くるり @ NHKホール

くるり @ NHKホール
くるり @ NHKホール
シングルのカップリング曲を1枚にまとめた、いわゆるカップリング・ベスト・アルバム『僕の住んでいた街』のリリース・ツアー、『くるりライブ興行2010~地獄の団体戦~』。全5箇所・6本のうちの、2本目と3本目である東京・NHKホール2デイズの2日目でした。ちなみに、先に上がった高橋智樹のライブレポの通り、チャットモンチーも同じようにカップリング・ベスト・アルバムのツアーをやっていて、まったく同じこの2日間、東京でライブでした。リリースはともかく、ライブ日まで揃うとは。偶然ですが。

開演前、ホールに入ると、BGM、なし。客席の話し声がざわざわと響く中、ステージ後方のスクリーンに、町の風景写真とコメントが、次々と映し出されている。これは公式サイトで行っている「君の住んでいた街」という企画で、ファンが自分の住んでいた街の写真とそれにまつわるコメントを投稿、サイト上にアップされるというもの。さらに、優秀作品はこのツアーの開場時に、このように上映されるわけです。既に、300件を超える投稿が、アップされています。6月6日まで投稿を受け付けているそうです。こちら。 → http://www.quruli.net/bokumachi/kimimachi/

その上映が終わり、さりげなく、淡々と、ライブは始まった。どういうふうなステージへの登場のしかただったか、書くとネタバレになってしまうので遠慮しときますが、「いよいよスタート!」みたいな華々しさがまったくない、ぬるっと始まる感じだった。で、終わり方も同じような感じだった。
つまり、基本的に、ただ出てきて、演奏して、歌って、終わったら帰るだけ。という、ドラマツルギーとか演出とかが異様にないライブ。いや、照明やなんかの演出はあったけど、そのどれもが、盛り上げとか派手さとは、逆の方向を向いている感じ。
そして、『僕の住んでいた街』のツアーなんだから、当然、そこからの曲をいっぱいやる。ということは、誰もが聴きたいシングル曲やヒット曲は、基本的にやらない。さらに、岸田曰く「次のアルバムのレコーディング、もう終わってます。まず7月にシングルが出ます」だそうで、そこからの曲も相当の数、プレイした。新曲が聴ける、というのはうれしいが、逆に言うと「知らない曲が多い」ということになる。
シングルのカップリングで、オリジナル・アルバムには収録されていない曲と、聴いたことのない新曲が並んだライブ。しかも、基本、ただ淡々と演奏して歌っているだけ。さらに言うと、今のくるりは、岸田&佐藤にドラムのBoBoの3ピースという、必要最小限の人数と音数の編成だ。

というわけで、はっきり言って、大変に地味なライブだった。しかし、おっそろしくよかった。
打ち込みを取り入れてみたり、サポートでギターやキーボードが入ったり、オーケストラと組んでみたり、その時期その時期によって楽器編成やサウンド・フォーマットをどんどん変えてきたのが、くるりのこれまでのライブの歴史だが、それがうまくハマると、「日本最強」な、「世界レベル」な、「他のバンドが音楽やめたくなる」くらいな、すさまじい音楽集団と化す時がある。ずっとではありません。時期とかメンバーとか本人たちの心のありようとか、いろんなものが作用して、そうなる時期がある、という話です。だから、そうじゃない時もある、という話でもあります。
で。これまで観たどのくるりよりも、もう、あからさまにそうなっていた。すげえ。ロックってこういうもんなんだ。おおげさだけど、そこまで思ってしまった。
ほら、誰が見ても明らかにロック・バンドのフォーマットで作っている音楽なのに、「それまでロックがやれていた範疇」から踏み出していくみたいなバンド、ほんとたまにだけど、いるじゃないですか。「いるじゃないですか」ってなれなれしく言われても困るだろうが、私の場合、日本でいうと、くるり以外では、ZAZEN BOYSとBRAHMANがそれにあたります。より正確にいうと、その方面は長らくBRAHMANの独壇場だったんだけど、ここ2,3年でZAZEN BOYSがそこに達してきて、そしてくるりは昔から、調子いいとそこに達して、調子悪いとそこから外れて、みたいな感じだった、と思う。
で、この夜のくるりはモロにそれだったんだけど、ZAZENやBRAHMANと違うのは、「音圧」とか「圧倒的な音のうねり」とかを用いてそこに到達しているのではなく、淡々とした、「簡素」とか「素朴」という方向性の音でもって、そこに達してしまっているところだ。なんでこんなことできるんだろう。
とりあえず、事実として、岸田も佐藤も、プレイヤーとして、シンガーとして、明らかに以前よりもレベルが上がっている。こんなにキャリア長くて、こんなにいい歳で、「まだなおのびる」ことって、あるんですね。びっくりしました。2,3年か前に、トータス松本が奥田民生のことを「民生くんおかしいよ! 40過ぎてギターがメキメキうまくなるなんて!」と言っていたことがあったんだけど、それをちょっと思い出したりしました。
ちなみに、BoBoの伸びは、よくわかりませんでした。ドラマーとして最初からあまりにすごいので、この人。

なお、あとで知ったんだけど、セットリスト、NHKホールの1日目と2日目で、結構違ったらしいです。これから観る方、お楽しみに。私はもう観たので、来たるアルバムを楽しみにしています。(兵庫慎司)
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