徹底レビュー:ザ・ビートルズの輝かしき歩みのすべて――歴史的プロジェクト『〜アンソロジー』が、最新修復と13の未発表レア音源で再生

徹底レビュー:ザ・ビートルズの輝かしき歩みのすべて――歴史的プロジェクト『〜アンソロジー』が、最新修復と13の未発表レア音源で再生

現在発売中のロッキング・オン12月号では、ザ・ビートルズ『アンソロジー・コレクション』についての論考を掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。



文=伏見瞬

最初にザ・ビートルズのCDを再生したとき、とても怖かったのを覚えています。

音楽に興味を持ち始め、自分でCDを買うようになった小学生の頃。家にビートルズのCDが1組ありました。それはビートルズのベストAL、いわゆる「赤盤/青盤」を3枚のCDに収めた盤でした。1枚目が“ドライヴ・マイ・カー”で終わり、2枚目が“ノルウェイの森〜”で始まる。2枚目の終わりが“フール・オン・ザ・ヒル”で、3枚目の始まりが“マジカル・ミステリー・ツアー”。収録されていたオリジナルALのことを考えると座りが悪い(『ラバー・ソウル』と『マジカル・ミステリー・ツアー』の収録曲がALの途中で分かれてしまう)この3枚組に、なにも知らない私は興味を抱きました。でも、私は再生するのが怖かった。少し埃を被った、ジャケットに英国旗をあしらったそのCDが、なんだか呪物のように思えた。幽霊と死の気配を、そこから感じ取っていたんです。

当時はまだジョージ・ハリスンも存命で、ジョン・レノン以外の3名はこの世界に生存していました。いざCDを再生してみると、“ラヴ・ミー・ドゥ”から快活なポップミュージックが続いて楽しかった。どこかで聴いたことのある耳馴染みのよい曲が沢山ありました。でも今でも思い出すのは、再生する前に抱いた、ぼんやりとした恐れと戸惑いです。そして、私が感じていた恐怖感は、実は根源的なものだったんじゃないかと、今になって思うんです。

「憑在論」(Hauntology)という言葉があります。元々はフランスの哲学者ジャック・デリダが用いた造語で、「存在論」を意味する「ontology」と、「取り憑く」を意味する「haunt」を重ねた言葉です。英国の批評家マーク・フィッシャーはこの概念をポップミュージックに適用し、過去を理想化したり再加工したりする「レトロマニア」現象の広がりに、「過去が取り憑く状態」としての「憑在論」を見ました。フィッシャーはそこに後期資本主義の行き止まり感、いわゆる「資本主義リアリズム」を重ねます。私はフィッシャーとは違い、「資本主義」と名指しされている社会状況をそれほど悲観的には見ていません。また、「レトロマニア」的な過去に取り憑かれる現象にも、あまり興味が持てない。過去に理想を見る現象は18世紀ヨーロッパにおける廃墟のブームにも見られるもので、そもそも14世紀以降のルネサンスは古典ギリシア/ローマ文化の復興運動です。過去への回帰を21世紀特有というには説得力が乏しく、近視眼的な歴史観だと思えてしまう。

ただ、再生された音楽に幽霊の気配を覚える感覚にはシンパシーがあります。そこには、「憑在論」というにふさわしい空気が流れています。そして、憑在を最も感じさせる音源の一つが、『ザ・ビートルズ・アンソロジー』なんです。(以下、本誌記事へ続く)



ザ・ビートルズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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