ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS

ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS - All photo by 樋口 涼All photo by 樋口 涼
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環境問題や災害支援など様々なテーマを掲げて、2005年からスタートした「ap bank fes」。今年は2018年以来、3年ぶりの開催となり、コロナ禍の状況を踏まえ初の無観客配信で行われた。会場は、木更津市にあるサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」。通常の有観客でのフェスティバルとは違う、こぢんまりとしたオーガニックで親密な雰囲気のあるステージからの生配信ライブは、「自分以外の誰かのためを想って」という今年のテーマを表現するのにぴったりの環境だった。
10月3日に行われたこの「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」の生配信映像に、Mr.Childrenのライブ映像を新たに加えた特別版が10月10日よりアーカイブ配信され、今回はその配信ライブのすべてをレポートする。

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フェスのホストバンドであるBank Bandは、小林武史(Key)、櫻井和寿(Vo・G)、小倉博和(G)、亀田誠治(B)、河村“カースケ”智康(Dr)、沖祥子(Violin)、小田原ODY友洋(Cho)、Kayo(Cho)という編成。“緑の街”でライブは幕を開けた。小田和正が1997年にリリースした楽曲で、Bank Bandは2010年リリースのアルバム『沿志奏逢3』にこの楽曲のカバーを収録している。何年も前に書かれた楽曲が、この日のライブの1曲目として、まるでそのために書かれた楽曲のように響く。《いつかきっと会える その時まで》と歌う櫻井の歌声が、この時代の切なさと未来への確かな想いを告げるようだった。
ピアノとバイオリンのアンサンブルから、楽曲は“Drifter”(KIRINJI)へ。小林のエモーショナルなピアノソロに牽引されるように、バンドサウンドは徐々に熱を帯びる。そして“糸”(中島みゆき)へと続く。私とあなた、それぞれの糸で織りなす布が《いつか誰かを/暖めうるかもしれない》と歌われるこの楽曲は、そのまま、それぞれの楽器や歌が織りなしていく音楽のことを表すようで、「自分以外の誰かのためを想って」という今回のフェスのテーマとも美しく共鳴した。

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そしてこのあとは、Bank Bandの演奏にゲストボーカルをひとりずつ招いて、それぞれのアーティストが素晴らしい歌を披露していく。「1人目のゲスト。最近彼女の才能を感じる中で、ほんとに稀有な存在だなと思っています。これからどう成長していくか楽しみなアーティスト」と、バンマスの小林が最初に呼び込んだのはmilet。「ap bank fes」初出演のmiletは少し緊張した面持ちだったが、低音域からハイトーンまで、流れるように伸びやかな歌声で歌う“inside you”でのパフォーマンスは圧倒的。さらに「胸が高鳴ってどっかいっちゃいそう」と、このステージに立つ高揚感を口にすると、その想いがそのまま歌に乗るかのような“Ordinary days”を披露し、心の奥底から湧き上がるようなエモーショナルな歌声で魅了した。

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続いて小林が「『ap bank fes』になくてはならない存在です」と呼び込んだのはSalyu。Bank Bandのアンサンブルを担うひとつの楽器のような存在であり、それでいて奔放で切実な歌声は唯一無二。披露した“風に乗る船”の爽やかさの中にある切なさに、心を奪われる。「今日はほんとに晴れ渡って嬉しいです」と、ステージの気持ちよさを言葉にしたSalyuは、このコロナ禍での想いとして「得体の知れないものと向き合ってる中で、先はまだ見えないかもしれないけど、そんな中でも私は歌っていきたい、進んでいきたい」と言葉を続けた。「そんな願いを込めた歌を」と始まったのは“THE RAIN”。光の差す清々しい緑の景色の中で、生き物のような歌声がバンドサウンドと共にどんどん力強くなっていく。風のようなSalyu。その佇まいがとても美しかった。

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そして、「いつも登場すると一気にボルテージを上げてくれます。今日もすごいです!」という小林の紹介で登場したのはド派手なサンバのコスチュームを纏ったKAN。穏やかなオーガニックサウンドとあたたかい歌声で奏でる“何の変哲もないLove Song”。その音像と鮮やかなイエローの衣装のコントラストが可笑しい。しかしこの違和感が不思議とこの空間に溶け込んでいくのだ。さらに自ら鍵盤を叩く“愛は勝つ”のあと、気づけばステージには、KANと同じくサンバの羽根飾りを背中に背負った櫻井和寿が。イカしたギターリフで始まる“君のマスクをはずしたい”を共演し、さらには、KANと櫻井の奇跡のユニット「パイロットとスチュワーデス」の名曲“弾かな語り”を、文字通りふたりのアカペラで披露。極上のハーモニーに聴き入った。

