ラ・ルー @ 代官山UNIT

pic by Ryota Mori
今年3月にリリー・アレンとともにUKツアーを行い、同月リリースしたシングル“イン・フォー・ザ・キル”が全英チャートで2位、6月にリリースした“ブレットプルーフ”が1位、そしてその直後に発表したデビュー・アルバム『ラ・ルー』が2位を獲得したラ・ルー(このとき1位になったのはマイケル・ジャクソンのベスト盤『The Essential』)。毎年イギリスとアイルランドでリリースされたアルバムの中から最優秀作品を決めているマーキュリー・プライズにもノミネートされた彼らの初来日公演となるのが、今夜の代官山UNITだ。

“タイガーリリー”のイントロが流れる中、らせん状にピンと立たせたトレード・マークの髪型と愛用のカメオ・ネックレスに、カラフルなボーダーのジャケットを纏って現れたエリー・ジャクソン。現在21歳のエリーと、彼女と一緒に共作・共同プロデュースを行っているベン・ラングメイドの2人からなるラ・ルーだが、ベン・ラングメイドはスタジオ・ワークだけに参加しているメンバーなので、ライブには登場しない。今夜はエリーを囲むように、向かって左にエレクトロニック・ドラム、後ろにバッキング・ボーカルを兼ねた女性キーボード、右に男性のキーボードがサポート・メンバーとして加わった。

ジャンルとしてはエレクトロポップと呼ばれる彼らだけど、その演奏にはエレクトロポップという言葉から想像されるキュートさのようなものはあまりなく、もっとずっと激しい。背筋の伸びた、凛とした雰囲気のあるエリーは顔をしかめるようにしてもうほとんど「熱唱」と言っていいくらいにエモーショナルな歌い方をするし、バックもほとんどが生演奏で、かなり肉体的に感じられる。

エリーはもともと父親が聴いていたキャロル・キングやニール・ヤング、ニック・ドレイクやジョニ・ミッチェルといったシンガー・ソングライターたちの作品を小さい頃から好んで聴いていたそうで(そういえばファルセットの出し方にはどことなくジョニ・ミッチェルを思わせるところがある)、サウンドはエレクトロでありながらも、フォーマットとしてはかっちりとした構成を持ったトラディショナルな形の歌ものになっているのは、このあたりに元をたどれるのかもしれない。高校生の頃にはアコースティック・ギターの弾き語りで作曲をしていたのだそうだ。

その後レイヴ・シーンにどっぷりはまったり、メンバーのベン・ラングメイドのスタジオでシンセサイザーを触ったりしているうちにエレクトロニック・ミュージックに向かうことになるのだが、今夜聴いた彼女の歌声の強さを考えると、やはりアコースティック・ギターよりもシンセサイザーのサウンドのほうがずっと合うだろうなという気がした。歌詞を大切にしながら、しかも情熱や苦悩に突き動かされるような自分の声をしっかりと受け止めて増幅し、スタイリッシュにまとめあげてくれるようなサウンドを求めて、エリーは急に転向したというよりは、自然な一続きの流れの中で現在の音楽に至ったのだと思う。

最後の“ブレットプルーフ”ではコーラス部で客席から大合唱が起こり、ステージの4人は驚いて笑う。アンコールはなし。単にデビューしたてで曲の準備があまりないだけなのかもしれないけれど、このあたりにもエリーのさっぱりとした性格が表れているように感じた。約50分間、あっという間の時間だったが、終演後も頭の中で曲が流れ続けるような、密度の高いライブだった。(高久聡明)

1.タイガーリリー
2.アズ・イフ・バイ・マジック
3.ファシネイション
4.カラーレス・カラー
5.ファイナリー・マイ・セイヴィア
6.カヴァー・マイ・アイズ
7.アイム・ノット・ユア・トイ
8.クイックサンド
9.イン・フォー・ザ・キル
10.ブレットプルーフ