秦基博
鍵盤、ベース、ドラム(あらきゆうこ!)、そして歌とアコースティック・ギターの本人、という、必要最小限のシンプルなバンド編成。すりきれたジーンズに薄茶色みたいなTシャツといういでたち。大きなアクションとか、おもしろおかしいしゃべりとか、そういうのは何にもない、ただ演奏をして歌うだけの、素朴極まりない、はっきり言やあ地味なステージ。
にもかかわらず、いきなり11,000人を圧倒していた。とにかく歌そのものの「伸び」「響き」「広がり」がハンパじゃない。元々メロディ・メーカーとしてのポテンシャルは、とても高い人だけど、生だとそれが2倍3倍4倍5倍になるタイプ。じっと身じろぎもせずに堪能、という受け方のお客が多かったと思う。というか、受け手をそうさせる人だということがわかった。私もそうなりました。
清水翔太
1曲目“Diggin’ On You”からもう、会場中の腕が左右に振られる振られる。秦基博に続き、いや、タイプは全然違うから続いてはいない気もするが、とにかくこの人もあからさまに「声になんかこめられている」タイプ。耳に心地いい声質だし、開放的なメロディだし、聴いているオーディエンスはとても楽しそうなんだけど、本人は全然楽しそうじゃない。いや、別につまらなそうなわけではありません。ただ、楽しんだり自分の中の何かを発散したりするために、歌を歌うという方法を選んだのではない感じ。自分の全存在を、すごい密度でギュウギュウ歌にこめている感じ。だから短い時間であれなんであれ、とにかくここですべてを出し尽くそうとしている感じ。というふうに、私は受け取りました。
特に目と耳を釘付けにしたのは4曲目、「無名のラッパーと出会って作った曲です」と、SHUNというラッパーを呼び込んでプレイした未発表曲“again”。清水翔太の温和な声&メロディと、エッジの立ったザクザクした声のSHUNのラップが絡み合っていくさまは、かなり圧巻でした。ちなみに、ラッパーでSHUNだからといって、SBKの人ではありません。こちらのSHUNは、まだ16歳だそうです。あ、でも、清水翔太バンドのDJは、SBKのSHUYAです。
Crystal Kay
スタートは“恋におちたら”“こんなに近くで…”で、ファンキーかつしっとりと始まったものの、4曲目でChemistry川畑要を呼び込んでデュエットした“After Love-firstboyfriend”も軽妙かつウェットでいい感じではあるものの、なんというか、全体に、軽くない。いかつい。という言い方は語弊があるが、そんなずっしりとした感触のある歌であり仕草であり表情なのです。こんな人だったっけ。前はもっと軽くなかったっけ。
特に、「新曲です」って最後の6曲目にやった“Over and Over”という曲が、やたらよかった。ハウス・ミュージック的なアレンジで、ピアノばんばん鳴り響いて、BPMが125から130の間で、女性ボーカルもの、であればなんでも好き、という私の好みのどまんなかな曲だったというのもあるが、Crystal Kayの新境地なのでは、とかちょっと思った。
KREVA
まず“ACE”と“成功”で場をがっちりロックして、SONOMIが登場して“SUMMER”と“ひとりじゃないのよ”をやって、MCで間もなく出るニュー・アルバムの告知などして、ロック・イン・ジャパンでもやった、トラックをまんまジャクソン5“I WANT YOU BACK”にした“あかさたなはまやらわをん”で会場いっぱいのお客を一挙に沸騰させて、ダンサー6名とともに“イッサイガッサイ”“Have a nice day!”でアゲたおして、最後にもうすぐ出るニュー・アルバムの曲“瞬間speechless”をじっくり聴かせて、帰っていった。