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このあと、バンドアクトとして登場したのがMr.Children。「戻ってきました『ap bank fes』。たまんない! ただいまっていう気持ちと、配信をご覧の皆さまにおかえりなさい!っていう気持ちを、めいっぱい注いで届けます」と、“彩り”を。そして有機的なバンドサウンドがエモーショナルな歌に寄り添うような“HANABI”。さらに、未来への切なる想いが徐々に歌に演奏に込められていく“I’ll be”と、この自然環境に溶け込むような、それでいて力強い豊かなアンサンブルを聴かせていく。最後は「この気持ちいい景色に、この風に、この空気にぴったりの曲を」と“口笛”を演奏。思えば、こんな屋外の小さなステージで演奏するMr.Childrenを堪能できるのは、この配信ならではなのではないか。桜井だけではなく、メンバー全員がとても気持ちよさそうな表情で演奏していたのが印象的だ。

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再びBank Bandのセットに戻ると、「ついにこの方をお呼びします」と小林が呼び込んだのは宮本浩次。少し暮れ始めた空に突き刺さるように響いた“異邦人”の歌声。さらに夕暮れの穏やかな空気に呼応するように“風に吹かれて”を披露すると、「サンキュー! スタッフおよびエヴリバディ!」といつもの宮本節で画面越しに語りかける。“ハレルヤ”ではまさに全身全力での歌唱。ステージを飛び降り、フィールドの奥へと駆け出す姿にもグッとくる。Bank Bandの演奏をバックに、安心して奔放に魂の歌を放つ宮本。“悲しみの果て”にはこの日また格別な感情が滲んだ。ラスト、素晴らしいハイトーンで、歌うことの喜びにあふれた“P.S. I love you”を歌い終えると、「Bank Bandと宮本浩次でした!」と、シンプルながらバンドへのリスペクトと感謝が込められた挨拶を置いて、ステージを去っていった。

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そして、「彼女の圧倒的な歌を聴いていると、透明になる、浮遊していくような感覚になる」と、小林も絶賛する正真正銘のディーバ、MISIAの登場。ライトブルーのドレスが、近づく夜の気配と美しく融合する。小林のピアノの音色に合わせてすっと歌い出したのは“アイノカタチ”。MISIAの歌声が放つパワーに強烈に引き込まれる。曲の合間には、このフェスに彼女が初めて参加した2016年、宮城県石巻でのステージのこと、そして現在皆が向き合っているコロナ禍による困難な状況のことに触れ、「今日はジャンルを超え、すべてを超えて、歌を歌いたい。音楽を届けたい」と、この日このステージに立つ想いを伝えた。そしてこのコロナ禍に生まれた、さだまさしが手がけた楽曲“歌を歌おう”を披露。音数の少ないバンドサウンドが、揺るぎないMISIAの歌声を最大限に際立たせる。《涙はこれで終わりにしよう》と歌う飾りのない歌は、MISIAだからこその説得力を持つ。その歌声自体がメッセージだった。

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ラストはまた、Bank Bandによるカバー曲&オリジナル曲の演奏。まずは“若者のすべて”(フジファブリック)。櫻井のボーカルが、褪せることのない普遍の切なさを映し出す。続いてアップテンポのポップサウンドが鳴り響いて、おなじみの“奏逢 〜Bank Bandのテーマ〜”、さらにSalyuがジョインしての“MESSAGE -メッセージ-”とオリジナル曲を立て続けに披露。再び宮本浩次がステージに登場し、繰り出したのはもちろん“東京協奏曲”。宮本、櫻井、それぞれの個性が融合して、深いハーモニーを生む曲だ。素晴らしい共演だった。その熱をやさしくなだめるように小倉のスライドギターが響き、再び櫻井の歌唱による“Reborn”(syrup16g)。演奏が進むほどに力強くなる歌声に聴き入る。そして、和太鼓の響き、夜を彩る焚き火を映すカメラ――そのトライバルなイントロダクションとステージに登場したMISIAの姿から、次の楽曲が“forgive”であることを悟る。東日本大震災から10年という節目、そして現在進行形で直面しているコロナ禍に生まれたこの曲、そのライブ演奏、歌唱は、「ap bank fes」の本質そのものだった。圧巻。

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そして、今回のフェスを締めくくる曲は、2006年にリリースされた、ap bankのコンセプトソング、“to U”だった。これもまた、ap bankの、そしてこのフェスの在り方を音楽で表現した一曲である。Salyuと櫻井が丁寧に紡ぐハーモニーが、今年はまたより一層心に沁みた。今回の「ap bank fes」の「自分以外の誰かのためを想って」というテーマは、この日ここで鳴らされたすべての歌に、演奏に、強く込められていたように思う。(杉浦美恵)

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