川西幸一50歳記念 チョットオンチー 栄光の50年(2日目) @ 日本武道館

今日のゲスト・バンドはくるり。半月前の京都音博の時は、鍵盤入りの4人編成だったが、今日は岸田・佐藤・BOBOの3人だけ。
というシンプルさにふさわしい、「ロック・バンド=くるり」な側面が前に出るような選曲だった。あと、ユニコーンのファンに向けてプレイするんだから、詳しくない人もとっつきやすいように、という配慮からか、シングル曲を主体にしたライブでもあった。

で。えっらいよかった。シンプルで簡素、でもすごく豊潤。一瞬、そもそもこれがくるりのための場じゃないことを忘れて、聴き入ってしまった。特に岸田のボーカル。京都音博の時も思ったけど、ここ最近、歌がどんどんよくなっている気がする、この人。
というすばらしさが、しっかり伝わったようで、ユニコーンファンで埋まった客席に、すごくウケていた。
セットリストは以下。

1.愉快なピーナッツ
2.青い空
3.ばらの花
4.デーゲーム
5.ロックンロール
6.ブレーメン
7.街

4曲目は、ユニコーンの3rd『服部』で民生が歌ったのちに、坂上二郎が歌って「坂上二郎とユニコーン」名義でシングル・リリースされた、あの曲です。
「川西さんの誕生日イベントなんで、川西さんの曲をやろうと思ったんですが、あとで(ユニコーンのステージで)いっぱいやらはるみたいなんで、手島さんの曲にしました。代わりに、手島さんの50歳の誕生日の時に、川西さんの曲をやろうと思います」という、岸田の前置きののちに、始まりました。
Aメロの低い声が、民生のそれと通底するものがあって、とても相性がよくて、これもえらいよかった。
なお、間奏で、岸田がギターを置き、広島カープのユニフォームを羽織り、床にホームベースを置いてバットを持ち、スタッフがトスする球を客席に打ち込もうとするも何度やっても空振り、バットを床に叩きつけてギターを持ち歌い出す、という演出がありました。

って、なんでいきなりゲスト・バンドのことをこんなにいっぱい書いているのかというと、それ以外の出演者、ユニコーン/PUFFY/BLACK BORDERSに関しては、10月19日・20日の大阪城ホールがあるのでネタバレ禁止な上に、それでも書けることは既に昨日、高橋智樹が書いてしまったからです。
えーと、他に書けること、何かあったっけ。そうだ、思い出した。開演直前、マネージャーの細田さんと出くわした時の会話。

私「今日、川西さん、出ずっぱりですよね?」
細田さん「そうですそうです。先輩が衰えていくさまを、楽しんでくださいね」

あと、ユニコーンのライブの時。ステージで歌う川西さんを観て、事務所の大ボス原田さんが、私に耳打ちしたひとこと。

「……これ、『チョットオンチー』じゃないねえ」

要は、「チョット」じゃなく「オンチー」だったってことです。
詳しく書くとネタバレになるのでやめときますが、その「チョットジャナクオンチー」っぷり以外にも、まあ、くだらなかったりしょうもなかったりする構成や演出などが、いろいろありました。いずれもおもしろかったし、笑えたけど、どれも「満員の武道館で、これ、やる!?」みたいなものである、ということは一貫していました。
当サイトのニュースのコーナーでも報じられていますが(一緒に観に行ったニュース担当古川純基が、やたらはりきって書きました)、民生の1回目のMC、ここにも書いておきます。

「本日は川西幸一の、ただの50歳の誕生日のために、お集まりいただき、ありがとうございます。そして、本当に申し訳ありません。お友達のバンドのみなさんも、ほんとに申し訳ありません。やってるうちに、どんどんどんどん申し訳ない気持ちになってきますが……本人は、やることが多くてテンパってるので、あまり気づいていないようですが、僕ら(メンバー)は結構余裕があるので、それに気づいてまして……どんどんどんどん、申し訳ない気持ちになってます」

客席、大笑いでした。きれいに、全員の気持ちがひとつになった瞬間でした。

ただし。この「ここでこれ、やる!?」感というのは、実はユニコーンというバンドにおいて、大変に重要なキモなのだ。ということは、この川西幸一50歳企画に限ったことではない。ファンならみんなご存知だと思うが。

ってこれ、書き出すとすっごく長くなるし、ライブレポートという範疇を超えてしまうので、どうかと思うんだけど、まあいいや。書きます。

そもそもですね。解散前も現在も、ユニコーンを称賛する時によく言われる、「全員が曲を書き、全員が歌うバンドなのがすごい」というやつ。これ、そう言えばきこえがいいけど、よりリアルに、現実に則して言うと、「曲を書けるし歌えるメンバーが5人集まったからすごい」わけではない。
曲を書いたことのない奴に曲を書かせ、歌を歌ったことのない奴に歌わせて、それをメジャー規模で堂々とリリースし、がんがん売ってしまったのが、すごい。
ということなのだ。

