松任谷由実/日本武道館

松任谷由実/日本武道館 - All photo by 田中聖太郎All photo by 田中聖太郎

●セットリスト
01.ベルベット・イースター
02.Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生
03.砂の惑星
04.WANDERERS
05.ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ
06.守ってあげたい
07.Hello, my friend
08.かんらん車
09.輪舞曲(ロンド)
10.夕涼み
11.春よ、来い
12.Cowgirl Blues
13.もう愛は始まらない
14.Carry on
15.セシルの週末
16.ハートブレイク
17.結婚ルーレット
18.月曜日のロボット
19.ダイアモンドダストが消えぬまに
20.不思議な体験
21.Nobody Else
22.ESPER
23.COBALT HOUR
24.宇宙図書館
(アンコール)
EN01.カンナ8号線
EN02.DESTINY
EN03.ひこうき雲
(ダブルアンコール)
WEN01.やさしさに包まれたなら
(トリプルアンコール)
TEN01.卒業写真


45周年を記念したベストアルバム『ユーミンからの、恋のうた。』を昨年リリースし、その後、「タイムマシーン」というコンセプトのもとで全国ツアーを行ってき松任谷由実。追加公演であり、ツアーファイナルとなった日本武道館での公演を観た。1秒たりともステージから目が離せないライブは圧巻の一言だった。これまでユーミンにしかやってこれなかったことを、時代を遡りながらさらに現代へとアップデートして魅せてくれた濃密な3時間。「タイムマシーン」というコンセプトは単に彼女の音楽を振り返るというだけのことではなく、その歌を通して、そこにいる一人ひとりが自身の人生を振り返って、その時の景色を思い浮かべる、そんな装置としても美しく機能していた。

松任谷由実/日本武道館

エンターテインメントを極めた、ショーアップされたステージはユーミンが早くから追求してきたものだ。ツアーごとに繰り広げてきた破格の演出の数々が、その時代の楽曲やまた違った年代の楽曲とともに目の前に立ち現れて、そのスケール感と寸分の隙もない展開には息を飲む。まさしく「タイムマシーン」と呼ぶにふさわしいショーだ。
武道館のアリーナに設えられたセンターステージと、それを360度取り巻く観客席。開演前、時代も国も不明な幻想的なセットの中、ダンサーのTAKAYUKI KAMIYAMAが静かに客席に現れると物語はスタート。TAKAYUKI扮する青年が美しいクリスタルを見つけ、それが意志を持つ生命体のように動き出すというパントマイムで、客席はあっという間に物語の中へと誘われていった。そこに、「さあ、扉を開けなさい」という厳かなユーミンの声が響くと、めくるめくタイムトラベルの幕開け。1stアルバム『ひこうき雲』に収録された“ベルベット・イースター”を美しいスパンコールの燕尾服に身を包んだユーミンがピアノで弾き語り、素晴らしい歌声が響き渡る。2コーラス目からは豊かなバンドサウンドが彩り、まずは45年前の、荒井由実のキャリアのスタート地点へと思いを馳せる。
その後の「タイムマシーン」は自在に時代を行き来しながら、ユーミンの音楽の歴史、ショーの歴史を曼荼羅のように描いていった。例えば2曲目。センターステージのせりあがりから象に乗って登場したユーミン。この演出は1979年の「OLIVE TOUR」の、スパンコールの衣装は94〜95年の「THE DANCING SUN TOUR」へのオマージュだ。そして歌うのは、91年のアルバム『DAWN PURPLE』から“Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生”と、時代をクロスオーバーさせて、現代へと蘇らせていく。

松任谷由実/日本武道館

“WANDERERS”では尋常ではない勢いで炎があがる特効に驚かされ、キレの良いシャッフルのビートに合わせたダンスにも目を奪われる。続く“ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ”では、いつの間にか可憐な白いワンピースに着替えたユーミンがシンプルにやさしい歌声を響かせる。一体どれほどの緻密さでステージ進行が計算されているのだろう。ダンサーもバンドメンバーもひとつ動きを間違えれば、ショーはほころびを見せてしまうだろう。けれど、そんな緊迫感を感じさせることなく、「タイムマシーン」は私たちを乗せてファンタジーとノスタルジーの間を自由に行き来する。そして何よりユーミンの歌声の力強さとしなやかな動きに目と耳を奪われるのだ。ただの振り返りライブではない。序盤でそう悟った。

