まずは、黒猫チェルシーの変名バンド煩悩108切符で、一応本日が初ライブ。センスがいいのか悪いのかよくわからないネーミングだけど、MCで語っていたように、バンド名をネットで検索したらすでに同名のアーティストがいたらしい。実際に検索すると確かに引っかかりました。これにはびっくり。(だって煩悩108切符ですよ?)兵庫のブログで先にレポートされてしまいましたが、オリジナル3曲くらい、カバーでビートルズの“Don't let me down”、ボ・ガンボスの“ギターマン”、The ピーズの“やっとハッピー”の計5曲を演奏。フロアを見てみるとけっこうポカーンとしている人も見受けられたので、変名バンドと気づかない人も多かったのではないかと思います。
続いては、奇天烈ロン毛のスリー・ピースバンド、嘘つきバービー。向かって左にボーカル&ベースの岩下優介、真ん中にドラムの豊田茂、そして右に陣取ったギターの千布寿也は椅子に座って演奏するというフォーメーション。
まず、観るたびに気になってしょうがないのが、個々のステージングである。岩下は、とにかく自由奔放、放し飼い状態。ステージをふらふらと歩き回り、ドラムセットやアンプによじ登り、「うきゃあ」とか「ふぉう」とか奇声を上げ、マイクにむしゃぶりつくように歌う。「緊張しますね」(これが唯一まともなMC)と言っていたけど、僕には全然そう見えなかった。ドラムの豊田は上半身裸族で、スネアあたりをぶち抜きそうな破壊的ドラミング。で、ギターの千布。終始椅子に座ったまま暴れている。長い髪をブンブン振り乱して、足はバッタバタ動かして、何かに捕まってるんじゃないかと思えるほどに、憑依的なギタープレイである。だが、さらに驚くべきなのは、そんな3人が超ド級の演奏技術を持っているということだった。
ただ、当然ながら、そうしたステージングや演奏技術のみが彼らの鳴らす音楽の真意であることはない。よく初期のゆらゆら帝国が引き合いに出され、サイケガレージって言葉でまとめられるけど、それだとやや言葉足らずで、それよりももう少しポップで聴きやすい印象があった。変拍子の鍔迫り合いのように目まぐるしく変わるドラムに合わせて、エフェクターで変化する多種多様なギターサウンドなど、確かに音の情報量は相当なものだが、全体を支配するのは村八分のような土くさいブルース、土着的ロックンロールだと思う。それに、ところどころで昭和歌謡っぽかったり、音頭っぽいメロディやリズムが差し込まれるものだから、演奏技術の難解さと相反して余計にポップに聴こえる。こうして言葉で書くと簡単だけど、じゃあできますかと言われてなかなかできるものじゃない。前々から、聴きにくさと聴きやすさの相反性がどうして共存できるのか不思議に思っていたけど、今日のライブでそれを発見できた気がした。(無論、それを発明したのは彼ら自身なのですが)
で、次はいよいよ黒猫チェルシー。ボーカルの渡辺大知がステージに出てきた瞬間、もう圧倒されて、思わず腰を抜かしそうになった。ボーカリストとして、バンドのフロントマンとしてのオーラ、存在感が以前よりもさらにドえらいことになっている。甲本ヒロト、チバユウスケ、村八分の山口冨士夫、INUの町田町蔵、はてはトータス松本までも含む、そうしたジャパニーズ・ロックの伝説とも言えるフロントマンを連想させるようなたたずまいだ。今年8月に公開された映画『色即ぜねれいしょん』で主演を務め、話題をかっさらったことが決して無関係ではないと思うけど、それにしたって、今年高校を卒業したばかりの18歳が体得できるオーラじゃないはずだ。顔をぐにゃっと曲げて叫ぶスタイルは相変わらずだが、時折一点のみを凝視して歌う姿が本当にカッコいい。
カッコいいバンド、カッコいいライブ。それはどんなものだろう。人によって様々だろうけど、僕の定義の中に、イントロのリフ一発で根こそぎもっていかれる瞬間というものがある。黒猫チェルシーがまさにそれだ。余計な理論やら物言いをすっ飛ばしてしまうほどにトライバルな魅力がこのバンドにはあると思う。基本的には、3コードで(必ずしもではないが)シンプルかつ不穏に鳴らされるロックンロール、パンク、あるいはブルースで、特筆すべきギミックはない。彼らが影響を受けたと公言しているように村八分、スターリン、INUなどの偉大な先人達からの租借、引用したものも確かに多い。だが、仮に世のバンドが同じようなことをしたとして、全てが黒猫チェルシーになりえるのかと言われればそんなことはないだろう。そして、今日のライブの中で、黒猫チェルシーはザ・フーの“マイ・ジェネレイション”(バイリンガル版)と2度目のアンコールでザ・ストゥージズの“サーチアンドデストロイ”のカバーを演奏していたが、それらよりもオリジナルの楽曲の方がはるかにいい。その事実がテンプレートうんぬんではなく、彼らの無類性をすでに物語っているように思う。
セットリストは、現時点での唯一のアルバム『黒猫チェルシー』の楽曲と12月にリリースされるニュー・アルバム『All de Fashion(オール・ド・ファッション)』 から数曲、プレイしてくれました。新曲は、楽しみにしている方も多いと思うので詳細は伏せますが、前作にもあった危険でいかがわしい魅力と攻撃性をさらに鋭く磨き上げ、肥大化させ、音のジャンルという意味での振り幅も多彩になっていました。思わず拳を突き上げたくなるアンセム的楽曲もあった。そして、何より、今日その新曲を初めて披露する彼らのうれしそうな顔ったらなかった。だから、新曲をプレイするからといって音量も楽器もアンプも変更したわけじゃないのに、前作の楽曲たちに比べても一際大きく音がなっているような気がした。凡庸な言い方だけど音に感情がのっていたんだと思う。
もしも自分がロックンロールの「ロ」の字も知らないような10代だとして、この両者に突然出会ったとしたら、その後の人生きっと変わってしまうだろうな。そんなロックの危険な味と衝動性を持っている2組のライブだった。(古川純基)