普通、ありえない。だって、たとえば、スピッツのアルバムの半分はマサムネが歌ってて、あとの半分はテツヤ・田村・崎ちゃんがそれぞれ歌っている、なんてこと、ありえないでしょ?
簡単に言うと、それをありにしてしまったのが、ユニコーンなわけです。そんなんメジャーで通用するの? しません。なのに、平気でそれをやってしまったのが、ユニコーンなわけです。

曲もしかり。現に、1987年の1stアルバム『BOOM』の時点では、全10曲中民生が8曲、EBIが2曲(そのうち1曲は川西さんが作詞)というバランスだった。それが2ndから崩れ始め、3rd『服部』から全員が入り乱れる、今の形になったのだった。
なんで、そんなことをやったのか。メインの民生が「全部自分が書いて歌いたい」という人ではなかったこと。「俺が俺が」みたいな意識が元々希薄な上に、バンドに最後に加入したメンバーでもあったので「俺のバンドだ」という気持ちがなく、「ああみんなどうぞどうぞ」というタチだったこと。で、本来そういうむちゃを止めるべきディレクターやマネージャー等のスタッフが、「いいじゃんいいじゃんおもしろいじゃん」とそれをあおるような、アナーキーな人ばかりだったこと。
など、理由はいろいろ考えられるが、最も大きいのが、あの20年前の、バンドブームの渦中において、「この状況をナメよう」という目的意識を持っていた、それがユニコーンだった、ということだ。と、僕は思う。

デビューした。売れた。人気者になった。祭り上げられた。じゃあそこで、とことん好き放題やってやろう。「ここまでやったら許されないだろう」ということを、やろう。どこまでなら許されて、どこからが許されないか、実際にやって試してみよう。
というバンドだったのだ。だから、曲を書いたことのないメンバーが曲を書いた。人前で歌ったことのない人が歌った。で、それがまかり通ってしまったのが、ユニコーンだった。

自分の中のファン意識をなるべくぬぐって、冷静にユニコーンを聴くと、どこへ行っても通用するレベルで、ボーカリストとして成立しているのは、奥田民生と阿部義晴だけだ。EBIはボーダーです。テッシーと川西さんは、無理。
もちろん、それぞれがそれぞれのパートをまっとうすれば、日本有数のすばらしいロック・バンドであるのは、誰もが認めるところだ。しかし、その道だけをひた走ることは、ユニコーンはしなかった。片足でその道を走りながら、もう片足で、明らかに走らなくていい道を走る、そういうバンドだった。

ただし。本当に「ただ素人がむちゃやってるだけ」だったら、さすがに通用しない。
たとえば、川西幸一の書く詞は、素人のそれではない。“デーゲーム”や“自転車泥棒”や“オールウェイズ”を聴けば明らかなように、テッシーの作る曲は、しみじみと美しい名曲が多い。
しかし、歌唱力においては、どっちも素人だ。だから、書いた曲を民生に歌わせることもある。でも、自分で歌ってしまうこともある。というのが、ユニコーンのややこしさなのだ。おまけに、川西さんが書いてEBIが歌う、というようなパターンもあったりして、さらに話がややこしくなる。
さらにですね。曲を書いているうちにだんだんよくなっていったり、いっぱい歌っているうちにどんどんサマになっていったりするメンバーも現れる。EBIの歌はそのパターンでよくなっていったし、「ちゃんと歌える」側である阿部Bも、元々はスタジオ・ミュージシャンだったわけで、ユニコーンに入らなかったら、自分で歌うなんて考えもしなかっただろう。
その「むちゃがただただまかり通る」さまも、「むちゃがまかり通っていくうちに磨かれてほんとによくなっていく」というプロセスも、メジャーのフィールドでそのまま見せた。というのも、ユニコーンの画期的な乱暴さであり、おもしろさだったわけです。

ただし。そんな中でも、「磨かれなかった」ものもある。その最たるものが、「川西幸一の歌唱」である。で、それを武道館超満員2デイズというキャパで通してしまう、そんなただひたすらにむちゃなバンド=ユニコーンも、復活以降も健在である、と。
この武道館は、それを示していた。当人たちが思っていた以上に示しすぎて、前述のように民生は、「申し訳ない」を連発した。そんな一夜でした。

実は20年くらい前、いろんなアイドル音専誌とかで「ユニコーンはみんな歌えてみんな曲が作れてすごいすごい」とか書かれているのを読む度に、「ちがーう、全っ然違う」と、苦々しく思っていた。でも当時は、その「違う」ということを、どう書けばいいのかわからなかった。今ならわかる。
で、この『チョットオンチー』、そのことを書くいいタイミングであることに、くるりのことを書き終わったくらいで気づいて、延々書いてしまいました。
失礼しました。(兵庫慎司)
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