「昨日、日本代表とパラグアイの試合がありましたね。とても予想外の展開でしたね。一番予想外だったのは感動してTVの前で泣いちゃってた自分です。そんな感じで今日は全力で行こうと思うのでよろしくお願いします!」
そんな感じってどんな感じ?と一瞬頭の中に「?」マークがよぎったけど、まさに、予想外の展開で自由自在なプレイスタイルを解き放ち、初のワンマンライブをやり切ったシンガーソングライター沼田壮平ことOLDE WORLDE。2009年11月にリリースしたアルバム『time and velocity』でデビューを果たし、今年4月に発表した1stフルアルバム『Anemone "Whirlwind"』で、その中性的な魅力溢れる歌声が一躍話題を呼び、2010年を牽引するニューカマーとして取り上げられるなど注目を集めるOLDE WOLDEを目撃しようとShibuya O-nestにはたくさんのオーディエンスが集まった。
サポートメンバーを引き連れ、アコースティックギターを抱えながら、両手でバンザイをして意気揚々とステージに現れた沼田。太陽の光に照らされて反射する水面のようにキラキラとしたアコースティックギターの音色を響かせた“cosmic live”で緩やかにライブはスタート。と思えば、エレキギターに持ち替えギター・ポップ全開の“isabelle”、グルーヴィーなヒップホップ・チューン“How's your friday?”を畳みかけ、被っていた帽子を飛ばす勢いで軽快にドライブしていく。先ほどの軽快さが嘘のように歪んだギターがずっしりと来るグランジ・ナンバー“time and velocity”が終わる頃にはフロアも熱気を帯びて、「冷房を強めにしてください!」という沼田からの業務連絡が飛び出すほどだ。
帽子を被り直し、「暑いと言えば、夏ですね。じゃあ、夏に合う曲を何曲かやります」と言って、新曲2曲を含めたアコースティック・ナンバーを披露。雲ひとつない青く澄んだ空、眩しく煌めく太陽の光、鮮やかな緑が映える木々、その木陰に佇む犬と飼い主、小鳥のさえずり……そんな情景が思い浮かぶような楽曲たち。全編英語詞ということもあって、音そのものから想起される景色がビビッドに浮かび上がる。楽曲自体は沼田が影響を受けてきたであろうUSインディー・ロックのエッセンスが多分に含まれているのだが、単なる洋楽志向に留まらない、曲から思い浮かぶイメージや雰囲気を大切にした共有感を持っている。いくらここが渋谷のど真ん中といっても、ファルセットの効いた沼田の柔らかな声が降り注げば、頭の中はそんな夏の風景でいっぱいだ。
「明日は長崎に行くんですけど、今日のライブが終わって夜中12時半くらいに車で東京を出発するんです。だからって体力温存なんてしようと思ってません。今日は1%も残さずにやろうと思ってるんです! なぜなら、僕は運転免許を持ってないから(笑)」と会場の笑いを誘いつつ、全力を出し切ることを約束すると、ギターを下し、ハンドマイクで軽やかにステップを踏みながら“New Delhi”の流麗なフロウを展開する。アコースティック・スタイルとは打って変わって、片手でリズムをとりながらギョロッとむき出した鋭い眼差しをオーディエンスに向けてラップを繰り出す、そのギャップは初めてOLDE WORLDEのライブを観た人にとってはまさに「予想外」な展開なのである。
「2枚しかCDを出していないので、バンドでできる曲が少ないですよね……だからあと4曲やって帰ろうと思うんです」とさらりと後半へ突入することを伝えると、あっという間にクライマックスを迎える。“I don't belong to you”では、バンドメンバーがハンドクラップを促し、愛らしいコーラスに包まれるとオーディエンスは自然に両手を叩き、リズミカルに揺れ出す。そこから一気に振り切れるように“temmy”で頭を振り乱しながら思いっきりギターをかき鳴らし、甲高いシャウトをぶちかます沼田。そして、ライブで聴くことを個人的にも楽しみにしていた“DOODLE ON THE LANE”で、通常のマイクに加えて、声色にエフェクトをかけたマイクの2本使いでステージを縦横無尽に飛び回り、濃厚なグルーヴを放出した。「今日は初ワンマンに来てくれてありがとうございました。最後の曲です」と“1 2 air”でラストを迎える。沼田はもちろん、バンドメンバーも1%たりとも残さずにすべてを出し切り、激しいノイズとともに初ワンマンの幕は閉じた。
アンコールでは「バンドでできる曲は全部やったから、新曲を弾き語ります」と譜面を見ながら、歌とアコースティックギターのみでシンプルにやったのだが、沼田の歌声が持つ特異性がダイレクトに飛び込んできた。無邪気な歌声かと思えば、かなりのインパクトを放つ高音シャウトで狂気じみた歌声にも聞こえる。本当にいろんな顔を持った不思議な歌声だ。まだまだ、走り出したばかりのOLDE WORLDE。今日も新曲を何曲か披露していたので、今後が本当に楽しみ。まだライブを観たことのない人は、この自由自在なライブスタイルをぜひ体験してほしい。(阿部英理子)