身体に影響を及ぼす音、ってありますよね。昔、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎にインタビューした時に、「音楽を聴いてて身体反応が出ることって、普通にあるでしょ。肌がぞわわわって鳥肌が立ったり、ヒヤッて寒くなったり。そういうのをやりたいんですよね」というようなことを言っていた。それ、まさに。
ただ、DIR EN GREYの場合、ぞわわっとかヒヤッじゃなくて、音と声を浴び放題浴びていくうちに、身体がしびれて固まっていく感じ。特に1回目のアンコールがすさまじかった。比喩ではなく、本当に肌がしびれていく。ライブがすべて終わってそのしびれから開放された時も、元通りではなく、全身になんかヘンなこわばりが残っていた。丸1日すごい緊張状態が続いたあととか、すごく寒い屋外にずっといたあととかの、あの感じ。今晩寝たら、よくて悪夢、悪くて金縛りだなあと思いながら帰途についた。で、見事に、イヤな夢を見ました。
この武道館、アリーナ部分はオールスタンディングになっていて、アンコールの時そこでものすごいヘッドバンギングしているファン、いっぱいいたんだけど、ああやって激しく動くのって、その「音の金縛り」に抗うためなのかも、とすら思ってしまった。そんなことはありませんが。
ただし。ここで「音がでかかったのね」とか「へヴィだったのね」と受け取られると、ことを間違う。ボリュームを上げて、音をでかくすればそういう音になるのかというと、当然そんなことはないわけで、というか、例えばこの5人とまったく同じ楽器を用意して同じ音のセッティングをして同じサウンドシステムを通せばDIR EN GREYの音になるかというと、全っ然そうならないのがバンドというもののおもしろいところなわけで、つまり、いわば、「楽器を通して人間が爆発するさまを表現する」、それが5人とも、あ、京はボーカルだから「マイクを通して」だけど、それが異様に優れているのです。
全員がそうやって爆発しっぱなしなのもすごいし、なのに5人の音がガシーンとひとつの塊になっているのもすごい。なんでこれ、演奏がずれないんだろう。お互いの音とかちゃんと聴きとれているんだろうか。そう思えないんだけど、どう見ても。と、不思議に思う瞬間が、ほんとに何度もありました。
映像や照明とかの演出もすごいもんだったけど、これ、客電つけっぱなしで何のセットもないようながらんとしたホールでやっても、圧勝だろうなあと思う。
あと、明らかに世界基準の音なんだけど、ただ「欧米のバンドと同じ」なだけではない。クオリティとしては、アメリカやなんかのモダン・へヴィネスのバンドと一緒なんだけど、同時に「でも、欧にも米にもこんなバンドはいない」音なのだ。じゃあ日本にはいるのかというと、当然、いない。
要は、どこにもいないってことです。それが何よりもすごいと思った。(兵庫慎司)
SET LIST
1.我、闇とて…
2.Deity
3.OBSCURE
4.RED SOUL
5.STUCK MAN
6.慟哭と去りぬ
7.蝕紅
8. 蜷局
9.GLASS SKIN
10.THE PLEDGE
11.DOZING GREEN
12.dead free
13.BUGABOO
14.冷血なりせば
15.凱歌、沈黙が眠る頃
アンコール1
16.HYDRA -666-
17.AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
18.朔-SAKU-
19.残
20.激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
アンコール2
21.THE FINAL
22.INCONVENIENT IDEAL
23.VINUSHKA