渋谷すばる/幕張メッセ国際展示場6〜8ホール

渋谷すばる/幕張メッセ国際展示場6〜8ホール - All photo by タイコウクニヨシAll photo by タイコウクニヨシ

●セットリスト
1. ぼくのうた
2. アナグラ生活
3. 来ないで
4. トラブルトラベラ
5. ワレワレハニンゲンダ
6. なんにもないな
7. Curry On
8. 新曲
9. 爆音
10. ベルトコンベアー
11. ライオン
12. TRAINとRAIN
13. 生きる
(アンコール)
EN1. キミ


控えめなバックライトに照らされた仄暗いステージに、渋谷すばるのシルエットが浮かび上がる。小柄で少しなで肩のシルエットはまるで少年のようで、抱えているリッケンバッカーのセミアコが大きく見える。広大なステージにポツンと一人佇むその姿は、どこまでも無防備だった。名声も実績も何もかも削ぎ落としたゼロ地点で、今まさに生まれ直そうとしているかのようだった。渋谷すばるのライブツアー「二歳」の初日を幕張メッセで観てから1ヶ月半以上が経とうとしているが、未だにあのオープニングの渋谷のシルエットは鮮明に脳裏に焼き付いている。

だだっ広い長方形のメッセのフロアをぎっしり埋めた大観衆が固唾を飲んで見つめる先で、渋谷が腹の奥から声を振り絞って“ぼくのうた”を歌い出した瞬間、彼の全てが濁流のようにこちらに向かって押し寄せてくるのを感じた。渋谷とオーディエンスの間には遮るものは何もない。“アナグラ生活”、“来ないで”と冒頭の数曲は極端にシンプルな演奏で、彼の声とギターが、不器用なほど真っ直ぐに飛び込んでくるのだ。曲間の彼は無言だ。その代わり丁寧にチューニングするギターの弦が軋む音が聞こえる。大会場にいながらにして、ごくパーソナルな空間の弾き語りに招かれたかのような親密さが感じられる滑り出しで、そこでブルースハープが温かくリアルな彼の体温を伝えていく。

渋谷すばる/幕張メッセ国際展示場6〜8ホール

“トラブルトラベラ”はメンバー紹介を兼ねたバンドアンサンブルが主体のナンバー。各メンバーの挨拶代わりのソロパートに渋谷がハープで絡んでいく即興的なパフォーマンスで、その勢いのままなだれ込む“ワレワレハニンゲンダ”は猛烈パワフルなガレージロック! 「幕張ー! 幕張にお集まりの人間のみなさん!」とこの日最初の渋谷の叫びに、ここまで必死に抑えてきたファンの歓喜が大歓声となって爆発する。渋谷はその後も曲の合間にポツポツとオーディエンスに話しかけるのだが、自分の声をボイスチェンジャーで加工してみたり、ルーパーでサンプリングしてみたりと敢えて捻りを加えたMCになっていて、剥き出し無加工の渋谷すばるを伝える音楽とのコントラストが印象的だった。どんな言葉よりも、歌にこそ本当の自分は存在するのだという彼のメッセージにも感じたからだ。

「世界中を旅して暮らす生活をしていました、次はそういう曲をやります」とアコギ片手に歌い始めたのが“なんにもないな”だ。バックには暑い国、寒い国、知らない場所を旅し続けた渋谷の映像がロードムービーのように流れている。“Curry On”はサンプリングを上手く使ったユーモラスな仕上がりで、徐々に会場の雰囲気も緩く解けてくる。渋谷も緊張が解けてきたのだろう、ファンの掛け声に「カワイイって言われて……ありがとうございます」なんて、くすくす笑いながら答えている。そんな中で披露された新曲は、ピアノとギターの繊細なテクスチャーが絡み合うどこかコールドプレイを彷彿させるナンバーで、彼のこれからの三歳、四歳を予感させる新境地だった。

渋谷すばる/幕張メッセ国際展示場6〜8ホール

今回のツアーは、渋谷の「シンガーソングライター」としてのセクションと、渋谷が率いる「バンド」としてのセクションが交互に組まれたメリハリのあるセットリストだった。“爆音”以降の数曲はまさに爆音の唸りをあげてバンドが疾走する流れで、ハードロック、ブルース、パンク、メタルをごった煮にしたミクスチャーサウンドに、彼らの凄まじいプレイヤビリティが漲っている。レコーディングからの仲間だという5人の呼吸はぴったりで、まるで「渋谷すばるバンド」という生き物のようだ。

そして“ライオン”からアンコールの“キミ”へと至るクライマックスは、再びシンガーソングライターとしての渋谷にフォーカスしたセクションだった。《悩み/怒り/受け入れられなくて/一人 震えてた》彼が、《どんなに大きな壁も/真っ白なキャンバス/自由に好きな様に/動けばいいんだ》と歌う“生きる”を、彼はまさに自分の生き様のストーリーテリングとして歌い、生き様を語り、歌いきった彼は、遠目からでも確認できるほど荒い呼吸を繰り返し、苦しそうに胸を波打たせている。完全燃焼、という言葉がこれほど相応しいパフォーマンスは滅多にないと思うし、真っ白なスクリーンに「渋谷すばる」と浮かび上がる本編ラストの演出は、これが自分なのだと、自分が生きる道なのだという彼の決意表明に他ならなかった。

「ひとりになってのファーストツアーの1日目、自分の人生にとってすごく印象的なこのライブを皆さんと共有できたことを嬉しく思います。ありがとうございます」と渋谷は言った。そうしてソロアーティストとしての、「ひとり」としてのアイデンティティを獲得した彼が改めて遠くの「キミ」を想う、アンコールの余韻も素晴らしかった。(粉川しの)

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