AC/DC @ さいたまスーパーアリーナ

最初に:セットリストは、「ニュース」のコーナーで公開しています。ご覧になりたい方は、そちらをご参照ください。以下の文中でも、セットリストに触れる箇所がありますので、知りたくない方はお気をつけください。

というわけで、9年ぶりの来日公演の初日。たまアリを埋めつくしたファン一同(推定平均年齢、若く見積もっても35歳オーバー、41歳の私がまったく浮かない、そして隣の席のRO編集部小川26歳が力いっぱい浮く、そんな空気です)、もう開演前からものすごいテンション。物販、並ぶ並ぶ、買う買う。ビール、飲む飲む。歓声奇声怒号など、もうあげるあげる。いい歳してあの光る赤いツノを頭部に装着した人、ディズニーランドのミッキー耳以上に多し。
で、オープニング映像が終わると花火がどっかんどっかん上がり、いつの間にかバンドがステージにスタンバっていて“暴走/列車”でライブがスタートした瞬間に、たまアリがまるごと沸騰し、あとはもう、約2時間にわたり大沸騰状態が続き、そして、そのまま終わった。そんなライブでした。

ブログにも書いたけど、僕は9年前の来日を観逃していて(チケット持っていたのに!)、今回初めて生のAC/DCを観た。で、中1から現在まで作品が出るたびに聴いてはきたものの、正直言って、小川の隣で踊り狂っているRO誌翻訳番長高見展ほどは、熱心なファンではない。
そんな私ですが、「楽しかった」「面白かった」「笑った」というのもいっぱいあったけど、それ以上に、もうとにかく、感動しました。大げさでなく、ロックのひとつの理想的なありかたを見た気がした。本人たちにとって理想的、ではなく、ファンにとってだ。

2008年の最新アルバム『悪魔の氷』の曲を4曲やりつつ、 “バック・イン・ブラック”“ハイ・ヴォルテージ”“地獄のハイウェイ”“悪魔の招待状”などなどの過去の代表曲たちがずらりと並んだセットリスト。花火やバルーン、映像や花道、ステージセットや大砲などの演出。「黙々と演奏する3人」「パフォーマンスする2人」のコントラストがはっきりと分かれたバンドの音。
どれひとつとして、なんというか、自分たちのためにやっていない。AC/DCを求めるファンの元に、ファンの望む形で、最高の状態のAC/DCを届ける、そこだけに焦点が絞られているライブ。

特にアンガス・ヤング。もう本当に、「全身全霊」という言葉をそのまま人間の形にしてSG持たせたみたい。動く動く。弾く弾く。頭っからラストに向かって時間経過と共に体力が尽きてテンションが下がる、のとは逆で、だんだんじわじわテンション上がっていっているような気すらする。
すべてを出し切りすぎて、最後のほう、なんかもう、見た目、おじいちゃんみたいになっていた。途中、うしろの席あたりから「江頭みたい」という声がきこえましたが、私は電撃ネットワークの南部さんを連想しました。もちろん、いい意味で。って、何をどう解釈したらいい意味にとれるのか自分でも不思議だが、ほんとに称賛の言葉として、そう思った。たぶん「江頭みたい」と言った人も、そうだと思う。

という、おじさんおばさんファン大満足なライブだったんだけど、かといって、懐メロではない。いや、懐メロでもあるけど、それだけじゃない。同時に、ちゃんと今のバンドだ。懐メロバンド、日本にいっぱいくるけど、そっちじゃなくてストーンズみたいな「大ベテランの現役」だ。って、あたりまえか、AC/DCなんだから。
ただ、CGやバルーンや特効なんかの演出面では、「ちょっと古い」「根は80年代スタジアム・ロック」なセンスは感じたけど、その「とにかく金と力にあかせて最新のものを集めました」って感じじゃない、ゆえにちょっとダサいあたりも、なんというか、好ましく思えました。

僕が中学高校の頃、日本のバンド小僧の間には、ヘビメタの嵐が吹き荒れていた。で、僕もやっていて、AC/DCにも手を出そうとしたんだけど、スコアを見てちょっとコピーしてみたところ、メンバー誰も乗り気にならずに、やめてしまった。おもしろくなかったのだ、演奏しても。ギター、ゆっくりで単純で、速弾きとかないし。ベースのパターン、どの曲もおんなじだし。ドラムに至っては、ほとんどの曲が「ゆっくりドンタンドンタンってやる」だけ。速く弾きたいとか激しく叩きたいというバンド小僧心に、まったくもってそぐわなかったわけです。「何これ、誰でも真似できるじゃん」みたいなものだったわけです、ボーカル以外は。
しかし、誰でも真似できるということは、本当の意味では「誰にも真似できない」ってことでもあるんだなあ。と、このライブを観ながら思った。AC/DCのフォロワーっていないでしょ。そういうことです。

なお、アンコールの一番最後の曲が入っているアルバム、『悪魔の招待状』が、僕がリアルタイムで初めて聴いた、AC/DCのアルバムです。それが中1の時ね。と、終わったあと、隣の席の小川に言ったら、「僕が生まれる2年前です」。そうですか。
とにかく、これから観るみなさん、お楽しみに。(兵庫慎司)