PLASTICS@代官山UNIT

“I AM PLASTIC”! “DIGITAL WATCH”!
 “DELICIOUS”! “ROBOT”! “PEACE”! といった超代表曲連打の本編16曲。加えてアンコール2曲……のはずが、中西俊夫「先輩、何か一言!」 立花ハジメ「……全っ然物足りない!」と急遽ザ・ダイナマイツ“トンネル天国”に突入したので(立花ハジメが慌てて「キーどこだっけ? え、F?」と訊いていたので、本当に急遽やったんだと思われます)計3曲。88年の再結成から数えても約22年、最初の解散からだと実に29年ぶりとなる、日本のアバンギャルド・テクノ・ポップのオリジネイター=PLASTICS再結成は、ユルユルと言ってもいいくらいにリラックス・ムードで、ユーモラスで、それでいてシニカルで、スリリングで、どの曲もいちいち鋭利だった。その後の世代に多くのフォロワーを生んだとはいえ、もう20年以上の長きにわたって時系列の彼方に埋まっていた楽曲とサウンドであるにもかかわらず、だ。

この日はイベント形式で、フロア入口には「19:00 NOMARS/19:30 d.v.d/20:30 PLASTICS」という紙が貼ってある。まずはNOMARS。開演時間の19時を過ぎると、覆面かぶった人物が薄暗いステージ上の椅子に着席、そのまま10分ぐらい動かない。で、ギター/ベース/ドラム(ずっと立ちっ放し)が登場してノイジーなニューウェーブ・テクノ風の痙攣サウンドを鳴らしても、その次に腹話術の人形が巨大化したような白塗り&七三分け&子供ブレザー姿の男性Voが登場してがなりあげてもピクリともしない。ので、そろそろ「それ」が人間であることを誰もが忘れかけた(あるいは「誰かが人形を運んできたのを人間と見間違えたかな?」と思い始めた)……その頃、「彼」はすっくと立ち上がって、くねくねぎくしゃくと曲に合わせてダンスを始める。オーディエンス、素でビビる。ニューウェーブ/テクノの根底に潜む、人間と機会が寄り添うことによる奇妙な背徳感をそのまま形にしたようなステージ。

続いてはItoken&Jimanicaのドラム・デュオ+映像作家=山口崇司から成るトリオ=d.v.d。「ドラム+VJ」とも違って、ドラム2人のプレイと丸っこい抽象画のようなCG映像が完全にリンクして、Itokenがバスドラを踏むたびに、Jimanicaのスネアがスパンと鳴るたびに画がぴよんぴよんと動く……だけでも面白いのに、エレクトロなトラックをバックに、時に2人のビートがポリリズム的に絡み、時につんのめった変拍子を刻み、時に壮絶なドライブ感を演出し……と、「人力ビートはどこまで惰性や慣性から解放されうるのか?」的なトライアルをリアルタイムで展開していくような驚きと感動が、1ストロークごとに生まれていく。途中「今日はスペシャル・ゲストが!」というJimanicaの声とともに、4月に一緒にアルバムを出したばかりの相対性理論・やくしまるえつこがオン・ステージして“時計ちっく”などを披露。ついさっきまでエレクトロニカ/ポスト・ロック的な空気感だったステージが、「やくしまるえつことd.v.d」編成になった途端、急にテクノ・ポップ的要素がぐんと増しているのが印象的だった。機械+人力=テクノとすれば、やはりやくしまるのボーカロイド的ウィスパー・ボイスは「機械」サイドを担っているのだろうか? 面白い。

で、PLASTICS。少なくともサウンド的には、「00年代仕様にアレンジ」とか「ベテランならではの威厳を押し出して」とかいう意識は皆無。むしろ、中西俊夫(Vo・G)、立花ハジメ(G・Vo)、佐久間正英(G・Key)、屋敷豪太(G・Dr)の4人の巧みな押し引きによって、PLASTICSが当初から掲げていた「アバンギャルドでプロフェッショナルな感覚で描くアマチュアリズム」を、ポップでチープでキッチュでキュートでぶっ壊れまくった「あの感じ」のまんま2010年の「今」にあっさりと蘇らせてしまったところに、ポップ・ミュージック界のマエストロたる彼らの真の凄みを感じた。

このライブはすでにUSTREAMで全世界に同時配信されているので、「中西/立花/佐久間/屋敷の4人にmomo(Key・Vo)/SAORI(Vo・Flute)/マドモアゼル・ユリア(Vo)を加えた7人編成でのステージ」であることも、メインの4人が身体中に風船詰め込んだ、全身マッチョ風なんだか凸凹なんだかわからないツナギ姿で登場した」ことも、「アー・ユー・レディ・トゥ・ロック・トゥナイ?……アイム・ノット・レディ(笑)」(中西)とか「……すみません、どこかにオチ落ちてませんか?」(立花)とか終始脱力MC満載だったことも、さらには“ROBOT”の途中でショッキング・ピンクの布をかぶった巨人が現れて、その下から姿を見せたのが文字通りのギター界の巨人=布袋寅泰(!)だったことも、すでに「周知の事実」だろう。そういった臆面のないMCや心憎い演出も含め、4人それぞれに長いキャリアを経たベテラン揃いの布陣ならではの底知れぬ魔術を感じずにはいられない。何より、客観的にはどっからどう見てもオトナな4人が(オヤジ感を逆手に取りつつも)「今のPLASTICS」をティーンエイジャーのように全身で楽しみきっているのを見ると、「すごい」とか「楽しい」とかとは別の、見たこともない異世界へ連れて行かれるような背徳感と高揚感を感じてワクワクしてしまう。

「全曲盛り上がって騒ぎまくる」というよりは「80年代から冷凍保存されていたポップの魔法によって1曲ごとに金縛りに遭う」といった趣の(こちらもベテラン勢がメインの)超満員のオーディエンスは、曲が終わるたびに魔法がとけたように熱い拍手を送っていたし、アンコールの最初“COPY”の前の中西の「PLASTICS復活……したかな?」という悪戯っぽい問いかけにはひときわ大きな歓声が湧いていた。アンコールを終え、7人がステージ前に並んで一礼したのは22:13のこと。立花が中西に何か耳打ちしている。中西「……『またやっていいか?』って言え!と言ってます!」。その声に応えるように、フロア中から熱い喝采が鳴り響いた。最高だ。そして、次は5月15日。いよいよ『JAPAN JAM 2010』リベルタ・ステージにPLASTICS降臨! ポップ・ミュージック史に残るに違いない決定的瞬間を、1人でも多くの人に目撃してほしいと思う。(高橋智樹)
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