クリープハイプ/日本武道館

クリープハイプ/日本武道館 - All photo by SHINTO TAKESHIAll photo by SHINTO TAKESHI

●セットリスト
1. ねがいり
2. 寝癖
3. おやすみ泣き声、さよなら歌姫
4. オレンジ
5. エロ
6. 左耳
7. ABCDC
8. 火まつり
9. 鬼
10. おばけでいいからはやくきて
11. ウワノソラ
12. さっきはごめんね、ありがとう
13. ボーイズENDガールズ
14. 大丈夫
15. 明日はどっちだ
16. イノチミジカシコイセヨオトメ
17. 手と手
18. ラブホテル
19. かえるの唄
20. 憂、燦々
21. HE IS MINE
22. 社会の窓
23. イト
24. 栞
(アンコール)
En 1. なぎら
En 2. 二十九、三十
WEn 1. 愛の標識


5月11日に、クリープハイプの日本武道館単独公演「クリープハイプのすべて」が行われた。2014年に行われた2デイズ公演から約4年振りに武道館のステージに立つこの日、ソールドアウトで迎えられた満員の会場からは、レコード会社移籍などの紆余曲折ありつつも歩んできた4年間で着実に培ってきたものはバンドの自信のみならず、ファンとの絆もまた同様に強く育てられていたということがひしと伝わってきた。

クリープハイプ/日本武道館

そんな期待感に満たされた会場に開演を示唆するアナウンスが流れ、注意事項を列挙した後に「まずはこちらをご覧ください」との声を合図に、ステージ背面に設置された大型スクリーンがパッと点灯。流れたオープニング映像に開演前からかなり笑わせてもらったが、大歓声の中でステージに登場した小泉拓(Dr) 、小川幸慈(G)、長谷川カオナシ(Ba)、尾崎世界観(Vo・G)の4人は至ってクール。

そのギャップ故に少しばかり緊張した空気が漂った会場に向かって尾崎が「今日は何でもないただの日だ、その日を最高にしましょう」と声を投げかけ、“ねがいり”で幕を開けた。この日この場に戻ってくるまでの積年の想いがぎゅっと込められた歌い方だったということと、1曲目がバラードという意外性も相まって、たった1曲が終わったばかりにも関わらず終盤に差し掛かったような雰囲気が漂った。

そんな会場の雰囲気を察してか尾崎は「こんな最高な空間で、あと823曲も演れるなんて幸せです」との冗談を踏まえつつ、「前回の武道館で一番最後に歌った曲。あれから4年以上経って、本当に白髪が生えてきました」と“寝癖”をプレイ。この“ねがいり”、“寝癖”の2曲は前回の武道館公演のラストに演奏した曲ということもあり、そこからまたスタートさせる4人の決意に背筋が伸びる思いだった。

そこから「だらだらしている時間はありません!」との尾崎の一喝から“オレンジ”や「ここまで、色んな女にお世話になりました。ここにいる女の歌を歌います」との言葉からの“左耳”など代表的楽曲を惜しみなく連発。長谷川がリードボーカルを務める“火まつり”ではスクリーンに業火が映し出され、火よりも“鬼”が怖い、それよりも迷子が怖いから“おばけでいいからはやくきて”、でも一番怖いのは嘘だという流れで“ウワノソラ”へと綺麗に繋げた。

クリープハイプ/日本武道館

尾崎は昔働いていたバイト先での苦い思い出を回想しつつ、「今は生活しやすくなったけど、悔しくて許せなくて、そういう気持ちをなんとかごまかしてやらなきゃいけない瞬間が今でもいっぱいあります。誰かが損をして、受け容れて、その苦しさや怒りはどこへいくのかなとずっと考えています。クリープハイプはそういうことを歌にしているし、世の中が無かったことにしている小さい思いをいつも歌っています。クリープハイプはそれを全部、受け止めます。……大事な曲を歌います」と届けられたのは“明日はどっちだ”。

そしてイントロと同時に再度スクリーンに映し出されたのは、電車の窓から見えるごくごく普通の沿線風景だった。ふと思い立った瞬間に携帯を取り出して撮ったような、言ってしまえば誰にでも撮れるようなその動画がやけに綺麗に見えたのは、映像から感じられる日常感や温もりが、クリープハイプらしさを表しているように思えたからだろう。

本公演の宣伝広告に「何が、世界観だよな」との一文が書かれてあったが、まさにそうだ。彼らは「世界観」だなんて言葉で括るような大それた規模感や感情を歌ってここまで歩んできたわけではない。いつだって「誰もが思っているけれど、誰も言わないこと」をはっきりと言葉にし、メロディにし、4人で鳴らしてきた。「嬉しくて最高です。生まれ変わってもクリープハイプをやりたいなと思いました」と歌詞をもじって歌った“イノチミジカシコイセヨオトメ”や「今日喋り過ぎたのは、夏のせい」からの“ラブホテル”など、そういった言葉選びのセンスは光ってはいたが、それ以上に自分たちの音楽を自分たちらしく鳴らせるという解放感と歓びを纏う4人の姿が眩しかった。

クリープハイプ/日本武道館

そんな幸福感を散りばめながら、「ヒット曲を連発してトドメ刺します」との尾崎の言葉通り、「神聖な場所だから絶対言わないで」とのフリから「セックスしよう」の超特大シンガロングを巻き起こした“HE IS MINE”や “イト”を経て、会場上空を埋め尽くすほどの紙吹雪が舞う中での“栞”(ラジオ局のキャンペーンの一環として尾崎が書き下ろした同曲、「バンド以外のところで盛り上がってる」とぼやく辺りがなんとも彼らしかった)を以て本編の幕を閉じた。

クリープハイプ/日本武道館

熱望されたアンコールに応えて再登場した4人は、疾走感ある“なぎら”をプレイした後、今秋にアルバムリリース&全国ツアーを発表! 会場から歓喜の大歓声が上がるなか、「今が一番いいっていう自信があります、って当たり前のように言うんだけど。次のアルバムが本当に大事なもので、このアルバムを作るために色んなことがあったんだなと思ったら全部チャラにできます。最後は前に進んで終わります」と“二十九、三十”を届け、さらに呼ばれたダブルアンコールでは「君の故郷を代表するバンドでありたいです」と“愛の標識”を歌い切り、バンド史上最高演奏数を誇る本公演を堂々と締め括った。

ラストの“愛の標識”プレイ時、尾崎は《死ぬまで一生愛されてると思ってたよ》の歌詞を《死ぬまで一生愛されてると思ってるよ》と替えていた。その変化はこの場に集ったファンに対する彼らなりの信頼表明なのだろうなと思ったし、例え皮肉っぽいことや尖ったことを歌っていても、自分たちの音楽に対して、自分の気持ちに対して、クリープハイプはいつだって純粋で真っ直ぐだ。そんな彼らの未来を、死ぬまで一生見ていきたいと思えた夜だった。(峯岸利恵)
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