SWEET LOVE SHOWER 2009(3日目) @ 山中湖交流プラザ きらら

SWEET LOVE SHOWER 2009(3日目) @ 山中湖交流プラザ きらら - 桑田佳祐&SUPER MUSIC TIGERS桑田佳祐&SUPER MUSIC TIGERS
最終日にして初の「3日目」を迎えた今年のSWEET LOVE SHOWER。この日は時折雨の降りしきる曇天となってしまい、残念ながら富士山の姿を望むことはできなかったけれど、360°パノラマの山々に靄のような雲がかかって、これはこれで美しい景観だった。僕が参加した初日は陽射しが痛いぐらいだったので、雨は困るけどしのぎ易さという意味では良かったかも知れない。最終日も詳細のレポートはSLSのオフィシャルHPをご覧頂くことにして、ここでは個人的な感想を中心に書き進めてゆきたい。

● andymori
オープニング・アクトはMt.FUJI STAGEでのandymori。なのだけれども、シャトルバスが会場に着いたら既に演奏はスタートしてしまっていて、前半5曲を終えていた。軽く小雨がパラついてきたところで小山田が「雨が降ってきたんで、カッパとか取りに行く人は行ってください」とかMCしている。なんでステージ上のミュージシャンが親切ガイドをしているんだ。それでもステージの方は、勢いに乗った“CITY OF LIGHTS”“僕が白人だったら”と性急なロック・チューンでまくしたてていく。andymoriのロックはアップテンポでもグルーヴがあって、海外アクトの真似事には終始しない、独特の新しいフォルムを持ったロックを生み出そうとする新世代の気概が強く感じられる。頼もしいバンドだ。仕方ないけど、やはり最初からガッチリ見たかった。

● レミオロメン
そして最終日本編は、カウントダウン映像とともにレミオロメンがLAKESIDE STAGEに登場。“スタンドバイミー”の《飛び出せ〜》というフレーズそのままに勢い良くスタートした。続く“雨上がり”では朝一番の大シンガロングが広がる。もちろん国民的バンドとしての人気だが、加えてこの山梨では地元パワーもある。職人みたいな顔をしてベース・プレイに打ち込む前田も、その温かな光景には時折表情を綻ばせていた。藤巻は「個人的になんですけど、一昨日、富士山に登ってきました。道程とかも大変だったんですけど、それで見られる景色もあるんだ、と。そういう歌を聴いてください」と告げて“もっと遠くへ”をプレイし始める。一度歌詞をトチってオーディエンスの囃し声の中で仕切り直したのだが、これが藤巻の本領発揮、という素晴らしい歌でググッと引き込まれた。「ベスト盤を再出発と位置づけて、素直な気持ちで音楽と向き合っていきたいです」とも語っていたが、余計な力みのない、自然体のレミオロメンの実力でオーディエンスを魅了したステージであった。

● かりゆし58
前川の「雨が降って残念とか、富士山が見えないから残念とか、みんなにかりゆし58を好きになってもらおうとかそういう小さなことじゃなくて、生まれてきて良かった、と思えるような1日にしたいです!」というMCでスタートしたかりゆし58。曲調は軽快なラガ・ミクスチャーだったり琉球音階のメロディック・パンクだったりさまざまだが、とにかくクラップやスウェイやシンガロングやタオル回しとあらゆる手段を次々に使ってオーディエンス参加型のステージを構築してゆくのが素晴らしい。「2年前にオープニング・アクトで出させて貰って、2年経ってもこうして歌わせて貰ってるってことが嬉しいわけ。ぶっちゃけ、歌を聴いて貰ってもお腹いっぱいにならんしよ、音楽が好きだったら部屋で勝手にやってろって話なわけ。本当にみんなありがとう!」。率直な感謝の気持ちと一種のシンプルな覚悟のようなものが、彼らのこういうズバ抜けてインタラクティブなステージングを生み出しているのだな、と感じられた。

● monobright
捩れながら全力で疾走するmonobrightの魅力が見事に発揮されたステージだった。桃野の「最後までやまなかこー!」発言とか意味不明だが、そういう意味不明さも含めて彼らの考え過ぎパワーが100パーセント、奇跡的なぐらい効率的にロック・サウンドのソリッドなダイナミズムにエネルギーとして落とし込まれていた。まさに“踊る脳”。「知らない曲でも踊ってくれますか!? ニュー・シングル、プレゼントしちゃいます!」とドロップされた“JOYJOYエクスペリエンス”などは、この野外ステージにはピッタリだけど爽やかでかっこよすぎ。クラップまで巻き起こす歓迎ぶりだった。monobrightというバンドは非常にややこしいメカニズムで成立するロック表現にトライしているのだけど、すべてのギアががっちり噛み合うとこんなに素晴らしいロックになってしまうのですよ、という完成予定図がそのまま生々しく目の前で広げられているようだった。終盤の“SGS”では「山中湖だから、“YNK”で!やってみよっか!」と叫ぶようなシンガロング・フレーズをLAKESIDE STAGEで爆発させていた。

