【来日レポ】セリーヌ・ディオン @ 東京ドーム公演

【来日レポ】セリーヌ・ディオン @ 東京ドーム公演 - pic by Yoshika Norita  pic by Yoshika Norita

セリーヌ・ディオンはバック・ダンサーを引き連れて踊ったりしない。彼女のステージには花道やセンター・ステージはないし、大掛かりな特効や演出が用意されているわけでもない。セリーヌのステージにあるものは彼女の歌声と、その歌声を最大限に引き立てる凄腕のミュージシャンたち、ただそれだけだ。そう、ただそれだけで5万人以上のファンで埋め尽くされた巨大な東京ドームにふさわしいエンターテイメントを生み出してしまう、シンプルにして圧倒的な歌い手としての実力が、この人が数十年にわたって「世界の歌姫」と謳われ続ける所以なのだ。

セリーヌにとって実に10年ぶりの来日公演である。ちなみに前回2008年の来日もドーム・ツアーだったし、さらには前々回1999年の来日もドーム・ツアーだった。ここ日本で常にドームをホームとし続ける海外アーティストなんて滅多にいないわけだけれど、彼女がこんなにも息の長い活動が可能なのは、彼女が「『タイタニック』の人」だけではないからだ。数十年にわたってヒット曲をコンスタントに出し、ラスベガスでの長期コンサートを含め常にエンターテイメントのシビアな最前線に立ち続けることで、何よりも歌い手として現役であり続けているからこそなのだ。

【来日レポ】セリーヌ・ディオン @ 東京ドーム公演 - pic by Denise Truscellopic by Denise Truscello

“The Power Of Love”で幕を開けたこの日のステージ、前半はゴージャスな生オケをフィーチャーしたアップテンポなヒット曲の連打で、セリーヌは「みんなと一緒にこうしてツアーを始めることができて嬉しい、初日でちょっと緊張しているけど」と言いつつも、そのパフォーマスは声の艶、ハリ、物理的声量も含めて頭から完璧に仕上がっている。この日のショウは途中でバンドのインスト演奏によるインターミッションを数回挟み、そこがセリーヌの衣装変えとブレイク・タイムとなっていたが、それ以外の時間は一瞬もダレることないプロフェッショナルなステージングで、曲のキーを落として歌うこともほとんどない。ベテラン・シンガーとしては稀な若々しさなのだ。

「次は映画の主題歌です。ああどうしよう、曲名ど忘れしちゃった……(ジェスチャー付きで)ほら、あれよ、水に沈むやつ……深く沈んでいっちゃうやつ」とセリーヌ。ここで我々は誰もが「『タイタニック』! こんな中盤でもうやっちゃうの??」と思ったわけだけれど、始まったのが『デッドプール2』の主題歌“Ashes”で、「ああそっちか!」となる数万人。『デッドプール2』の劇中映像をバックにセリーヌがドラマティックなバラッド・チューンである本曲を朗々と歌い上げる、かなりシュールかつ贅沢な時間だった。

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中盤はキャロル・キングの“The Reason”のカバーや、セリーヌのフランス語曲として最大のヒットとなった“Pour que tu m'aimes encore”など、しっとり歌い上げるバラッド系のナンバーが続く。セリーヌが最愛の夫、レネを亡くした2016年にP!NKが彼女のために書き下ろしたナンバー“Recovering”の熱唱は、歌と共に生き、歌によって生かされてきた彼女の宿命をも感じさせる痛切なパフォーマンスだ。そこから“All by Myself”の圧巻のアカペラに至る流れは、この日のクライマックスのひとつだったと言っていい。

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そして後半、バイオリンとチェロの四重奏をバックにしたアコースティック・セットから、バンドが主役のファンク・セッション(マーク・ロンソン“Uptown Funk”やジェームス・ブラウン“Sex Machine”などの豪華メドレー)を挟み、プリンスの“Kiss”、“Purple Rain”をソウル・ディーバ・モードで歌い上げるセリーヌとバンドの掛け合いが、『ソウル・トレイン』みたいなノリで最高に楽しい! アイク&ティナ・ターナーの“River Deep, Mountain High”のカバーも含め、90分歌いまくった最後の最後で最もフィジカルでタフなナンバーを立て続けに歌いこなしてしまうという、底なしのパワーなのだ。

そしてアンコールはもちろんこの曲“My Heart Will Go On”。映画『タイタニック』と共に会場の数万人のそれぞれの中で20年以上にわたって記憶されているこの曲を、その美しい記憶を損なうことなく今まさに再び昇華していくような、セリーヌの歌声にはそんな崇高な永遠が宿っていた。(粉川しの)

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※レポートは東京公演(6月26日)のものですが、ライブ写真にはラスベガス公演のものも含まれています。



なお、このライブの模様はWOWOWで8月25日(土)にオンエアされることが決定している。

番組情報は以下。

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