髭(HiGE) @ リキッドルーム恵比寿

髭(HiGE) @ リキッドルーム恵比寿 - 髭(HiGE)髭(HiGE)
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「今日は13日の金曜日だよ! 2ヶ月連続で13日の金曜日だよ! 今年は11月もそうなんだってね。この大変なのが、1年に3回もあるなんてね(笑)。微妙に驚いてます」と須藤寿はMCで苦笑していたが、13日の金曜日といえば、ロックンロールの愉快な囚人にして異端児=髭(HiGE)の恒例ライブ企画「CLUB JASON」の日! というのは、髭ファンならずともライブ好きな方にはそろそろ浸透していることと思う。が、今日のライブはひと味もふた味も違った。

まずステージング。蛍光グリーンや蛍光ピンクの飾りがついたツナギを着た5人の出で立ちよりも、ウサギの仮面の謎のDJ=DJシラフよりも、最初に目を奪われたのは、須藤寿がステージのセンターに立っているメンバーの配置だ。これまで頑なにステージ下手(フロアから向かって左側)の端からがなり続けてきて、そのスタイルを年末フェス=COUNTDOWN JAPAN 08/09の最大のステージ=EARTH STAGEでも通してきた須藤が、だ。終演後に「ずっと前に、大阪で1回だけやったけど、その時は『なんか違う』って言ってたんだけど、(新作の)PVの時にセンターに立ってみたら『あ、これだな』って」と本人も語っていたが、何はともあれ最初の瞬間から「あ、今日はスペシャルな日だ」という感覚がフロアに広がっていたことは事実だ。

そして選曲。久しぶりに飛び出した“有限の脳でマスターベーション”のねっとりしたブルースで幕を開け、“僕らのさいご”“ママ’s理論”で徐々に、しかし確実に温度を上げていく。まるでリキッドルーム全体がじわじわ釜茹でにされているように、誰1人取りこぼすことなく、確実にだ。そして「今日は待ちに待った13日の金曜日だよ? 楽しんでいこう!」という須藤の言葉を合図に、“ドーナツに死す”“黒にそめろ”“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”といった瞬間沸騰必至のロックンロールを畳み掛ける。この時点ですごい熱気! 昔、彼らがよくライブやってた三軒茶屋へブンズドアの、狭いフロアにもうもうと立ち込める熱気を思わせる暑さだ。踊ったり、ゆらゆら揺れたり、拳を上げたりしながら、誰もがすっかり熱にやられたように、髭の音楽を全身で謳歌している。最高だ。

当初、髭というバンドのロックは、どこかオーディエンスの「裏」をかくことに力を注いでいたようなところがあった。パンクやダンス・ロックなど特定のシーンの恩恵も受けることなく、鮮やかにロックとリスナーを裏切っていくことで、胸のすくような爽快なロックたりえてきたし、多くのファンの支持を集めて音楽シーンの表舞台に立つ存在になった。が、いざ彼らが「みんなの『裏』をかくのはそろそろやめて、『表』で行ってもいいんじゃない?」と思った時、彼ら自身にとってどっちが表なのかがわからなくなっていた。髭がストレートな表現をするのは、実はリスナーにとっては「裏」をかく行為なんじゃないか? 今まで通り、「裏」をかき続けることが、自分たちにとっての「表」なんじゃないか?――メジャーに進出してからの彼らの歴史は、ひとえにその葛藤の歴史だったと言ってもいい。

が、ここにきて彼らは、「裏」であることも「表」であることもやめた。というか、そんなものは関係ない、という境地に始めて至った。もともと楽しさ満載で中毒性の高いロックを鳴らしていた髭が、裏表ないサービス精神でもってオーディエンスをどろーんと巻き込みにきたのだ。だから、観ているこっちも「今日は表モードか? 裏モードか?」などとハラハラする必要はなかった。オーディエンス個々のモードが表だろうと裏だろうと関係ない。あれええええとばかりにその快楽に全身漬かってしまえばいい……そんな懐の広さが、この日のステージにはあった。昨年の40分1曲アルバム『Electric』をはじめとする「バンド解体新書」期間を経て、そんなモードになったのかもしれない。違うかもしれない。とにかく髭は、確実に1歩も2歩もステップアップしていたのだ。

“王様はロバのいうとおり”ではモアイのできそこないみたいなかわいいゾンビの仮面をかぶったダンサー(?)がステージを埋め尽くし(しかも、その人数もご丁寧に「13人」だ)、続く“ギルティーは罪な奴”ではそこにガイコツ男とフランケンと……『ムーミン』のニョロニョロみたいな変なのが加わって、コテイスイと一緒に曲に合わせて手を振っている。それにフロアも全力で応える。モンスターとゾンビ・ダンサーと満員のオーディエンスが一斉に手を右に左に動かしている図は、かなりシュールで笑えた。こうなるともう髭の独壇場で、“マヌケなクインテット”のイントロを須藤がトチろうが何しようが、すべてが笑いと快楽につながっていく。

発売目前のニュー・アルバム『D.I.Y.H.i.G.E.』からは、アルバムのエンディングを飾るメロウなナンバー“ミスター・タンブリンマン”と、暴力的なまでにロックンロール炸裂なタイトル曲“D.I.Y.H.i.G.E.”を披露。そして、「力をくれてありがとう、みんな!」――須藤はそう言って、“白い薔薇が白い薔薇であるように”とともに本編を締め括った。アンコールでは、須藤が先ほどのゾンビ・ダンサーズに担がれて登場。「夢の旅先案内人、ジェイ・ソンでございます!」と言う須藤の顔も白塗りやら口裂けメイクやらで賑やかだが、サングラスをかけるとマイケル・ジャクソンにしか見えなかったのも可笑しい。「今日は本当にありがとう! こんな顔してなんだけど、うれしいです!」。アンコール最後の“Acoustic”のサウンドスケープが、熱病がもたらす最後の白昼夢のように眩しく広がって――終了。最高のロック体験だった。
 
そして、来月の13日も金曜日。ということで、「CLUB JASON」は3月も開店予定だ。お楽しみに。そして、このライブでも見えた彼らのモード・チェンジを読み解く手掛かりになるかもしれない髭の須藤&斉藤インタビューを、2月20日発売の『ROCKIN’ON JAPAN』で行っているのでそちらもぜひ。(高橋智樹)

1.有限の脳でマスターベーション
2.僕らのさいご
3.ママ’s理論
4.ドーナツに死す
5.黒にそめろ
6.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
7.ブラッディ・マリー、気をつけろ!
8.デーモン&サタン
9.GOO
10.王様はロバのいうとおり
11.ギルティーは罪な奴
12.マヌケなクインテット
13.ミスター・タンブリンマン
14.寄生虫×ベイビー×ゴー!
15.溺れる猿が藁をもつかむ
16.ロックンロールと五人の囚人
17.D.I.Y.H.i.G.E.
18.白い薔薇が白い薔薇であるように

アンコール
19.ダーティーな世界(Put your head)
20.Mr.アメリカ
21.Acoustic
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