group_inou @ 渋谷クラブクアトロ

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《ほらー おらおらおらおら やってきた/金属バット 持ってきましたよー》(“THERAPY”)

group_inouのセカンド・フル・アルバム『_』にはそんなフレーズで幕を開ける一曲が収録されていたけれども、6月から行われていたリリース・ツアー『_tour』のファイナルを迎えた渋谷クラブクアトロのステージに、cp(MC)が金属バットを、サングラスのimai(トラック)が木刀をそれぞれ手にしてポーズをキメる。しかも二人ともギラついた、いかついステージ衣装だ。それだけでフロアには爆笑が巻き起こる。すぐにいたたまれなくなったのか、二人はTシャツ姿に着替えていつもどおりのイノウの佇まいに戻ったのだが、半ば冗談、半ば今のイノウの「攻め」の姿勢を象徴するような、そんな二人の登場であった。

「なんか過剰な盛り上がりですよね。やりやすいですけど。でもこの前ライブ観にいったら、後ろにノってる(のけぞる)女の人がいたの。他の人は“あぶねえな”って感じで避けて、そこだけポッカリスペース空いてたんだけど。あれはこう、前に行こうとする力に対して、カウンターになるわけじゃん。何やってもいいと思うけど、あれだけはやめた方がいい」。

imaiのそんな脱力MCに触れて、ああいつものイノウだ、とも思うのだが、華やかにしてヒネくれた文化系エレクトロ・ヒップ・ホップを披露する彼らのパフォーマンスは、次第次第に大きな支持を獲得するにつれ、明らかに熱量と強度を増している。フロアの盛り上がりの大きさは、なにもオーディエンスが抱えた期待の表れだけではないだろう。ファットなエレクトロ・ビートが空気を震わせ、ビンビンと肌に伝わってくる。クセのある、しかし完全フロア対応のダンス・ミュージックを鳴らす彼らのサウンドにとっては、ソールドアウトとなったここクアトロすらも、すでに余裕すら感じられる鳴り方をしているのだ。これでは、盛り上がるなという方が無理な話である。

新作『_』はそんな力強いダンス要素が増したアルバムだと思っていた。しかし、今回のステージはオープニングからひとしきりフロアを沸騰させたあと、とぼけたシンセ・フレーズを響かせて徐々にイノウの捩れた世界観に巻き込んでいったのも、“LAMP”や“THERAPY”といった新作収録曲であった。太極拳のような一風変わった舞いを見せながら繰り出されるcpのラップも、このあたりで体が温まったのか鋭いキレを発揮する。imaiの華やかなトラック・メイキングにしても、cpのフロウにしても、ヒップ・ホップとしては類い稀な「ソング・ライティング」としてのレベルの高さが随所に感じられていた。シーンの主流に対して徹底的にオルタナティヴであり、悪ノリなサブカル臭すら漂わせながらも、聴く者を力技で巻き込んでゆくほどにキャッチー。まるで若かりし日の電気グルーヴの姿を思い起こさせるような、独特の存在感である。

二人の姿をクッキリと照らすのではなく、ボンヤリと浮かび上がらせるような柔らかでユニークな照明も、イノウの世界観とフィットしているように思えた。imaiの卓には、一本のアンダーバーを描き出すように、一筋の白い光が当てられている。中盤ではアッパーな今回のショウにとどめの一撃を見舞うが如く、“KNUCKLE”も披露された。そして更に加速する“MYSTERY”では、imaiがトラックのBPMを上下させてフロアの火に油を注ぐ。ブチ切れた文化系のヒステリックなヴァイブが弾けまくっている。

曲の合間を縫ってそそくさと白いツアーTシャツに着替えたcpが「商魂たくましいよね俺。もはやバンドTシャツですらないようなデザインなんだけど。でもさ、お客さんが“これは、かっこ良過ぎて買えないよね”って言うんだ。」とボヤく。「一周しちゃってるんだ」とimai。確かに、アンダーバーのイラストがシンプルに図案化された、かなり記号的なデザインになっている。かっこいい。「かっこ良過ぎて買えない、って何だよ。かっこいいなら買えばいいじゃん」。うーむ。『_』の中でも屈指のメランコリック・ナンバー“HEART”ではミラーボールが回り、感傷的な気分を煽ったところでステージはクライマックスへと向かっていった。

「こんなにたくさんの人が入ってくれて、ありがとうございます。でも、嬉しいですけど、それでも拭えない孤独というのが、あるんです。何かに一所懸命に打ち込むとね、それだけで孤独なんです。俺ツイッターやってないけど、ツイッターやってもユーチューブ観ても、みんな孤独だと思うんですよ。その孤独な心にタッチしたい。そのためだけに音楽やってるな、と思うんです。そういう先輩たちの姿を見て、バトンを受け取っちゃったから。最後に、みなさんの孤独な心に全力でタッチしにいくから、受け止めてください」。

イノウの表現は、マニアックでディープな方向を見据えながらも、多くの人々を繋ぎ止め、興奮させてしまう。その本質を頑強に裏付けるような、最後のimaiの言葉だった。独自の世界を突き詰め、だからこそ溢れ出るコミュニケーション願望が、ダイナミックな感情の形となって渦巻く。そんな素晴らしいステージであった。(小池宏和)
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