● lego big morl
得意のノイジーだが美しいギター音響で幕を開けたlego big morl。アッパーな2曲目“テキーラグッバイ”では、昂ったカナタがステージ下に飛び降りてしまう。ギター・サウンドの激しさは元々の持ち味だが、すっとぼけるようなメロディで転がる“Noticed?”などもユニークでいい。そして“Ray”でブリブリとサウスポーからの凄まじくグルーヴィなベース音を繰り出していたヤマモトが「昨年はオープニングで、着いてすぐライブだったんですけど、今年は一昨日から来てます」と語っていた。カナタの言葉によれば昨夜はバーベキューをしていたらしい。見事にSWEET LOVE SHOWERを楽しみ尽くしているな、うらやましい。だが、ステージの方もラストの力強く美しいバラード“nice to”まで、勢いだけには留まらない彼らのさまざまな作風の曲群が披露されるものになっていて、短い時間ながらオーディエンスにとってもlego big morlを楽しみ尽くすような内容のライブになった。

●NICO Touches The Walls
「曇りだっていいじゃんねえ? 楽しく行こう!」という黄色いTシャツ姿の光村のMCで幕を開けたNICO Touches The Walls。どんなバンドでも数曲は4つ打ちのダンス・ビート・ロックがデフォルト設定になっている今日にあって、珍しいぐらい8ビートのソリッドなロック・ナンバーにこだわっているような彼らのステージは、いつもゴリッとしていて不敵な佇まいを感じさせる。「スペースシャワー20周年の重みをビシビシと感じながらですね、今日は朝から富士急ハイランドに行ってきました! FUJIYAMAに乗ってきましたよ」。重み、ビシビシ感じてないじゃん。軽やかに遊んでるじゃん。まあ、その不敵さもまた光村。「今日はジェットコースター級のセットリストでお届けしたいと思っております!」。それにしても、ヘヴィな“風人”でのサウダーヂを感じさせるプレイとか、“THE BUNGY”でのユニークなウェスタン・スウィング風とか、古村が繰り出すギター・フレーズの数々は本当に懐が深くて面白い。基本的にゴリッとしている彼らのバンド・アンサンブルに、玄妙な色彩を加えていった。あと、前から気になっていたのだが、オーディエンスの中にはPAテントの真後ろ、ステージの見えないつまりスペースの空いた場所で、演奏だけを耳で楽しみながら盛り上がっている一団が常にいる。さまざまな会場で時折見かける光景だけど、最前線とはひと味違ったホット・スポットだ。

●TOKYO No.1 SOUL SET
HALCALIとのコラボで日産のCMソングになっている、アッパーなディスコ仕様“今夜はブギー・バック”をオープニングに登場したソウルセット。“Change My Mind”、“Rising Sun”と川辺のハイパーなダンス・ビートに渡辺の歪んだギター&男前ボーカルが乗って盛り立てる。それにしても、最近のソウルセットはなんでこんなアゲアゲ元気一杯モードなのか。一発でオーディエンスが沸き立ってしまう。「じわじわ雨が降ってきました……なにが“Rising Sun”だか」とボソリ毒づくのはさすがBikkeだが、そのBikkeも体がシェイプ・アップされて実にヘルシーに見える。要するに、ものすごく格好いいのだ。いや、彼らは昔から格好よかったのだが、その格好よさがBikkeの入り組んだ歌詞世界とか3者3様のややこしいコンビネーションだとか、ちょっとわかりにくい格好良さだったのだ。ところが今は、知らない人が観ても全員が一発で「この格好いい人達は誰?」と食いつくようなステージなのである。もっとシンプルな言葉で書くと、モテ系なのだ。「皆さんの愛があってここに立てています。感謝の気持ちを込めて、渡辺俊美が歌います!」と告げるBikkeは、ラッパーという意味のMCだけではなく演歌番組の司会者みたいだという意味で、真のマスター・オブ・セレモニーである。

ここでボードウォークにてアコースティック・ライブ(初日は両ステージ間のテンポの良い移動でうっかり見落としてしまった)が行われる予定だったのだが、最終日出演の清 竜人は本人の急病ということでキャンセルに。残念だ。

● 東京スカパラダイスオーケストラ
ステージの屋根だけではカバーしきれないぐらいの雨になってしまったので、ステージ上に雨よけのテントが組まれる。10分程開演が押してしまったが、それでもさすがに大勢のオーディエンスが詰めかけてしまうスカパラのステージである。ピンクのスーツで登場したメンバーは、オープニングのジャイブ・チューン“Like Jazz On Fire”、加藤のギターが唸りをあげてスタートする“ルパン三世のテーマ’78”と組み立ててゆく。「スペースシャワー20周年おめでとうございます。我々スカパラも20周年です。今日もぶっとばして行きます! 戦うように楽しんでくれよー!」と谷中がいつものキメ台詞。とりわけ今回は、メンバーのユニゾン・ボーカルが映える“A Song For Athrete”や“そばにいて黙るとき”が良かった。アッパー系スカ・ナンバーだけではなくて、多彩なリズムのBPMのゆったりした曲でも力強いメロディでリードしてゆくさまが、瞬間ではなく人生の長いスパンで戦い抜くスカパラの表現を証明しているようだった。時間が押したせいもあるのだろうけど、とても短く感じられたステージであった。

