●セットリスト
01. 紫陽花
02. 桜の木の下には
03. look at the sea
04. 5月の呪い
05. 憧景
06. caramel city
07. 泡と魔女
08. 命日
09. シュガーサーフ
10. 砂と少女
11. nazca
12. 水仙
13. 色水
14. 水葬
15. candle tower
16. あの秋とスクールデイズ
17. dry flower
18. 走馬灯
19. epilogue
(アンコール)
EN1. 夕立と魚
最新ミニアルバム『flask』をリリースし、10月からそのアルバムを引っ提げた全国ワンマンツアーを行っていたおいしくるメロンパン。そのツアーファイナルが、12月18 日、東京・EX THEATER ROPPONGIで行われた。
彼らの4作目となるミニアルバム『flask』は、バンドが持つダークで幻想的な世界観と、その奥底に滲むピュアなポップネスとが理想的な形でバンドサウンドとして完成された、おいしくるメロンパン史上、最高に尖っていながら最高に洗練された一作となった。それを掲げてのツアーだけに、音源で表現された先鋭性やスリリングなアンサンブルがライブでどのように表現されるのか、とても楽しみだったのだ。
これまで何度かレコ発のワンマンツアーを行なってきた彼らだが、その度ごとに各地を満員にしながら着実にキャパを広げ、今回は自身最大規模となるEX THEATER ROPPONGIでのツアーファイナル。もちろんこの日もソールドアウトで、フロアは隙間なく埋め尽くされた。単なるレコ発というだけに留まらず、『flask』という作品が完成したことによって、メンバーそれぞれが自らのプレイにさらなる自信を得て、過去曲たちのアンサンブルもアップデートされるという、バンドがとても良い循環の中にいることを明確に証明したライブだった。
幕開けの“紫陽花”は、彼らの1stミニアルバム『thirsty』に収録されたものだし、続く“桜の木の下には”、“look at the sea”は2ndミニアルバム『indoor』からの楽曲。ある意味、彼らの定番ともなっているこれらの楽曲が、いい意味で安定した素晴らしい音像を描いていて、初っ端からその世界に引き込まれていく。“桜の木の下には”で聴かせる3人のハーモニーも、“look at the sea”のナカシマ(Vo・G)のボーカルも、昨年のワンマンでの演奏よりも格段に広がりを感じさせるものになっていた。シームレスにラフなバンドセッションを曲間にはさみながら、軽快なロックナンバー“5月の呪い”へと突入。間奏では峯岸翔雪(B)のさりげないベースソロから、キレのよい原駿太郎(Dr)のドラムソロ、そしてナカシマのギターソロへとつなぐなど、序盤の演奏では、彼らのプレイヤーとしての著しい成熟を感じさせた。
「僕らのライブは手上げるもよし、直立不動で聴くもよし、あなたの自由にやっちゃってください。なんせ僕らは、あなたの好きな音楽を鳴らしに来たのだから」という峯岸のMCが、おいしくるメロンパンの音楽への向き合い方をよく表している。ことさら盛り上がることや、声をあげることを求めたりはしない。ただただ曲を一人ひとりが好きに楽しんでくれればいい──この揺るぎない思いがあるからこそ、彼らの楽曲に予定調和などないし、どれだけアップテンポの楽曲だろうと、思わず強い引力でひきつけられるように聴き入ってしまったりもするのだ。
そんなMCのあとに最新作から“憧景”が披露される。ナカシマの歌い出しのブレスの音から、歌声とクリーントーンのギターアルペジオが放たれて、ドラムとベースが歌に寄り添うようにリズムを刻んでいく。やはりこの楽曲の3ピースのアンサンブルはとても心地好い。こともなげにそれぞれが演奏しているようでいて、その緩急、メリハリ、押し引きのポイントを3人が理解し合っているのがよくわかる。そこに変な力みも、無駄なアピールもない。3ピースの音の鳴り方を追求してきた彼らだからこその境地を感じた。フロアでも自然にたくさんの腕が上がる。
