忘れらんねえよ/Zepp DiverCity(TOKYO)

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●セットリスト
1.ドストエフスキーを読んだと嘘をついた
2.バンドやろうぜ
3.犬にしてくれ
4.この街には君がいない
5.あの娘に俺が分かってたまるか
6.夜間飛行
7.ハナノユメ
8.僕らチェンジザワールド
9.北極星
10.メドレー(アワナビーゼー、中年かまってちゃん、だんだんどんどん、慶応ボーイになりたい~ドラマティック・ラブ~、俺の中のドラゴン、いいから早よ布団から出て働け俺、バレーコードは握れない)
11.世界であんたはいちばん綺麗だ
12.喜ばせたいんです
13.ばかばっか
14.YouTuberになればモテると聞いた
15.踊れ引きこもり
16.わたしは部屋充
17.花火
18.ロックンロール体操
19.ばかもののすべて
20.だっせー恋ばっかしやがって
21.俺よ届け
22.忘れらんねえよ
(アンコール)
EN1.なつみ
EN2.この高鳴りをなんと呼ぶ
(Wアンコール)
WEN1.CからはじまるABC


結成10周年を記念して、1年間かけて忘れらんねえよが行ってきた「がんばれ柴田プロジェクト」。そのフィナーレとなったのが、このZepp DiverCity(TOKYO)でのワンマンライブ「Zepp DiverCity ワンマン がんばれ柴田~こっからもっかい青春はじめる~」だ。ワンマンはおよそ1年半ぶり。はっきりいってこれまで観たなかでもベストといっていい名演だった。正直で、誠実で、音楽的で、エモーショナルな忘れらんねえよ。アンコールが終わったとき、胸に残ったのは爽快で深い感動だった。

忘れらんねえよ/Zepp DiverCity(TOKYO)

客電が落ち、ふらっとステージに現れた柴田隆浩。ギターを下げて「よっ! 10年間やってきた。やってきたらさ、こんな景色広がってたよ、ありがとう!」と挨拶する。そして「こんな歌から始まったんだな」と“ドストエフスキーを読んだと嘘をついた”を歌い出す。その歌がバンドメンバーのイガラシ(B/ヒトリエ)、タイチサンダー(Dr/爆弾ジョニー)、ロマンチック☆安田(G/爆弾ジョニー)が加わり、ゴリっとしたロックンロールに変貌する。そしてフロアとの「サンキューSEX」のやり取りを経て“バンドやろうぜ”へ。うん、ロックバンドだ。メンバーはたったひとりだが、柴田はひとりでロックバンドの楽しさも美しさもしんどさも、ぜんぶ背負ってロックバンドをやっているのだ。普通3人とか4人とか5人とかで持っているものをひとりで持っているのだから、それは濃くて重くて当たり前なのだ。《さあバンドやろうぜ》のシンガロングでフロアにいる全員を仲間に引き入れたら準備完了。あとは転がるだけだ。

“犬にしてくれ”の切実な想いも、“この街には君がいない”の切実な想いも、“あの娘に俺が分かってたまるか”の切実な想いも……まあ全部切実な想いなのだが、それが曲を追うごとに凝縮されて爆発する。大好きな歌に出会って救ってもらったから、とチャットモンチーの“ハナノユメ”をカバーしてみせ、「世界変えようぜ!」と“僕らチェンジザワールド”へ流れ込み……不思議だしすごいと思うのが、これら人の曲や過去の曲に込められた想いと、いまこうして爆音を鳴らしている柴田の気持ちに、ちょっとのズレもないところだ。

忘れらんねえよ/Zepp DiverCity(TOKYO)
忘れらんねえよ/Zepp DiverCity(TOKYO)
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レア曲を織り込んだメドレーでも、美しいバラード“世界であんたはいちばん綺麗だ”でも……ひがんだり開き直ったり、かと思えば真正面から愛を歌ったり、忙しいが、すべて実は同じことである。「俺、お前らのこと愛してっからな!」という言葉とともに突入した“ばかばっか”の間奏で客の上に立ちビールを一気するいつものパフォーマンス(しかも大ジョッキ)で喝采を浴びると、パンクに青春が炸裂するアルバム『週刊青春』からの“YouTuberになればモテると聞いた”を歌いながら、「おまえらの歌だ!」と叫ぶ。常に彼の言うところの「2軍」に寄り添い、走り続けてきたからこそ、そのすべてがメッセージになるのだ。

続く“踊れ引きこもり”のダンスビートで盛り上がったところで、突如「今日、特別な日じゃないすか?」とスペシャルゲストを呼び込む。登場したのは金髪のウィッグをかぶったのん! 音源では赤飯(Vo/オメでたい頭でなにより)が歌っているあのパートを歌い出すと、ものすごい歓声である。柴田が言うところの「のんの無駄遣い」。柴田は直視できない感じだし、彼の言う通り「のんの無駄遣い」という気がしないでもないが、そういえば柴田はのんがユニクロのWEB CMで歌っている“わたしは部屋充”という曲を作ったのだった。というわけでその曲を披露。のんが歌う、思いっきりパンクなナンバーでぶち上がり、のんがステージを去ったあともざわつくフロア。そんな心の間隙を突いて、投下されるのが忘れらんねえよ屈指の名曲“花火”である。ずるい展開だ。

忘れらんねえよ/Zepp DiverCity(TOKYO)
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終盤、「あの、好きです、あんたのこと」とファンに向けて愛の告白をする柴田。「嬉しいこともあるだろうし、嫌なこともあるだろう。しんどいこと、結構あるよな。これね、誰も助けてくれねえから。自分でやるしかねえんだよ。輝きゃいいんじゃねえかな、好きなことやってさ」。金八先生みたいになってしまいました、と茶化してはみたものの、自分自身と、自分に似たようなやつ全員を肯定する讃歌“だっせー恋ばっかしやがって”がその言葉の本気度を教えてくれる。本編ラストは“忘れらんねえよ”。柴田の求めに応じてフロアにはスマホのライトが揺れる。美しい大合唱は、忘れらんねえよの10年の正しさそのもののように鳴り渡った。

「ステージに立ってる時は言いたいこと言えるんだけど、言いたいこと言えなくて、根性なしで、どうしようと思って。あ、俺、ミュージシャンじゃんと思ってさ、歌にしたのね。それ歌って、帰ります」。そんな言葉とともに、アンコールで披露された柴田の恋愛心情吐露ソング“なつみ”。そして銀テープ舞うなか鳴り響いたアンセム“この高鳴りをなんと呼ぶ”。いろいろポーズ取ったりネタに走ったり奇をてらいすぎたり、曲がりくねって行ったり来たりしながら歩んできたこの道こそが、じつはまっすぐだったということを、彼は今自分で証明しているのだ。ダブルアンコール、「今日から青春始められますか?」と鳴らされた“CからはじまるABC”まで、全25曲。10周年のすべてと、10年経って歌うべきことと歌えることをはっきりと見つけた柴田の姿が、輝いて見えた夜だった。(小川智宏)

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