● 矢野顕子
「そろそろ雨を止ませたいと思います……いいですねこうして緑の中で良い音楽が聴けて、おいしいものも食べれて。私はさっきからイカ焼きを狙ってるんですけど、これが終わったら絶対逃さないから」。チャーミングな中にもその圧倒的な志の強さが宿る矢野顕子。MCにも、ピアノのコード感やボーカルのタイム感にも、立ち振る舞いのすべてにそんな意志の強さが感じられる。諸行無常のえも言われぬ心境を、どこかハッピーにさえ感じられる達観ぶりで歌い上げてしまう“変わるし”には鳥肌が立った。この人のステージは優しいが、痛みや悲しみをそのまま肯定して受け入れるようななだめすかしは一切ない。えっ、と驚くような発想で、極めて自由に、強く、そこにあるものを己にとってもっとも理想的な形に変えてしまう。まるで魔法使いだ。もっと自由な発想で、もっと多くのものに向き合わなければだめだ。それをロックと呼ぶのだ。この人の歌を聴くと、必ずそういう気持ちにさせられる。

● エレファントカシマシ
「ヤー、エビバディ。桑田佳祐の前座のエレファントカシマシです」と宮本が冗談めかしてスタートしたが、この日の宮本は凄まじかった。見るからにボルテージが高かったとか、暴れっぷりが凄かったという意味ではない。あらゆるメロディのあらゆる言葉を、パーフェクトに伝える歌を歌っていたのだ。彼の喉が、彼の表現しようとするもののイメージを完全に捉えていた。歌が歌として届けられるだけで、エレカシのステージはこんなにも素晴らしいものになってしまうのだ、と思い知らされた。バンドはサポート・キーボードに蔦屋好位置、サポート・ギターにヒラマミキオを加えた豪華布陣だったが、極めてタイトで宮本の歌を盛り立てるための演奏をしていた。そんなモードで辿り着くラストの“ガストロンジャー”がどれだけとんでもないものになるか、想像してみて頂きたい。セットリストは新旧織り交ぜたヒット・ナンバー詰め込みセットで、曲数少なめのステージを数多く見れる、というSWEET LOVE SHOWERの特性の前ではどうしようもないことだけど、正直もっともっと聴いていたい、思ってしまった。

● HY
パンキッシュにスタートした“隆福丸”、新里がステージ下で煽りつつ1コーラス丸々を歌ってしまった“フェイバリットソング”、そして生ストリングスの入った優しげな新曲、生ブラスの入った仲宗根シングス“366日”、そしてもはや国民的バンドの貫禄“AM11:00”と、大きな支持のもとに祝祭空間を築き上げていったHY。HYオーケストラと呼ばれるストリングス隊/ブラス隊を交えたゴージャスなアレンジやヒット曲投下は成功の証のようなものだが、ラストに「最後に、もっとみなさんの近くで歌いたいです」とメンバーがステージの淵に陣取ってプレイした“Ocean”のアコースティック・セットが素晴らしかった。大したことじゃないと思うかも知れないけど、コロンブスの卵的な発想と言うか、ファンは絶対うれしいし、より大きくなった支持を正面で受け止めて投げ返すHYの率直な誠実さが無ければ、絶対に出てこない発想だと思う。短い時間の中にもさまざまな仕掛けが施された、素晴らしいステージだった。

●桑田佳祐&SUPER MUSIC TIGERS
「3日間おつかれさまでしたー。ケイスケ・キンタマリアです。最後に出さして頂いてありがとうございます。エレカシとかね、いいねあれね! 矢野顕子とかね。あと最近の若い人はみんな凄いんで、それに対抗するべくいっぱい連れてきてしまいました! 数でどうにかしようという見え透いた魂胆でございます」と桑田は言っていたが、明らかにただ数を集めようと思って集まるメンツではないSUPER MUSIC TIGERS(メンバー詳細はSWEET LOVE SHOWERのオフィシャルHPレポートを参照してください)。半分サザンで半分『音楽寅さん』なスペシャル・バンドだ。で、最初はこのメンバーで桑田曲をやるのかと思っていたけど、もうサザン曲もばんばん飛び出す始末。ルール無用の皆殺しである。後半、“ロックンロール・スーパーマン”の前に“雨上がりの夜空に”を1コーラスだけメドレー的に挿入してカバーしていたけど、桑田が歌うというだけで歌詞の印象が必要以上に卑猥になってしまって、まったくしんみりした気分になれない。ラストの“希望の轍”はNICOとかlegoとかmonobrightとかかりゆしまでステージ上に登場。光村がとんでもなく豪華な演奏をバックにカラオケよろしく歌ってしまったりする。ああ、もう。そして全員でラインを作って大団円へ。祭典の幕引きを告げる花火が、山中湖畔に咲き乱れたのだった。(小池宏和)
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