのだと。「今日はその成果を聴いてもらおうかな」と言って、“カゲボウシ”の弾き語りを披露した。あたたかく、やさしい歌声が会場中に響いて、彼の歌声の表現力に圧倒される。そのじんわり温かい温度の中、新藤によるポエトリーリーディングから“月飼い”へ。シングル『メリッサ』のカップリングだった曲だが、このスケール感のある厳かなロックサンドが不思議なエネルギーを会場中に充満させていくのを感じた。思えばこの日は、「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」と呼ばれた皆既月食の起こった日であり、ちょうどこの時間、月食が始まりつつあることが思い出したりして、より幻想的な気分にもなる。

ライブの終盤は、アルバム曲と過去曲とが交互に繰り出されながら、現在のポルノのモードをアグレッシブに見せつける展開だった。そんな中で、約10年前にリリースされたシングル曲“ギフト”は特に感動的に響いた。様々な逡巡を繰り返して今ここにいることを、すべて肯定するようなポジティブな響きだった。そしてコール&レスポンスが最高潮に達した“THE DAY”、会場中のタオルがぶんぶんまわる“ハネウマライダー”、さらに完璧なシンガロングとクラップで応えた“キング&クイーン”。高揚感を色濃く残したまま本編は終了した。

ポルノグラフィティ/NHKホール

アンコールは、「3月21日にリリースした新曲を」と、“カメレオン・レンズ”を1曲目に。音数は少なめながらウラのリズムが心地好い、ポルノグラフィティの新機軸と言える楽曲。実験的なエレクトロサウンドと女性コーラスのシーケンス。デビュー20周年を前に、まだまだ攻めていくというブレない姿勢を見た気がした。そして、最高のサポートメンバーやスタッフがいるからこそ、こうしてステージが作られていると、岡野は感謝の気持ちを語る。「でも一番最後の1ピースは、みなさんが楽しんで、汗かいて、笑ってくれること。その1ピースが今日もしっかり埋まったと思います。ありがとう」と、最後の曲“ジレンマ”へ。強烈なドライブ感を醸し出す新藤のギターサウンド、そして各パートがつなぐエンターテイメント性も満載の豪華なソロまわし。さらにソウルフルな岡野の声。1曲の中にポルノグラフィティの魅力が濃縮されたような演奏に、オーディエンスのレスポンスもさらなる熱狂を帯びる。その様子に岡野は「あんたら最高じゃないか!」と叫んだ。

過去も未来も、すべてポルノグラフィティの「今」に集約させたライブはこうして幕を閉じた。ハイタッチやハグでサポートメンバーを送り出したあとも、ステージに残った2人は客席の隅々にまで手を振って、ずっとその光景を目に焼き付けているかのようだった。そしてその熱気のまま会場を出ると、夜空にはまさに見事な月食が進行中。誰もがしばし足を止めて、静かに今日のライブの余韻に浸るように、その月を見上げていた。これから20周年へと向かうポルノグラフィティ。さらなる加速が期待できそうだ。(杉浦美恵)
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