●セットリスト
01. FAKE
02. 黄昏のダンス
03. ホームタウン
04. 東京
05. ジャンプ
06. サンサーラ
07. 四角い箱にいた頃
08. ハイエナ
09. 世界は変えなくていい
10. ACTRESS
11. 台風の目の中で
12. 孤独を抱きしめ空を仰ごう
13. まだ間に合うから
(アンコール)
01. 麦わら帽子
02. 新月とコヨーテ
暖かく、穏やかでありながら、春の生命の息吹がそうであるように力強いダイナミズムを宿したパフォーマンスだった。lukiの2019年初ワンマンライブ。ハイペースで生み出される新曲が次々に届けられ、過去作も衣替えの時期を迎えるかのように新たなアレンジを纏う、まるで季節が移ろうようにナチュラルな表現の刷新を繰り返してゆくlukiの姿がそこにはあった。
仄かに香の匂いが立ち込めた場内。柔らかなタッチのギターやドラムスに導かれたオープニングナンバーは“FAKE”で、確かな生活感の中、自我に迷うlukiの深い内省が伝わってくる。サポートメンバーは、luki作品のアレンジャー/サウンドプロデューサーでもある円山天使(G)、そして山本哲也(Key・G)、張替智広(Dr)という馴染みの顔ぶれだ。
近く新作をリリース予定(5月29日(水)にミニアルバム『新月とコヨーテ』を発売)であることを告げた彼女は、今回のステージでその新作曲を披露していった。ほっこりと親しみやすくフォーキーでありながら、意外な発見の驚きも込められた“ホームタウン”。自身の経験を踏み台に、触れる者を力強く鼓舞する“ジャンプ”。プログラミングを絡めたジャジーなアレンジが、歌心と混じり合ってシャッフル感を増してゆく“サンサーラ”といったふうに、lukiの鋭い視点から生み出された歌の数々は、バンドによって豊かな音楽的解釈を加味され、情感を増幅させる。luki得意のブルースハープも、序盤から伸び伸びとしたフレーズを加えていった。
彼女は、アレンジ/サウンドプロデュースにおける円山の活躍について語り、クリエイティブパートナーとしての関係を「夫婦のよう」と告げていたけれども、ヘヴィでエモーショナルなロックアレンジからジャズ/AOR風の繊細で彩り豊かなアレンジまで、その仕事ぶりには新作リリースのたびに、またライブのたびに、驚かされることになる。街の躍動感を強烈なドライブ感とともに描き出す“東京”や、若き日々の焦燥感を伝える“四角い箱にいた頃”といった過去曲においても、そのアレンジの雄弁さは目を見張るものがあった。
またlukiは、アダム・マッケイ監督による映画『バイス』を引き合いに芸術のポリティカルな役割について語り、“世界は変えなくていい”を披露した。正面を見据え、切実さを伴う凛とした歌声で届けられたその楽曲は、過去に生み出された楽曲が何度でも意味を更新して「今」のために働きかける、そういう響きの名演になっていた。
ウルトラマラソンに挑み続けるシンガーソングランナー・luki(4月には118kmに及ぶ「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」に出場するそうだ)のテーマ曲とも言える“孤独を抱きしめ空を仰ごう”では、円山が熱く弾き倒すリードギターのアウトロを、lukiの吹き鳴らすサックスがバッキングするようなコンビネーションも見せてくれる。lukiのパーソナルな歌心が、バンドメンバーに伝播し、そしてオーディエンスに伝播するという、音楽の有機的な連鎖反応を確かめさせる一幕だ。
アンコールの最後に届けられたのは、新作ミニアルバムのタイトルチューンとなった“新月とコヨーテ”。寂しげな感情の湿り気を帯びたボッサアレンジのその曲は、深く暗い夜を見つめながらも、新しい季節が訪れる予感に満ちている。新作を携えての次回ワンマンは7月11日(木)、今回と同じくShibuya LUSHで開催されるけれども、そのときはまた一期一会の感情の蠢きと彩りを、新旧の楽曲によってもたらしてくれるのだろう。(小池宏和)