エリック・クラプトン×ジェフ・ベック @ さいたまスーパーアリーナ

エリック・クラプトン×ジェフ・ベック @ さいたまスーパーアリーナ - エリック・クラプトン×ジェフ・ベックエリック・クラプトン×ジェフ・ベック
そもそも、この世界を代表する2大ギタリストが共演するのは世界で初めてというわけではない。60年代にUKブルース・ロックの祖=ヤードバーズ時代には確かに入れ違い(クラプトン脱退後にベック加入)だった2人だが、つい最近の07年11月にはジェフ・ベック・バンドのライブにクラプトンがまさかのゲスト参加を果たしたこともあるし、遡れば93年にB.B.キング、バディ・ガイ、アルバート・コリンズともにクラプトンとベックが同時に参加したコンサートもあったし、80年代にも幾度か同じステージに立っている。が、いずれも「それだけ」の、あくまでラッキーな巡り合わせの1つとしての共演だった――しかし。

そんな2人の共演が、ここ日本で、しかも正式な「ジョイント・ライブ」として行われる!ということで、さいたまスーパーアリーナ2Daysの初日公演に集まった、40代50代あるいはもっと上の世代の方々が多くを占める会場には、他のどのライブとも違う静かで緊迫感に満ちた熱気が漂っている。この日は実に三部構成で、第1部がジェフ・ベック、第2部がエリック・クラプトン、2人が共演するのはラストの第3部、ということになる。

17:10、まずは第1部:ジェフ・ベックの登場に大歓声! しかし、全身白ずくめのベックがクリーム色のストラトを手にして、ヴィニー・カリウタ(Dr)/タル・ウィルケンフェルド(B)/デヴィッド・サンシャス(Key)といった名手の演奏をバックに奇跡の指弾きを始めた瞬間、会場を満たしたオーディエンスは水を打ったように静まり返って、ステージを凝視し始める。明日も同カードの公演があるので以下曲目などのネタバレは避けるが、基本的には今回のジャパン・ツアー用に組まれたセットリストから、1時間弱のサイズに収まるように楽曲を再セレクトしたもの、と言っていい(招聘元=UDOの公式HPの「ニュース」ページに2月6日の東京国際フォーラム公演のセットリストが掲載されているのでご参照のこと)。

時にボトルネック奏法で超高音域のソロをキめたり、時にコードを弾いたまま地の底までアーム・ダウンしてみたり、時に紅一点ベース=タルのベースに手を添えて珍しいベース連弾(?)を披露したり……とその卓越したテクニックを惜しみなく披露。ブルースを下敷きにしつつ、インストゥルメンタル・ロックの可能性を極限まで突き詰め、ジャンルもカテゴリーも超越した、それでいてフュージョン的な無国籍感とも一線を画するスーパー・ロック・ギタリストとなったジェフ・ベック。最後に「サンキュー!」と言いながらマイクにキスしてみせるまで終始無言だった御大。今年65歳になるとは思えない、求道的でアグレッシブなプレイだった。演奏が終わった瞬間、魔法がとけたように会場全体がスタンディング・オベーション! 1曲だがアンコールまでやってくれたのも嬉しい。

そして、30分弱の休憩を挟んで18:27、第2部:エリック・クラプトンがオン・ステージ! 「コンバンワ!」と現れたクラプトン御大は白シャツにジーパン姿。さっきはこちらも一連のジャパン・ツアーと基本的には同じ流れで、“レイラ”はやるが“チェンジ・ザ・ワールド”も“ティアーズ・イン・ヘヴン”もなし、という感じ。ドイル・ブラムホールII(G/Vo)/エイブ・ラボリエルJr.(Dr)はじめコーラス含め計7人、前半はアンプラグド・スタイルで着席して演奏。ここでのクラプトンはアコギを構え、基本的には曲の基本となるリフやコード、アルペジオといった演奏を重点的に担い、エレキ・ギターのソロはサウスポーのドイルに任せている。が、それでも鼓膜がアコギの音を必死に追っているのが自分でもわかる。気がつくと、ジェフ・ベックの時には座っていたアリーナ席の最前列あたりの観客が、もはや我慢ならんといった様子でフェンスにかぶりついてステージを見つめている。時折ビジョンに映し出されるクラプトンのアコギの、コードやリフを押さえる指のフォームの美しさが、ギター界の「神」たる由縁を物語っている。