松任谷由実/日本武道館

“輪舞曲(ロンド)”では遠山哲朗のガットギターが鳴り響き、絢爛な着物姿に着替えたユーミンが登場。叙情的なメロディをオリエンタルな視覚イメージとともに表現し、続く“夕涼み”はポールダンスの演出なども取り入れ、2006年の「THE LAST WEDNESDAY TOUR」のイメージが盛り込まれていた。「あの時は着物ではなかったけど、衣装はとても大事な要素」だと語っていたユーミン。「衣装から曲を決めることもある」と語り、2011年の「Road Show」ツアーでは、着物姿へのチェンジで、15秒という早着替えを実現させたことなどを懐かしく振り返ったり。
ユーミンのライブはいつだって衣装に驚かされる。今回も計7回、全8パターンの衣装で楽しませてくれた。早着替えによくある、上着を脱ぐだけで別の衣装に早変わり、というようなレベルではない。すべての衣装がまったく違ったコンセプトのコーディネートで、ヘアスタイリングまで完璧にチェンジして現れるのである。
“Cowgirl Blues”ではウエスタンハットにカウボーイのチャップスをアレンジしたスタイリングでアグレッシブなロックサウンドを響かせ、“セシルの週末”の間奏中には、その衣装から、原色ライダースジャケットをフィーチャーした80’sのファッションにチェンジ。ジャケットの下のボディコンシャスなブラックミニワンピも、ソバージュのヘアスタイルも完璧。このスタイリングは、1982年の「PEARL PIERCE」ツアーへのオマージュ。当時のカラフルなライダースを現代のモードへと更新させてスタイリッシュに着こなすユーミンに、ただただ見とれてしまった。その衣装で、「せっかくなので当時よく歌っていた曲を」と、“ハートブレイク”へと進む。

松任谷由実/日本武道館

その“ハートブレイク”では、84年にリリースされた映像作品『コンパートメント(TRAIN OF THOUGHT)』に収録されているMVでの振り付けを再現。ダンサーとユーミンとで当時のステップを踏む、その身のこなしのキレの良さまで、80年代の勢いそのままだ。ダンサーだけではない、続く“結婚ルーレット”ではコーラスの今井マサキが、ユーミンに指輪を差し出しプロポーズのマイムを見せ、バンドメンバーもセンターステージで視覚演出の一部を担うようなステップで演奏を続ける。
さらに圧巻だったのは“月曜日のロボット”での、通称「ダイアモンドレッグス」のパフォーマンスだ。87〜88年の「DIAMOND DUST」ツアーで見せた脚線のラインダンスを、今回は人形を交えて少しユーモラスにさらにスケールアップして再現。その一糸乱れぬ美しいダンスとシンセサウンドに彩られたクールな歌声が相まって美しい景色を描き出し、完全にノスタルジー以上のものを生み出していた。

松任谷由実/日本武道館

“不思議な体験”から“Nobody Else”にかけては、2003年の「SHANGRILA II」でのエアリアルアクトを思い起こさせ、ZOYA BARKOVAがエアリアルティシューで幻想的なパフォーマンスを魅せる。そして強烈な引力で「あの頃」へと連れていくファンタジックなユーミンの歌。紗幕に映し出される様々な時代のユーミンの写真にも胸が熱くなる。もはや本当に「タイムマシーン」に乗せられている感覚で、ここが武道館であることを忘れた。そう、武道館でのライブはよく、その会場の規模のわりに「客席とステージが近い」というようなことが言われるが、ことこの公演に関しては、近さを感じるよりも、空間がどこまでも広がっていくような不思議な感覚を味わった。

