ダフィー @ SHIBUYA-AX

ダフィー @ SHIBUYA-AX
ダフィー @ SHIBUYA-AX
ダフィー @ SHIBUYA-AX
ダフィー @ SHIBUYA-AX - pic by Yoshika Horitapic by Yoshika Horita
2008年の英国で最も多くアルバムを売ったシンガー。英国のみならず、今回のグラミーではベスト・ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞するなど、他の各国でも彼女の「デビュー」・アルバムは大きな評価をもって受け入れられた。最も新しいシンデレラ・ストーリーを生きるウェールズ出身の24歳、ダフィー。彼女は昨年秋のアルバム『ロックフェリー』日本盤リリースのタイミングで一度来日し、ショウケース・ライヴも行っているが、本格的な来日公演は今回が初めて。火曜日であるにも関わらず、世代も、そして恐らく音楽の趣味嗜好も様々であろうオーディエンスが集まり、また世界的な注目のまっただ中にいるアーティスト、という事実も手伝ってか、日本人以外のオーディエンスも数多く見受けられるAXのフロアである。

暗転した無人のステージにオープニングSEが響き、合わせてポエトリー・リーディングが会場を満たす。喝采の中で一人、また一人とバンド・メンバーが現れ、いよいよダフィーの登場だ。ゆったりとしたピアノのイントロに導かれ、“ロックフェリー”を歌い出す。CDで聴くよりも数段、芯の強い声だ。伸びのある低音のヴィブラートに味があっていい。と思えば、コーラスでは一気に空間を切り裂くような強烈な高音へと、地声のまま立ち上がってゆく。冒頭から早くも、その世界中の人々を認めさせた歌唱力は明らかなものになっていた。なんかあまり肩肘を張ってる感じはないのにソウルフルで力強いというか、基本スペックの違いを感じさせる。ところで、ダスティ・スプリングフィールドの再来、と語られることに関しては本人はあまりダスティをよく知らないということだったのだが、はっきり言ってヴィジュアル・イメージとか結構意識している気がする。髪型からステージ衣装まで、スウィンギン・ロンドンな感じ。むしろわざとやっているんじゃないかという印象すらある。でも、それが必死なワナビーに終始せずに、彼女自身のナチュラル・ボーン・ソウル・シンガーたる歌唱力のオプションとして、あっけらかんと目に映る。ただ楽しんでやっているという健全さを感じるのだ。

身振り手振りでバック・バンドとの呼吸を整えながら、歌うことを楽しみ、オーディエンスにも歌そのものを聴いて欲しい、という姿勢が伺える。ヒット曲“シリアス”ではスウェイを巻き起こしつつ、新人とは思えないような堂々たるパフォーマンスを見せつけた。最新シングルの“レイン・オン・ユア・パレード”などでは2人のブロンド女性コーラス隊に挟まれる形で、ガールズ・グループ風の振り付けなども見せてくれるのが楽しい。バック・バンドは実にテクニカルで渋いのだが、しかしこれも無理にレトロ感を狙ったものではなくて、実にポップかつコンテンポラリーな、ときにはダイナミックな、音の手応えを感じさせる演奏をしている(レコード作品でのストリングス・アレンジなどもシンセサイザーで再現してぶ厚いサウンドにしていたが、そこまでしなくても充分、説得力のある演奏になると思う)。『ロックフェリー』オリジナル盤の収録曲だけではなく、デラックス・エディションの収録曲も数多くプレイしているのは、もちろんプロモーションの意味合いもあるだろうけれど演奏者として楽しむためでもあるだろう。それを最も強く感じたのが、ダフィー自身「ライブで演奏するのは初めてで、ちょっとナーバスなんだ」とおどけながら語っていたロレイン・エリソンのソウル・クラシック“ステイ・ウィズ・ミー・ベイビー”のカヴァーだった。多くのアーティストが歌っている名曲なので、もしかしたらダフィーも、最初はオリジナルより歌い継がれてきた別のバージョンに親しんだのかも知れない。しかし、この熱唱が素晴らしかった。感情的に昂り、声を迸らせる姿が圧倒的であった。演奏することにチャレンジングで、しかもそれを自ら楽しみ尽くしているシンガー。彼女の熱唱に焚き付けられる形でライヴは終盤戦へと傾れ込み、ファンキーな“ディレイド・ディヴォーション”、モータウン風でクールな“ストップ”、そしてラストは自然発生的なハンド・クラップとダフィーが煽るコール&レスポンスによって華やかに彩られた“マーシー”とプレイされ、今回のステージは幕となった。

ダフィーのユニークなところは、彼女がその類い稀な声質と歌唱力を軸にして「英国らしさ」を引き受けてしまったところにある。同じ60年代風R&Bをベースにした音楽性であっても、例えばエイミー・ワインハウスならその強烈な自伝的ストーリーテリングが、アデルなら卓越したソングライティングが、それぞれパーソナリティとして前面に出てくるのだが、ダフィーの場合はただその声がスウィンギン・ロンドンな英国的シンパシーを煽り立ててしまう。ただし、彼女は決してワナビーではないし、もちろん好きは好きなのだろうけど60年代的なるものに対して強くフェティッシュなわけでもない。ただ自身の歌がそれにフィットしたから、自ら楽しんでやっているのである。だからサウンドはコンテンポラリーなのだ。僕は彼女がゴリゴリのロックを歌おうが、テクノ・ポップのクイーンになろうが、或いはキャリア初期と同じようにウェールズ語の歌に回帰しようが、決して驚かない。そういう奔放さ・自由さを彼女からは感じるし、今後の可能性もまだまだ未知数なのではないかと思う。全12曲で正味1時間、アンコールなし。バンドと共にまだまだ余力を残していそうなダフィーの姿も、一本のライブ・パフォーマンスとしては未知数な気がして、その点は少し残念だったけれど。(小池宏和)

1.ROCKFERRY
2.HANGING ON TOO LONG
3.SERIOUS
4.RAIN ON YOUR PARADE
5.FOOL FOR YOU
6.WARWICK AVENUE
7.BREAKING MY OWN HEART
8.STEPPING STONE
9.STAY WITH ME BABY
10.DELAYED DEVOTION
11.STOP
12.MERCY
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