昨年のサマーソニック以来の来日ではあるが、単独日本ツアーとしては、04年以来ぶりとあって、会場のスタジオコーストは1Fも2Fもぎっしり超満員。今更だけど、ここ日本でも彼らをとりまく状況が、着実に大きくなり続けてきているんだな、ということをつくづくと実感するような光景でもあった。あのサウンドに共感できる人がこんなに沢山いて、その輪が広がり続けているなんて、まだまだ日本も捨てたもんじゃない、むしろ状況は良くなってきている、と心強い気持ちになるばかりだった。
いきなり、大げさなことを書いてしまったかもしれないけど、デス・キャブ・フォー・キューティーのサウンドとはそういうものだ。心のひだをなでていく精緻なギター・サウンドは、本来であれば誰にも触れさせたくない、心の奥底にある核心の封印を解いて、すっと入りこんでくる。プライドとか痛みとか、孤独感とか疎外感とか絶望とか、そんな、心の大事な部分に寄り添ってくれるサウンドなのだ。今夜のライブも、このバンドならではのカタルシスをもたらしてくれるものだった。
サポート・アクトとして登場したストレイテナー。幅広い音楽性をもつ彼らだが“The Novemberist”“SIX DAY WONDER ”と、ディスコグラフィーの中でも、特に抒情的な美しさが際立つナンバー達が繰り出されていく。かねてからデス・キャブ・フォー・キューティーのファンであることを公言していたホリエアツシによる「お客さんとして観に来るつもりだったけれど、サポート・アクトをやることになりました」とのMCには、温かい拍手も。個人的には、4人体勢になってからのステージを観るのは今回が初。特に、発表されたばかりのアルバム『Nexus』から披露された“イノセント”“Lightning”“クラッシュ”の4つの楽器のアンサンブルが描きだす音像の奥深さとあまりの美しさに、胸が詰まりそうになる。全5曲のパフォーマンスながら、バンドが4人になったことで広がった現在進行形の世界観を、凝縮した形で強烈に印象づけるものになっていた。
続いて、いよいよデス・キャブ・フォー・キューティーの登場だ。暗転したステージに現れた4人に大きな歓声と拍手が寄せられる。夜明けを連想させるような“Bix By Canyon Bridge”でのオープニング。透明感と甘さに加え、切なさもあるベンのまっすぐな歌声が、響き渡る。ちなみにベンは、シー&ヒムの活動で知られる女優ズーイー・デシャネルと婚約を発表したばかり。「わかりやすい奴だなー」と場内が一斉に突っ込みたくなる垢ぬけぶりが、なんとも微笑ましかった。
そして“ニュー・イヤー”へと。オープニングのドラマチックな「ジャジャーン」のリフのところでは、高らかに手を掲げる人も。そして“ホワイ・ユー・ウォント・トゥ・リヴ・ヒア”に続いた“クルックド・ティース”ではまたひときわ大きな歓声が。
どのメンバーも確かな腕をもつプレイヤーだけあって、抑制の美学とでもいうような、むやみにエモーションを爆発させない演奏をみせている。それは、裏に潜んでいるエモーションが音の隙間から滲み出てくるような演奏だった。
「僕らの1枚目のレコードから」といって披露された“プレジデント・オブ・ホワット?”は、シンプルな構成ながら初期作品ならではの瑞々しい衝動が息づいている。そして2ndから“グレイプヴァイン・ファイアーズ”や“タイトル・トラック”も! もうこの頃には、すっかりフロアがこのバンドの世界観に浸かっている状態だ。2Fからみていると、それは、一人一人が、それぞれの思いをかみしめるように、今ここで鳴らされているサウンドに心を共振させながら、心の中でメロディと歌詞を唱和しているような状況にもみえた。つまりは、抑圧の効いた演奏の効果もあって、まず、耳をすまして音に向き合う、という状態にまで体がもっていかれるのだ。
コール・アンド・レスポンスやハンドウェーブ、合唱がもたらす一体感や高揚感とはまた違う次元で、約2000人のオーディエンスの心が一つのメロディに吸い寄せられ、シンクロしていく様子は壮観だった。静かだけど、深い、その感情の共鳴は、その場に居合わせなければ体感できないものだ。そして、そんな景色をみせられるバンドはそうそういない。今日のライブに居合わせた人は、きっと次も、またその次も、彼らが真摯に音を鳴らし続けている限りライブに足を運び続けるだろう。(森田美喜子)
1. Bixby Canyon Bridge
2. New Year
3. Why You\'d Want To Live Here
4. Crooked Teeth
5. President of What?
6. Company Calls
7. Grapevine Fires
8. Title Track
9. Soul Meets Body
10. I Will Follow You Into The Dark
11. I Will Possess Your Heart
12. Cath...
13. Fake Frowns
14. Long Division
15. Sound Of Settling
アンコール
16. Your Bruise
17. Title And Registration
18. A Movie Script Ending
19. Transatlanticism