中盤、“シュガーサーフ”でのソリッドなガレージサウンドにフロアが揺れると、そこからそのまま堂々たるドラムソロへと展開。序盤のソロはほんの挨拶がわりだったかと思うほど、原のソロはダイナミックで、峯岸のベースソロがさらに客席を煽る。そこにナカシマのギターが絡んで、ジャズバンドのようなしなやかなサウンドを響かせていく。まるで3人のフリーセッションを楽しんでいるかのような時間。たまらず大歓声が上がった。そしてまたあざやかに“シュガーサーフ”の主題に戻るという見事な展開には、演奏後、拍手がしばらく鳴り止まず、まるでため息のようなどよめきが起こる。その後の原の「すごい幸せです」という言葉は、本心から出たものだろう。純粋にバンドの演奏による音のエネルギーが、観客の心を動かしているという実感がここにあった。
要所要所で繰り出される新作『flask』からの楽曲たち。“水仙”では、ナカシマの透明感のあるボーカルに聴き入った。1つの楽曲の中で様々な表情を見せていくスケール感のある楽曲は、ライブでも深く深く染み込んでいくよう。そのモードは“色水”を挟んで、続く“水葬”へと引き継がれ、よりディープな残響を引き連れたダークファンタジーを描き出す。水底へと潜り込んでいくようなベースのサスティーン。どこか遠くで刻まれるようなドラムのリムショット。物語をそのまま音で表現するかのような、おいしくるメロンパンの真骨頂だ。そのひとつの到達点から、さらりと身をひるがえすように放ったのが、最新作の中でも最強に実験的でエキセントリックな楽曲“candle tower”だった。不協和音さながらの不穏なイントロがプログレッシブで緻密なアンサンブルへと姿を変えていく。ただその音のうねりに飲み込まれていくような感覚がそこにあった。この楽曲は、今後も彼らのライブで変化・進化を繰り返していくことだろう。おいしくるメロンパンの現在を示す、とても重要な一曲であることに間違いはない。
ナカシマは「4年くらいバンドをやってきて、最初からずっと貫き通してきたことがひとつある」と言った。それは「自分たちが好きなこと、かっこいいと思うことしかやらない」ということだと。作品をリリースするごとにバンドを取り巻く規模感は徐々に大きくなっていくが、むしろ、というか、それと呼応するかのようにこの3ピースが奏でる音は、どんどん自由にアグレッシブになっていく。ライブもそうだ。前作『hameln』のワンマンツアーの頃と比べても、格段に攻めたアンサンブルを聴かせるようになっているし、それはまさしく自信のなせるワザ。
最新作のラストを飾る“走馬灯”でポップとダークの独特なコントラストを鮮烈に描き出したあとは、同じく最新作の1曲目である“epilogue”で本編を締めくくった。どこかポップなロックサウンドでも、おいしくるメロンパンが紡ぎ出すポップの景色には、「光」と同じだけの「影」がしっかりと表現されている。だからこそ、風景画のような寓話のような抽象的な歌詞でも、リアルな実体としてリスナーは感じ入ることができるのだ。そんな感覚が今回のライブでより強くなった。奔放さと緻密さを併せ持つ3ピースのダイナミズム──それがいかんなく発揮された最高のライブだったと思う。
アンコールは「懐かしい曲を」と、“夕立と魚”を披露。ナカシマのコードストロークとアップテンポなロックサウンドが印象的なこの楽曲は、おいしくるメロンパンの原型とも言えるような音像で響いた。彼らはこの楽曲の持つ青さを失わないまま、ここまでバンドとしての自信を深めてきたのである。シンプルなギターロックサウンドも、今の彼らの演奏には不思議なグルーヴが宿る。飄々としたその佇まいに油断していてはいけない。彼ら3人の音のせめぎ合いは、これからさらに進化を遂げていくはずだ。その可能性を確信した夜だった。(杉浦美恵)