と、1センテンスで書ききってしまいたくなるくらい、あっという間だった。貫禄すら感じた。にしてもこの人、ロック・イン・ジャパンとかap bankとかここJ-WAVE LIVEとか、いろんなところで観たことがあるが、どこに行っても「ここホームだから」もしくは「ホームじゃないけどみんな仲良くしてね」みたいなスタンスでは、ライブをやらない。「全部アウェイ」「だからここでどう勝つか」という戦闘モードで、常にステージに立つ。今日もそうだった。で、最後には見事に勝っていた。
平井堅
わりと最近観た気がする。「気がする」じゃない。フジ・ロックとロック・イン・ジャパンの間、7月28日に、幕張メッセイベントホールで「KEN’S BAR」観たのだった。ここでもレポートしたのだった。しゃべりがあまりにも長くて、ぐだぐだな様相を呈していたのだった。それと比べると、“Strawberry Sex”で始まり、メッセでもやったマイケル・ジャクソンのカバー“BLACK OR WHITE”をやり、“Love Love Love”“瞳をとじて”と代表曲でたたみかけた今日のライブは、珍しくぐだぐだではなく、名曲を次々に聴かせるモードだなあ、と思いながら観ていたのだが、“Love Love Love”の最後のヴァースで歌に入り損ねたあたりから調子が狂い始め、“瞳をとじて”の次のMCが長尺でしかもオチがなく(ツアー先の石川で、千里浜に行ったんだけど水着を持っていなかったので下着で、そしてバタフライで泳いだという話)、挙句続く“POP STAR”の歌いだしでミスってもう一回やり直すなど、見事に今日もぐだぐだなことになったのだった。
しかし、ぐだぐだになればなるほど「ああ、この人素なんだなあ」って感じで、観る側の好感度がアップしていく人であるところが、得だなあと思う。ずるいとも思う。それから、どんなにぐだぐだでもいったん歌に突入すればすごい吸引力で場を持っていってしまうのも、さすがだと思う。『KEN’S BAR』編成からリズム隊を引いた、ピアノとアコギと自分だけの編成。ラストの“LIFE is…”は、ひとりでピアノ弾き語り。堪能しました。
スガシカオ
「♪81.3、J-WAVE!」という、局のジングルを叫ぶように歌ってスタート。したのだが、1曲目“午後のパレード”の2コーラス目に入ったあたりで、正直、「うわ、これ最後までもたないかも」と思った。喉、絶不調。キーの上のほうとか、いかにも苦しそう。元々スガシカオという人は喉があまり丈夫ではなく、こないだのツアーも何本か振り替えになったりした。ああ、今日も……と半ば覚悟したのだが、2曲目“コノユビトマレ”の途中から目に見えて声が出始め、テンションがぐんぐん上がり始める。っていっても、高い声の時はやっぱり苦しそうだったりはするんだけど、それ以外のところでがんがん声をのばしたりしてカバーし、合間のMCで「キャンプ行けば土砂降りに遭うし財布からカードはなくなるし声はかれるし、ここんところ最悪っすよ」と毒づいたり、「そろそろ本格的に声が出なくなってまいりました! みなさん私に力を貸してください!」とコール&レスポンスを求めて盛り上げたりしながら、全8曲歌いきってしまった。
アンコールは“フォノスコープ”やって、次は予定では“イジメテミタイ”だったんだけど、“このところちょっと”をやったので「あ、曲を変えたのか」と思ったら、続いて“イジメテミタイ”もやって、ライブをしめくくった。つまり、この期に及んで1曲足したわけです。日常生活に支障をきたすほどヒザが悪いのに、リングに上がれば一流のプロレスを見せる武藤敬司のようだなあと思いました。
にしても、“午後のパレード”“コノユビトマレ”“奇跡”と、最近の曲が特にやたらとすばらしいのが、これだけキャリア長いアーティストとしては、稀有だなあと思う。特に“コノユビトマレ”は、本当に、何度聴いても名曲だと思う。歌詞、アレンジ、メロディ、非のうちどころなし。ファンじゃなくても、この曲だけは聴いてほしいと思うほどです。
アンコールのラストは、スタート時と同じ「♪81.3、J-WAVE!」で終了。最初は、ほぼスガシカオひとりだったけど、最後は会場全員での合唱でした。(兵庫慎司)