中盤になってクラプトンが水色のストラトを手にしてメンバーが立ち上がったところから、御大のテイストは一転。飴のように自在にギターを操り、指からブルースをあふれさせ、心地好く枯れた声で高らかにシャウトをキメる。ジェフ・ベックとは対称的に、あくまでブルースに留まりブルースを掘り下げることで、その核心に辿り着いたクラプトン。1つ1つのプレイは決して派手でもトリッキーでもない彼の演奏はしかし、終始聴く者を掴んで離さない。こちらはアンコールなしで1時間弱のアクトが終了。「ドモアリガト!」と軽やかにステージを去っていったクラプトン。そして……。

いよいよ「第3部」!……とはいっても、ステージ・セットをがらりと変えるわけではなく、基本的にはクラプトン・バンドが居並ぶところへ、ジェフ・ベックが参加する、というスタイル。なので、転換時間はものの5分ほど。19:26、クラプトンが、そして黒の上着に着替えたジェフ・ベックが登場すると、場内はあっという間に総立ちに!

07年に共演した時にも演奏したというマディ・ウォーターズの“You Need Love”などブルースの名曲をはじめ、クリームの曲からスライ&ザ・ファミリー・ストーンの曲まで幅広く――といってもアンコール含め7曲だが――披露。お互いのソロ・パートを楽しげに展開し、1人がソロを取る時はもう1人がリフに回るという絶妙のコンビネーションをみせる2人。時折、曲のリフやメイン・フレーズをユニゾンで弾いていたりする2人……同じストラト使いでも、その音色もプレイ・スタイルも明らかに異なる2人。10年に1度くらいの稀なペースで惑星直列のようにシンクロしながら、まったく違う道程を歩んできたジェフ・ベック、エリック・クラプトン。その2人のギター・ゴッドが、その本能のままに素で向き合っている音を同時に聴いてしまうという、まったくもって贅沢な思いをしてしまって、明日からどうしよう? と不安になってしまうくらいに、テクニカルで、それでいてオーガニックで、マジカルな音楽体験だった。本編最後の、2人の握手&ハグ。そしてアンコールのラスト、そそくさとステージを去ろうとするべックを、クラプトンが呼び止め、バンド・メンバーとともに肩を組んでのオーディエンスへの挨拶。ロックの巨大な歴史の一端を、ここ極東の地で確かに目撃した、そんな一夜だった。

最後に、明日(22日)の公演を観に行く方々へ1つ余談。
40代50代あるいはそれ以上の、どちらかと言えばロック・フェスなど長時間のライブには不慣れな方々が中心のオーディエンスが会場を満たしているところに、世界の頂点に君臨するギタリストの神懸かった演奏が展開されてみんな気持ちよくなってすいすいビールを空けたりするとどうなるか。
トイレが混むのだ。しかも激烈に。
僕も仕事柄、さいたまスーパーアリーナには幾度となく通い詰めているが、こんなに男子トイレだけがディズニーランドのアトラクション待ち状態で、しかも年配の方々がそのほとんどを占めているという光景は初めて見た(ちなみに女子トイレにはほとんど列はできていなかった)。かく言う僕も、そんな状況を前にして「終わるまで我慢して、帰りにJRの駅に着いてから用を足せばいいや」と思っていた1人なのだが、いざ駅に着いたら改札内のトイレにも長蛇の列! くれぐれも、トイレは会場に着く前に済ませておくことをお勧めしたい。(高橋智樹)

Pt.1 JEFF BECK
1.THE PUMP
2.YOU NEVER KNOW-SOLO SHORT
3.CAUSE WE’VE ENDED AS LOVERS
4.STRATUS
5.ANGEL
6.LED BOOTS
7.PORK PIE/BRUSH
8.JEFF & TAL SOLO
9.BLUE WIND-SHORT
10.A DAY IN THE LIFE
11.PETER GUNN

Pt.2 ERIC CLAPTON & his band
1.DRIFTIN
2.LAYLA
3.MOTHERLESS CHILD
4.RUNNING ON FAITH
5.TELL THE TRUTH
6.QUEEN OF SPADE
7.BEFORE YOU ACCUSES ME
8.COCAINE
9.CROSSROADS

Pt.3 ERIC CLAPTON & JEFF BECK
1.YOU NEED LOVE
2.LISTEN HERE-COMPARED TO WHAT
3.HERE BUT I’M GONE
4.OUTSIDE WOMAN
5.BROWN BIRD
6.WEE WEE BABY
7.WANT TO TAKE YOU HIGHER
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