残念ながら2/10に予定されていた大阪公演はスケジュールの変更ということでキャンセルになり、東京一発のみとなってしまったゴシップの再来日公演だが、リック・ルービンのコロムビアから昨年アルバム『ミュージック・フォー・メン』もリリースしメジャー・デビューを果たして以降、彼女たちのステージにはどのような影響と変化が現れているのか、興味が尽きない今回のステージである。
先にブレイス、ハンナとサポート・ベーシストが歓声の中でステージに登場し、ささっと“ダイムストア・ダイアモンド”の演奏をスタートさせる。すると、どこからともなく歌声が……更にヒート・アップする場内。うめえ。さすがに自らの「出」を心得ているベス姐さん、ここで蝶柄の黄色いワンピースに包まれた豊かな体を揺らしつつ舞台袖から登場である。「ヨウコソー!」と最前線のオーディエンスとも親密に触れ合いつつ、ソウルフルなその歌声を聴かせてゆく。続く“ポップ・ゴーズ・ザ・ワールド”はバウンシーなディスコ・ビートにブレイスの華やかなシンセ・サウンドが乗る。圧巻のシャウトを交えたベスのボーカルは、ここで早くも全開だ。うん、剥き身のパンク・サウンドからルービンによるスタイリッシュでモダンなロック・サウンドへと進化を果たしていた『ミュージック・フォー・メン』でのゴシップだったが、4ピースで豊かに幅広く表現できるこの編成だと、あのアルバムの曲はずいぶんリッチな手応えがあるものとして再現されてゆくようだ。
単純に好みの問題と言ってしまえばそれまでなのだが、以前のささくれ立ったパンク・サウンドにベスの力強いボーカルが乗るスタイルからメジャー・デビューに伴うポップで整ったサウンドへの変遷は、分からないではないけど個人的には少々寂しくも感じられるものだった。しかしステージで直に触れてみるとなると、パンキッシュなサウンドはもちろん効果的に使われるし、リッチでグルーヴィに振り切れる曲ではむしろ、ディスコ/ハウスがまだゲイ・カルチャーと密接に関わっていた時代のムードを再燃させるような(いや、実際はどうだったか知らないけど)、未精製で闇雲なエネルギーを放つアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックの匂いをイメージさせてくれる。
「日本語でゲイって何て言うの? オカマ? オカマー!!」
ホモセクシュアルのために歌われた“メン・イン・ラヴ”で、ベスはマイクを口にくわえ込んで声を出すパフォーマンスを見せつけていた。ベスの語り口やパフォーマンスは常にユーモラスだし、なので笑ってしまうのだが、エンターテインメントであることの先に何かしらの切実さも受け止めてしまう。だいたい、あの豊満な体で、美しいくらい華麗なステップを踏み続けながら歌うのだ。常識はずれもいいところだと思う。そして曲間では何度もオーディエンスに語りかけ、日本語の言葉を教わったりしては、ハンナに「カンパーイ!」と音頭を取らせてしまう。そして遂にステージ下に降り、「イッショニ!」とシンガロングを求め始めてしまった。それで一体、誰が姐さんをステージの上に引き上げるというんだ?
「もう一曲で終わりよ(One more song.)」「ノオォォー!」
早い。19:00過ぎに開演したのに、時刻はまだ20:00である。ベスは咄嗟に「one more song」のフレーズをダフト・パンクの“ワン・モア・タイム”のメロディに乗せ、アカペラで歌い出す。それはフロアに伝播し、あっと言う間に「オー、イエー」「オーライ」のコール&レスポンスを生み出していった。見事である。歌唱力という自身最高の武器を使って、目の前をあっという間にエンターテインメント空間にしてしまうことが出来る。もちろんアンコールはあって、ラストはやはり、雷が落ちるような爆音とともに“スタンディング・イン・ザ・ウェイ・オブ・コントロール”が披露された。爆発的な盛り上がりを見せるリキッドルームである。うーん、披露してくれたことはもちろん嬉しいし、やらないわけがないのだが、結局これが一番盛り上がってしまうのだな。環境や作品の質が変わったところで、今度は新しいゴシップに、新たなる最高のアンセムを期待したい。(小池宏和)