UA @ 日比谷野外大音楽堂

7月にリリースされたニュー・アルバム『ATTA』を携えての東名阪ツアーで、2年ぶりに日比谷野音のステージに帰ってきたUA。ツアー初日ということもありセットリストなどの詳細は書くことができないのだが、今日のライブを観て率直に思ったことは、UAが音楽という表現方法を心から楽しみ、自由にアウトプットする姿が本当に恰好いいなと思えるステージだったということ。いちミュージシャンである前に、2児の母であり、女性であり、人間であるという根源的なこともそうだし、そこから生まれる人間味だったり、生活感だったりそういうものが自然と音楽に溶け込んで響いているのが本当に素晴らしかった。

緑に囲まれた野音は、太陽が沈みかけたと同時に蝉の鳴き声から鈴虫の鳴き声へと変わり、涼やかな風が流れこんだ。18:20頃、内橋和久(G)率いるバンドメンバーが現れ、それに続くように真っ赤な衣裳に身を包んだUAが登場。3人のホーン・セクションに導かれるように伸びやかな歌声を響かせた。やっぱり、野外のUAは最高だ。生バンドが繰り出すサウンドが気持ち良すぎてオーディエンスは座りながら思い思いに揺れ動く。心地よいアップビートで牽引していくあの曲も、民族音楽のような土着的なグルーヴで広大な大地を感じさせるあの曲も、グルーヴ感満載の新作から多彩な楽曲が次々と繰り出され、時に情熱的に激しく、時に囁くように優しく、様々な表情を覗かせた。

MCでは突然、「徹子の部屋」のテーマソングを歌い出し、「U子の部屋」と題して観客の一人をステージに上げて座りながら他愛もないトークを繰り広げるなど、ものすごくアットホームで温かい。その後、アルバム制作時に作詞作業に集中するために、家族に出かけてもらって一人になって歌詞を書いたというエピソードを披露していたのだけど、やはり音楽とストイックに向き合う姿勢はずっと変わらない。自らの表現をとことん追求し、唯一無二の女性ボーカリストとしての存在を築き上げていった彼女が、第2子を授かり、出産し、育児するというプライベートな出来事とともに平行して制作した今作『ATTA』では、音楽と真摯に向き合うミュージシャンとしての姿と、その一方で母親として、人間としてのリアリティが溢れ出る姿が絶妙なバランスで溶け合っているのだ。

後半、再びUAが「徹子の部屋」のテーマソングを口ずさむと本当にゲストが登場! 「東京は白金よりお越しの細野さん」というUAの呼び込みで、『ATTA』収録の“月がきえてゆく”で作曲を担当している細野晴臣がステージに現れた。思わぬサプライズに会場からも大歓声が沸き起こる。泣ける映画の話やUAがエレクトーンの発表会で“RYDEEN”を弾いたというエピソードなど軽いトークを繰り広げ、細野氏の楽曲と“月がきえてゆく”の2曲を互いに敬愛の念を込めながら披露した。そういえば、“月がきえてゆく”の演奏前に観客から細野氏への質問を募っていたのだけど、「音楽って何ですか?」という質問に、「なんだろうね…」と答えを詰まらせて、UAがオーディエンスに逆質問。返ってきた「毎日をハッピーにするもの」というお客さんからの答えに納得して、漏らしたUAの一言。

「幸せだな〜」。

本当に幸せを噛み締めながら自由に歌っている姿が素敵だった。たぶん、今ものすごく理想的な音楽生活を送っているんだと思う。いち表現者としてのさらなる深みと、いち人間としてのタフな精神を手に入れたUAは今本当に自由に羽ばたくように歌っている。

「生まれてきた娘が初めて出くわしたものに対して言った」という「あった」という言葉に感慨深くなったことから付けたアルバム・タイトル『ATTA』。限られた時間の中で納得いくまで練り上げられた至高の音楽が久々の野音のステージに降り注がれた瞬間、まるで私達に手を差し伸べるかのような慈しみに満ち溢れ、えもいわれぬ多幸感でいっぱいになった。(阿部英理子)
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