福原美穂 @ 赤坂BLITZ

「こんなにたくさん集まってくれてありがとうございます!」と福原美穂自身がオーディエンスに呼びかけた通り、初のBLITZワンマン・ライブのフロアはびっちり満員。3月25日・名古屋クラブクアトロから福岡/大阪/東京/札幌と回る福原美穂の『RAINBOW Tour 2009』が5公演とも速攻ソールド・アウトしたため、急遽追加公演で決まったこの日のBLITZ公演は、いかにもライブ慣れした子たちから仕事帰りのサラリーマン、親子連れまで実に幅広い客層で埋め尽くされた。

昨年4月のデビュー以降、あっという間にお茶の間レベルでそのソウルフル&パワフルな歌声を浸透させてしまった福原美穂。LAの黒人教会でアジア人として初めてパフォーマンスし、ソウル/ゴスペル本場の人たちの度肝を抜いたりもしてきた彼女……だが。ドラム/ベース/ギター/鍵盤/コーラスといった編成のバンドをバックに、タンバリンを叩きながら1曲目“CHANGE”を歌うその声は、まだフル・スロットルな感じではない。後半のMCでも言っていたが、この日は鼻と喉の調子がベストではなかったようで、自分のコンディションを確かめるように、“恋はリズム”“UPSIDE DOWN”と1曲1曲丁寧に歌っていく。それでも、「今日、初めて福原美穂のライブに来たっていう人! ウォウ!」「今日は何人ぐらい入ってるんですか? ……(沈黙)……え、シカト系? 流す系?(笑)。ちょっと待って、汗ふくから。今日テレビ入ってるんで!(笑)」とフランクなMCでフロアとの距離を縮めていく。

そんな手探りなモードが一変したのは中盤、サンディ・トムのカヴァー“I wish I was a punkrocker”でのこと。アカペラで歌い始めた彼女の、びりびりと空気を震わすような絶唱! 日本中の魂を震わせてきたあの歌声が、翼を取り戻したかのように、戻ってきた。続くスティングのカバー“Englishman in New York”でも、ヒップなジャズ/ボサノバからしだいにサンバ調(!)に発展していくアンサンブルを軽々と乗りこなし、絶妙なフェイクを加えながらあのグッド・メロディをぶっとく高らかに歌い上げていく。

一度スイッチが入ると、あとは彼女の独壇場であって、“ICE & FIRE”“ひまわり”“雪の光”といったしっとりした楽曲にも次々と熱いヴァイブを吹き込んでいく。そして一転、「ロックな曲」と紹介した6月リリースの新曲“HANABI SKY”からはいよいよアクセル全開! スティーヴィー・ワンダーのカヴァー“Sir Duke”なども交えつつ、オーディエンスの魂を直接つかんで揺さぶっていくかのように、その歌はいよいよエネルギーを増していく。「もう、爆発しちゃいました!」と息を弾ませる彼女。「やばいんですよ、バクバクしてて。いいライブができたでしょうか?」の声に、フロア一丸の大歓声! 「調子がよくなかったんだけど、みんなの顔見たら元気になりました! 歌うことは、本当に素晴らしいことですね!」。まさに歌そのものを自らのアイデンティティとする彼女ならではの、リアルな満足感にあふれた言葉だった。

いよいよ本編最後、ヒット・シングル“LOVE〜winter song〜”……へ移ろうとしたものの、観客から次々に「“A Natural Woman”!」「“Amazing Grace”やって!」などと声がかかる。で、ご丁寧にそれらの定番曲をピアノ伴奏で高らかに謳い上げたりして、しかもそれがUSソウルの歴史から抜け出してきたような堂々たる歌いっぷりで、フロアのテンションは天井知らずに上がっていく。“LOVE〜winter song〜”のゴスペルさながらの会場一体の大合唱を巻き起こし、本編終了。

「1年前には想像してなかった世界です。どうもありがとう!」……アンコールで“ドリーマー”“ANYMORE”を披露した後、ダブル・アンコールで再びステージに登場した彼女は、目を潤ませながら観客に語りかけた。ドラマ主題歌にCMに、とフィーチャーされ、国民的シンガーへの道を歩みつつある彼女だが、その実像はようやくデビュー1年経ったばかりのルーキーだ。それでも「守りに入らず、攻めて攻めて、ズンズン態勢で行きたいと思います!」と力いっぱいの闘争宣言。あたたかい拍手が広がる。最後はピアノ弾き語りでの“優しい赤”。北海道で父と見た風景を歌ったこの曲は、彼女のシンガーとしての原風景でもあり、やがてデビューのきっかけとなり、「歌とともに生きる」という決意の証となった。そんな彼女の「今」の感情にシンクロするかのように、オーディエンスの間には感激の涙が広がっていた。まだまだ福原美穂の世界は大きくなっていく……そんな予感を残して、2時間半のアクトは幕を閉じた。(高橋智樹)

1.CHANGE
2.恋はリズム
3.UPSIDE DOWN
4.Everybody Needs Someone
5.Getting There
6.ON TOP OF THE WORLD
7.I wish I was a punkrocker
8.Englishman in New York
9.ICE & FIRE
10.ひまわり
11.雪の光
12.HANABI SKY
13.Sir Duke
14.Lose Control
15.No Warning(When You're Hit By Love)
16.LOVE〜winter song〜

アンコール
17.ドリーマー
18.ANYMORE

アンコール2
19.優しい赤
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