OGRE YOU ASSHOLE @ 恵比寿リキッドルーム

OGRE YOU ASSHOLE @ 恵比寿リキッドルーム
9月1日にリリースされた3rdミニ・アルバム『浮かれている人』ツアー最終日。まず初めに言っておくと、OGRE YOU ASSHOLEならではの醒めた空気が首尾一貫して会場を支配したライブだった。全国10公演を周ったツアー千秋楽といえど、祭りの終わりを惜しむようなノスタルジアやパーティー的ムードは一切なし。MCもほとんど挟まず、いつものように飄々とプレイされた1時間半。それ故に、オウガの「不思議さ」や「得体の知れなさ」がかつて無いほど浮き彫りになったアクトだった。長野の森を拠点に活動していることもあり、「深い森」に譬えられることの多いオウガの楽曲世界。だけど今日の彼らは、「深い森」どころか「ブラックホール」級のスケール感と引力で、聴く者を異次元の世界へ引きずり込んでくれた。

ステージに登場したメンバー、観客を煽るでもなく、ゆっくりと位置につくと、ポコポコという小気味よいリズムが鳴りひびく。まずは最新アルバムから“どちらにしろ”だ。どこかとぼけたアンサンブルの上で、出戸(G/Vo)の甘く気だるい歌声が浮遊する。さらに馬渕(G)の野性味あふれるシャウトが入り混じり、早くも奥深いジャングルに迷い込んだような情景が描かれていく。続いて、清々しいギターリフが疾走する“タンカティーラ”へ。軽快なリズムに乗って躍動感あふれるフレーズやコーラスが交錯するさまは、木々の裏から次々と顔を出す野鳥や動物たちを見ているかのように楽しげだ。

「こんばんは、OGRE YOU ASSHOLEです。今日は最後まで楽しんでいってください」という短い挨拶の後は、“コインランドリー”のキャッチーなギター・フレーズが縦ノリを誘い、“フラッグ”の粘っこいグルーヴが会場を酔わせていく。さらに“レインコート”“平均は左右逆の期待”“ネクタイ”と畳みかけると、フロアは妖しく不穏な空気で一色に。底なし沼にズブズブと堕ちていくような恐怖感と同時に、生温かい羊水に抱かれているような心地よさが全身を襲っていく。中でも“ネクタイ”後半の、暗闇をうねうねと這いつくばるようなアルペジオ・ギターと轟音の応酬が生み出したサイケデリアは圧巻だった。

煌びやかなギターが鳴りひびく“ステージ”で暗闇から光の中へ一気に駆け上がると、跳ねるようなビートの“ヘッドライト”、アッパーなメロディが冴えわたる“ピンホール”でフロアの熱気は最高潮に。これまでで一番の歓声が沸き起こり、拳を突き上げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねるオーディエンスの姿が見られる。出戸の歌声もひときわ甲高く響きわたり、明るく、ポップで、だけどどこか歪な祝祭空間が描かれる。こうして熱を帯びたフロアの上で、“レースのコース”のメランコリックなメロディが伸びやかな羽を広げていく。

「『浮かれている人』というタイトルをつけたとき、これは決して僕のことではないと思っていたんですけど。このツアーで巻き込まれてしまいました。こんなの初めてですけど、悪くなかったです」。
ライブ終盤に語られた唯一のMCらしいMC。この言葉が、オウガの音楽の核をズバリと突いているように思えた。独り言のように綴られる歌詞も、タイトなリズムも、奇怪なメロディラインも、独自の音楽性を推し進めた結果のもの。メジャーシーンに打って出ようとか、万人を強く巻き込もうとかいう欲求は二の次で、それ故にオウガのロックはどこか醒めた印象をたたえている。しかし、内に秘めている欲求はとてつもなくピュアだからこそ、バンドで鳴らされたときに聴き手をじわじわと高揚させるパワーを持ち得る――。オウガの音楽にじわじわと巻き込まれてしまうのは、そんな自然体の感情が聴き手を掴むからであり、メンバー自身もいつの間にか巻き込まれた心地になるのは、自らの音楽がもつ摩訶不思議な吸引力に、彼ら自身が誰よりも無自覚だからだろう。ただ自分が好きな音楽を突き詰めているだけ。そんな気持ちで作り上げた音楽が、あくまで自由奔放に鳴らされ、血を通わせることで、多くの人を巻き込むポップな音へと変貌する。自然培養的に育まれた、オウガの音楽でこそ起こり得るミラクルである。

今日のライブで特に際立っていたのが、ガップリ四つに組み合ったバンド・アンサンブルの強靭さ。以前はどこか線の細さを感じさせたサウンドも、重厚なリズム隊に支えられて、よりタイトに、骨太になっているように感じる。だからこそ、出戸の歌声も、浮遊感あふれるギターも、より自由奔放に宙を舞えている気がする。ライブ終盤に鳴らされた過去の楽曲群は、そんな彼らの確かな成長を感じさせるものだった。スリリングなリフが居合い抜きのように応酬する“J.N”も、甘酸っぱいノスタルジアが胸をつまむ“しらない合図しらせる子”も、ねっとりとしたギター・フレーズがサイレンのように頭の中を駆け巡る“アドバンテージ”も、これまで以上に聴き手をぐいぐいと引き込む凄まじいエネルギーをたたえて、堂々と鳴っていた。

本編ラストはオウガの新機軸をうかがわせるポップ・チューン“バランス”を、PV同様カラフルな紙吹雪が舞う中プレイ。どこかフィルターがかかったようなドリーミーな音像で、会場をパステルカラーに染め上げていくさまが素晴らしい。不穏で妖しいオウガ流ポップも良いけれど、この曲を手に入れたことで、彼らはさらなるポップの高みへ突き抜けていくことができる。そう思わせるような、軽やかな空気が会場を満たしていた。アンコールでは、最新アルバムでもラストを飾る“真ん中”を情感たっぷりに披露。大海原の上をゆったりとグライドするような心地よい浮遊感でフロアを酔わせて、ステージを去った。
11月にはカナダのバンドWolf Paradeと18都市を周る北米ツアーが控えている。海外の空気にさらされたオウガのサウンドが、いかなる進化を遂げて帰ってくるのか。その予測不可能な未来が、楽しみで仕方ない。(齋藤美穂)

セットリスト
1. どちらにしろ
2. タンカティーラ
3. コインランドリー
4. フラッグ
5. レインコート
6. 平均は左右逆の期待
7. ネクタイ
8. ステージ
9. ヘッドライト
10. ピンホール
11. レースのコース
12. また明日
13. ロボトミー
14. どっちかの角
15. J.N
16. しらない合図しらせる子
17. アドバンテージ
18. バランス
アンコール
19. 真ん中で
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