開演直前に6月25日に発売されたばかりのニュー・シングル『Yesterday and Tomorrow』、そして、ルイ・アームストロングの“What a Wonderful World”がSEとして流れる。『WONDERFUL WORLD』という言葉自体、いろんなアーティストが歌にしているけれど、ゆずにとっての『WONDERFUL WORLD』とは一体なんだろうと思っていた。それは今回のツアーを観てきた人はそれぞれに感じ取ることができたと思う。このツアーは、昨年デビュー10周年でゆずが、一回立ち止まり、「本当にこれでいいのか」と自問自答した上で、原点に立ち返って作り上げたアルバム『WONDERFUL WORLD』をライブで再現するためのツアーだ。
といっても、アルバムを忠実に再現したというわけではない。まだこの追加公演は続いていくので、細かい演奏曲や演出についてはこの時点では書けないのだけど、これはゆずのオフィシャル・サイトでも募集している企画なので、大丈夫だろう。最新アルバムに収録されている「モンテ」という、ゆずの地元・横浜市磯子区岡村町に実在する理髪店のことを歌った曲をモチーフに、幼い頃に通った理髪店を紹介するというコーナー、その名も「あなたの街のモンテを募集!」と題して、サイト内で募集しているのだけど、“モンテ”の部分を紹介したその地区の理髪店の名前に変えて歌い、ご当地ソングにしてしまうというもの。そんな「あなたの街」を歌った“モンテ”もあれば、壮大なオーケストレイションの中に響く「世界」を歌った“ワンダフルワールド”という曲もある。規模の違うこの2つの世界観が同じアルバムの中に、そして同じライブ空間の中で表現されていることが、何よりも凄いと思った。
北川は「今日ここには13,445人が集まっていて、その一人一人の心に僕たちの歌で聖火を灯したい」というようなことを言っていた。この会場に伝えるべき相手は13,445人いて、それはものすごい数の人たちなんだけど、その一人一人に自分たちの歌を届けるために、二人はいつも歌ってきた。たとえ、それが「世界」が相手だとしても。つまり、一人だろうが、実態の見えない世界だろうが、二人が伝えたいことを真っ直ぐに歌にすれば、それだけでゆずにとっての『WONDERFUL WORLD』が完成するっていうことだと思う。それはこのツアー中に書いたという新曲“Yesterday and Tomorrow”を聴いていて、確信に変わった。
映像演出はもちろん、舞台演出もド派手で、しかもオーディエンスの一体感が半端なく、本公演では披露しなかった楽曲も演奏して、時間も忘れるほどのあっという間のライブだった。バンドメンバーがステージから去り、最後、ゆず二人だけになった時、北川は涙を拭った。「ツアーが終わるまで話すのはやめようと思ったけど、本当だったら横浜の公演にはいつも父がいるはずで、でも、父はいないけど、最後まで父は『ゆずは頑張って歌っていくんだぞ』っていう想いがあったので、ファンの皆さんには心配をかけたけど、これからもゆずをよろしくお願いします!!」と、ツアー中に亡くなられたお父さんのことを話してくれた。でも、最後はちゃんと笑顔で「ありがとうございます!!」と叫んだ。乗り越えなければならない色んな事と、きちんと向き合ってきた二人だからこそ成し得たツアーだったんだなと実感した。(阿部英理子)