GOING UNDER GROUND @ 日比谷野外大音楽堂

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全国ツアー『GOING UNDER GROUND TOUR 2008-2009 “LUCKY STAR”』のファイナル公演であり、バンドとしては3度目となる日比谷野音ワンマン……なのだが。会場にはちきれんばかりに立ち込めるはずのオーディエンスの高揚感が、大きな緊迫感と寂寞感に取って代わられてしまっているこの開演前の空気を、ツアー開始当初は誰も予測していなかったに違いない。「育児に専念するため、この度音楽活動から離れることにしました」……4月11日にアナウンスされた、洋一っさんこと伊藤洋一(Key)の脱退。そして、この日比谷野音ワンマンが正真正銘、洋一っさんのラスト・スタンドとなる。

かれこれ15年近く前の中学生時代、松本/中澤/石原/伊藤の4人でバンドを組んだ時はドラマーだった洋一っさん。グレて一度やめて「やっぱりバンドやりたい」と戻ってきたらすでに不動のドラマー=丈さんこと河野丈洋がいたために、それこそ1本指レベルからキーボードを始めてまでバンドに加わろうとゼロから努力した洋一っさん。そして、ついにはRolandのシンセの広告にまでフィーチャーされるプレイヤーになった洋一っさん。バンドのトレード・マークの五角形を見てもわかるように、彼らは「どういうジャンルの音楽をやるか」とか「どういうメッセージを発信するか」という嗜好性や主義主張によってではなく、「この5人であること」によって結びついていたバンドだった。それだけに、洋一っさんの脱退は単なる「いちばん美味しいフレーズを奏でてきた1プレイヤーの脱退」に留まらない、バンドの在り方を根底から問い直すだけの大きな意味を持つ。満員のオーディエンスの切迫感も、事の重大さをよくわかっているからこそのものだ。

18:00定刻、5人がゆっくり登場。真っ先に現れたのは洋一っさんだった。丈さんのドラム・ソロから1曲目“ハートビート”へ。キーボード・セットを離れてステージを歩き回り、オーディエンスに向けて高々とピースサインを突き上げる洋一っさん。野音中に突き上がるピースサイン! 松本素生が早くも歌に詰まっている。「歌詞が飛んだだけ」ではないようだ。一方、洋一っさんの「華麗な飛び道具」的な鍵盤さばきは今日も冴えている。“ハートビート”間奏のピアノ・ソロも、“STAND BY ME”の性急&センチなシンセストリングスのイントロも、“Mr.Lonely”のキュワワンと唸るオルガン・サウンドも、バンドのアンサンブルにひときわ鮮やかな輝きを与えていく。

「ようこそ! 3度目の正直! 昨日、雨降ってたから『でたー!』と思って」と松本素生。2005年、2007年に行った過去2回の野音ワンマンはいずれも雨だったのを踏まえつつ、会場を笑いに包んでみせる。「集まってくれてありがとう、ツアー・ファイナル!」と明るい調子で語りながらも、自分自身にまとわりつくセンチメントを振り切るように、MCで核心に触れていく素生。
松本「5人でやるの、今日で最後なんだよね……。でも洋一っさん、サッカー1回もやったことなかったのに、『ブラジルに行く』っつって、ゴーイング1回やめてるからね!(笑)。しかも、Jリーグの試験も受けに行ってるしね」
中澤「50m走で落とされたけど(笑)」
松本「そうそう(笑)。洋一っさんは今回、『子育てに専念したい』っていう外人みたいな理由でやめるわけだけど……今日、精一杯いいライブやれればいいよな! 頼むぞ、洋一っさん!」

“夕”“ラスト・ダンス”“How do you feel?”“トーキョー・キャンバス”など、新作『LUCKY STAR』の楽曲を積極的に盛り込みつつ、1曲1曲堂々と披露していく5人。メモリアルなタイミングのライブだから、ということを差し引いても、この日の演奏は実にタイトで素晴らしいものだった。「アルバム聴いた? あれいいよね。5人であれを作れてよかった。そういうアルバムだね」と再び素生。「洋一っさんがいなくなるっつうことで、どうしようかな?と思って。バンドを終わらせて、何か新しいことを一から始めるってことも一瞬考えたんだけどて……俺、バカだから。音楽好きだから。看板下ろさないことにしたんだよね」という決意表明に、我に返ったようなオーディエンスの拍手が徐々に熱く沸き上がっていく。