松任谷由実/日本武道館

「45年の旅を終えて、タイムマシーンは現代へと戻ってきました」と、本編最後は最新オリジナルアルバムから“宇宙図書館”。「みなさんお疲れではありませんか?」と客席を気遣うユーミンだったが、これだけのステージを展開しながら、最後まで息を切らすことなく最高のパフォーマンスを魅せるユーミンは凄いとしか言いようがない。歌声などは、もしかしたら前回ツアーの時よりもむしろパワーアップしているし、そこに宿るマジカルなバイブスは変わることがない。もし日本のポップシーンにユーミンがいなかったら、音楽シーンだけでなく、その後の時代はひょっとしたらまったく違うものになっていたのかもしれない。今回のツアーはそんなことを考えさせるに十分なクロニクルであり、ポップミュージックの、そして私たち一人ひとりの、これまでの歩みを振り返らせてくれる、他の誰にもできないポップエンターテインメントだった。

松任谷由実/日本武道館

アンコールでは、キュートなマリンルックに着替えて登場し、「こんなツアーをしてしまったから、これでもう引退かと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私はまだまだこんなもんじゃ終わりませんよ」と嬉しい言葉も飛び出した。“カンナ8号線”そして“DESTINY”を披露した後は、時間旅行の終着を告げるように、タイムマシーンの象徴であるクリスタルが、TAKAYUKIからユーミンへと返される。最後はダンサー、コーラス隊、バンドメンバー全員をフルネームで紹介し、メンバー全員がセンターステージに集まる。全員とハグ。感動的な大団円だった。そしてそのアンコールの最後は武部聡志のピアノに合わせて“ひこうき雲”を披露。美しい余韻の中で、ライブはこれで終了のはずだった。しかし一度は観客送り出しのBGMが流れるも、誰一人として客席を後にしようとはしない。歓声とハンドクラップはさらに大きくなる。それはもはやさらなるアンコールの催促というよりは、この素晴らしいショーへの心からの賛辞であり、その思いをユーミンに届けたいという思いのこもった拍手だった。それを受けて、再びステージに登場してくれたユーミン。

松任谷由実/日本武道館

「幸せです!」と叫んだ後、「私は14歳の時から曲を作り始めて、16歳の時に“ひこうき雲”ができました。歌には自信がなかったから、早くからショーアップの方向に舵を切りました」と、自らの歩みを振り返り、さらに「今の私のほんとの夢は、『続ける』こと。だからやめません。こんな素晴らしいアンコールをもらって……」と感極まって涙を見せる。そして「このアンコールに甘えて……。一緒に歌ってもらえますか?」と“やさしさに包まれたなら”を、同じく武部聡志の伴奏で歌う。皆で歌うシンガロングの声の強さに、改めてユーミンの歌がみんなにとっての「私の歌」になっていることを感じる。最高のダブルアンコールだった。

松任谷由実/日本武道館

さすがに終演のアナウンスが流れる。それでも鳴り止まない拍手。まさかとは思ったけれど、三たびステージに上がってきてくれたユーミン。大歓声とスタンディングオベーション。「なんか、サプライズ期待してる? しょうがないなあ」といたずらっぽい笑顔を見せると、「じゃあ、このタイムマシーンに一番長く乗っている人物を呼びましょう」と、公私ともにわたるパートナーである松任谷正隆を招き入れ、彼のピアノ伴奏で“卒業写真”を感動的に歌い上げる。《あなたは私の 青春そのもの》というエンディングの歌詞と美しいピアノの余韻が静かに武道館に響き渡った。
最後は、偶然かもしれないが、ステージセンターに置かれていたタイムマシーンの象徴であるクリスタルを、正隆氏が手にして持ち帰ったのも、なんだか感動的だった。音楽のライブとして、これ以上のエンターテインメントを更新できるのは、もはやユーミン本人しかいないと思う。まだしばらく、このショーの余韻は冷めそうもないが、次回のツアー、そして次なるアルバム作品を心待ちにしている。(杉浦美恵)

※記事初出時、内容に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
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