ハナレグミ@ZEPP TOKYO

仙台、札幌、大阪、東京、福岡、名古屋、つまり各地のZEPPを回る『TOUR うたう』の追加公演、7本目、ファイナル。
ベース:ガンジー西垣、ドラム:中村亮、ギター:おおはた雄一、ハープとかキーボードとかいろいろ:曽我“僕の高校の先輩(by永積)”大穂。つまり、曽我以外は新編成のバンドになっていました。というか、永積、個々のメンバーそれぞれとは、一緒にやるようになったりしているけど、こうしてこの5人できっちり組んだのは初、ということだと思います。
めちゃめちゃいいバンドでした。特にドラム中村亮、淡々と乾いた、でも豊かなグルーヴを作る優れたドラマー。あと、おおはた雄一って、バック・ミュージシャンとしてもこんなに輝く人なんだ、ってことを思い知りました。

セットリストは以下。

1.音タイム
2.あいのわ
3.踊る人たち
4.愛にメロディ
5.レター
6.ヒライテル~Three little birds
7.Don’t Think Twice
8.あいのこども
9.PEOPLE GET READY
10.360°
11.Jamaica Song
12.がしかしの女
13.あいまいにあまい愛のまにまに
14.大安
15.明日天気になれ

アンコール
16.サヨナラCOLOR
17.塀の上で
18.SPARK
19.ボクモード キミモード
20.心空
21.家族の風景
22.ハンキーパンキー

アンコール2
23.光と影

ご覧のように、ニュー・アルバムのリリースがあってのツアーではないので、ベスト盤っぽさ半分、フリーハンドな感じ半分、みたいな選曲でした。
6曲目から9曲目まではアコースティック・コーナー。6曲目は、どこの誰の曲かは知らなくても、メロディを聴けば誰もが知っているスタンダード曲のカバーに日本語をつけたもの(ハナレグミオリジナルの日本詞なのか、昔からあるものなのかは不明、というか知りません、すみません。どっちにもとれるなあこれ、と聴いて思いました)。「今日は、あの、新しいメンバーでやっています」と、順番にメンバーを紹介し、最後におおはた雄一を紹介したあと、「そんなおおはた雄一くんとぴったり密着して歌うコーナーです」と、マイク1本に両側から寄り添って、歌ったりしてました。その間、他の3人は、並んで間奏でピアニカを吹いたりしてました。7曲目は、ボブ・ディランのカバー。8曲目はカーティス・メイフィールドの曲で、CMソングとしてハナレグミがカバーした曲ですね。

あと、説明が必要なのはアンコールか。アンコールは、まず、アコースティック・ギターと譜面台と歌詞のノートと共に、ひとりで登場。「ここからが長いんだあ」とか言いながら、弾き語りでスタート。
16曲目はご存知ですね。17曲目は、はちみつぱいのカバー。1970年代前半の日本のバンド。今も活動するムーンライダーズの前身バンド、って言ってもいいのかな。いいか、メンバー半分くらいかぶってるし。なお、歌う前に、「羽田空港が国際線になったっていうじゃないですか。60年代、70年代は、羽田って国際空港だったんですよ。その頃の曲です」と前置きしてました。この曲、「羽田から飛行機でロンドンへ」っていう歌詞があるのです。
続く18曲目は、「新曲です。友達のミュージシャン、児玉奈央ちゃんに書いた曲です」と説明。8月に出た彼女の2ndソロ・アルバムに入っている曲で、そのアルバムのタイトル・チューンです。
で、19曲目からバンドが再登場。そのまま22曲目までやって、23曲目は、ベースと歌と鳴り物(振って音を出したりするパーカッションね、鈴とかの)だけでプレイ。永積は、あの、なんか、チーズを削る時に使う立方体のおろしがねみたいなやつに似た形状の楽器を振りながら歌う。おおはた&曽我は、1本のマイクに向かい合って、曲のところどころでなんか振ったり、なんか吹いたり、間奏明けでその吹いてた楽器をおおはたが落っことしてコロコロ転がっていっちゃって、それを取りに行ったりしながら参加。
で、その曲が終わって、メンバー、去るも、アンコールがかかったと同時に、あっという間に永積、戻ってくる。で、ひとりで23曲目をやって、スタート:19:08、終了:21:55、つまり2時間50分のライブが終わりました。

ほかには。フロアから投げかけられる声を、いちいち拾ってリアクションしてみたり、本人のMCも毎回思いつきみたいな感じだったり、基本的に、とてもリラックスした、そのへんの飲み屋でやってるみたいな空気のライブだった。本人も、フロアからの「楽しい!」って声を拾ったあと、「(お客が)近い! カフェバーでやってるみたい」とか言っていた。
ステージセットも、とてもいい。ちらかった倉庫、みたいな装飾で、あちこちにいろんなものが置いてあったり、白熱電球があちこちから下がっていたり、「hanaregumi」というアルファベットのロゴが一文字ずつ置かれていたりしていて、もうセット自体がジャストにハナレグミの世界観を伝えるものになっている。たぶん、去年の武道館のステージセットを手がけたのと同じチームがやっているんだと思います。

という、その場にいる時点でなごむような、フレンドリーで居心地よくて、「ハナレグミの部屋」に招かれたみたいなライブなのに、「ゆるい」とか「ぬるい」とか「だれる」とかいう要素がきっぱりとゼロなのが、すごいよなあ。と、改めて思った。なんでそうなるのか。歌と演奏が、破格だからだ。特に歌。ほんと、どんどんすごくなる、この人の歌。もう圧倒的な表現力、情報量、リアリティ。そろそろ天井に付いて、高値安定期に入ってもいいのに、そうならない。あと、声自体もだんだんでかくなっている気すらする。なんなんだろう。おかげで、聴いていると、どんどん自分を丸裸にされるような、たったひとりで歌と向き合わざるをえないような、そんな気持ちになる。
この人が作って歌う歌って、共感できるしよくわかるけど、そこで気持ちよくなっておしまい、というふうにはできていない。その共感の先までいこうとしているというか、「わかったけど、それで?」とか「じゃあどうするの?」とか「それはどういうことなの?」みたいなことを、聴き手に問う歌だと思う、どれも。つまり、やさしいけど、同時にシビアなのだ。というところまで含めて、本人はもちろん、バンドも、ステージセット等の演出も、表現している、そういうライブでした。

二度目のアンコール、永積がひとりで弾き語った「光と影」。この曲、最後にやることが多いんだけど、曲の途中、間奏明けで一瞬ギターの音が消えたタイミングだったか、永積は、「まあ、泣きなさんな」と言った。
歌があまりに感動的だったので、照れ隠しで言ったのか、それともフロアの前の方にすんごい泣いているお客さんがいて、その人に言ったのか、実際はわからないけど、後者だったんじゃないかと僕は思いました。(兵庫慎司)