“LUCKY STAR”ではアンビエントなシンセ使いも見せていた洋一っさん。しかし同時に、“ショート バケイション”ではハンドマイクでお立ち台に昇って「野音、元気ですかー!」と猪木調で客席を煽ってみせたり、“Holiday”では電飾つきショルダー・キーボードを駆使したりタオルぶんぶん大会を演出したり……と、珠玉のアジテーターっぷりも存分に見せつけていた。そんな姿が、逆に他のメンバーの悲しみを煽ってしまったのか、ここまで気丈に歌ってきた素生は“ボーイズライフ”でついに声が詰まってしまう。それでも涙を拭い、必死に「5人最後のステージ」を務めきろうとする素生。満員の観客も、高々と腕を掲げてそんな熱演に応えている。洋一っさんの鍵盤プレイの象徴のような強烈なストリングスで始まる“トワイライト”で、本編終了。

アンコールで再び登場した5人。「ありがとう! ……もう、それしか出てこないよ」と素生。「あんまりこういうこと言うの、好きじゃないけど……5人のライブを、君らに見てもらえてよかった。またやろう! またやろうぜ!」。“センチメント・エクスプレス”でジャーンとチャイナ・シンバルを打ち鳴らす洋一っさんを見るのも、これで最後だ。会場内の寂寞感が、よりいっそう強まる。“世界のまん中”の、さながらコールドプレイ“Viva La Vida”のような目映いアンサンブルを残して……アンコール終了。

そして、鳴りやまないアンコールに応えて、5人はもう1度ステージに現れた。素生が静かに口を開く。「青臭いこと言っていい? ……さびしいね! 洋一っさんがいなくなるの、さびしいね。でも、『音楽やってく』って決めたから。4人でゴーイングやってくわ。洋一っさんみたいな人、他にいないから。『洋一っさんもどき』みたいな人は入れないから安心して!(笑)。俺、洋一っさんがいたこと忘れる! 洋一っさんの音だけ胸に、ゴーイングやってくわ!」。そして、「俺もソロやるし、丈さんもソロやるし……ゴーイングも、せっかくやるなら、新しくなりたいじゃない? だから、これまでのゴーイングはここでなくなればいいと思ってる」と、宣誓するように語る素生。「来年ツアーやるから、また遊びに来いよ!」と客席に呼びかけて、メジャー1stアルバム『かよわきエナジー』のエンディングを飾る“俺たちの旅”〜“521”の流れでフィナーレへ。ギターをかき鳴らしながら泣きじゃくり、ついにはステージにしゃがみこむ素生。演奏を終え、涙を拭う5人。あたたかい拍手が広がった。

最後、洋一っさんがマイクの前に立った。「今までどうもありがとうございました! 俺が『やめよう』と言った時、4人はすぐ『俺は続けてく』と言ってくれたんで、安心してください! 安心して、次の曲を待っててください! このメンバーでライブできたこと、最高です! すっげー楽しかったです! 本当にありがとうございました! さようなら!」……5人最後のステージは、こうして幕を閉じた。この日示されたゴーイングの、「次」への強い決意に痺れたかのように、客電がついても観客はしばらくその場を離れようとしなかった。(高橋智樹)

1.ハートビート
2.STAND BY ME
3.Mr.Lonely
4.グラフティー
5.同じ月を見てた
6.夕
7.ラスト・ダンス
8.How do you feel?
9.全ての音楽が鳴りやんだあとに
10.トーキョー・キャンバス
11.LUCKY STAR
12.なんでぼくらは
13.TRAIN
14.ショート バケイション
15.Holiday
16.ボーイズライフ
17.TWISTER
18.Twinkle
19.トワイライト

アンコール
20.センチメント・エクスプレス
21.ミラージュ
22.世界のまん中

アンコール2
23.僕たちの旅 〜 521
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