a flood of circle@赤坂BLITZ

a flood of circle@赤坂BLITZ - pic by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)pic by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
新作アルバムのオープニングを飾っていたセッション・ナンバー“Open The Gate ?session #4”のSEとともに、ステージに姿を現す4人。聴く者の皮膚をビリビリと震わせるような佐々木(Vo./G.)による「おはようございます! a flood of circleです!」の叫びともつかない挨拶を合図に、ヘヴィなR&Bで刺々しい皮肉を撒き散らす“最後の晩餐”がプレイされ始めた。10月からの全国17か所『Tour ZOOMANITY~天晴全国百鬼夜行~』を締めくくる、東京・赤坂ブリッツ公演の幕開けである。

昂る感情のままに疾走する“フェルディナン・グリフォン・サーカス”ではメンバーそれぞれのソロ・パフォーマンスを挿し込み、“Silent Noise=Avante-gard Punk”では石井(B.)の「人力でそれを弾くのか」というブレイクビーツばりの高速ベース・ラインが楽曲を牽引する。序盤から新作『ZOOMANITY』のアップリフティングな部分だけを並べ立てたような、容赦ない選曲だ。「ようこそ『Tour ZOOMANITY』ファイナルへ。僕は、好きにやる、ってのがポリシーなんで、騒いでいようが腕組んで観ていようが座っていようが何してくれていてもいいんですが、楽しむ準備はできてますか!?」と佐々木がオーディエンスに問いかける。

公演前半の、このa flood of circle(以下afoc)のライブ・パフォーマンス力をまざまざと見せつける迫力とスピード感は実に凄まじいものだった。ロックの「スピード感」には大きく分けると2つの種類があって、ひとつは例えるなら的確な判断とテクニックによってバンドの性能をサウンドに伝える、まるでF1の走る姿を見るようなスピード感。もうひとつは、オフロードだろうが何だろうが感情任せにアクセルを踏み込んで(ときには宙で空回りしようとも)回転数を緩めずに転げていってしまうスピード感。決して正確さを欠いているという意味ではないが、afocの場合は後者である。

そんな狂騒のフロアで靴を無くしてしまったオー ディエンスを気遣いながらも佐々木、「全国17か所を廻ってきてあちこちで、みんなの住んでいる街の役所の印象はどう?って訊いてきたんだけど、意外とみんな親切らしいんだよね。どうやら冷たいのは、俺の住んでるとこだけみたい。で、結局悪いのは俺かってことになって……えー、それだけで1曲作ったので、聴いてください」と“Black Magic Fun Club”に繋ぐ。afocというバンドが単なる破滅型暴走集団でないのは、憂いや嘆きや憤りといった決して通りのよくない感情を、そっくりそのまま燃料にしてしまう超高性能なロックのエンジンが備わってい るからである。喜びとか優しさとか癒しとかなら、他にもいろいろあるからそちらに任せておけ、とばかりに唸りを上げるロックのエンジン。何しろこの曲で佐々木は、憂いや嘆きや憤りすらもコミュニケーションの潤滑油として利用してしまう社会の仕組みを暴いてしまっているのだから。

粘着質な感情と混ざり合うことで重くなって燻る“百鬼夜行”や“Red Dirt Boogie”のグルーヴが続き、そしてさらに佐々木はこう語っていた。「1年半の間に3枚もアルバムを出して、なんで3枚も出したかって言ったら、バタバタとしていてそれに抗いたかったからなんだけど。でも、曲にしたりライブで歌ったりしたからといって、抗うべきものが消えるわけじゃなくて。ただ、抗うことが出来ていた自分がいるだけです。染みったれた自分に自信を持っているんで、それを曲にしました」。

柔らかいギターのコード・ストロークから、美しい歌のメロディが流れ出す“コインランドリー・ブルース”。ネガティブな感情の爆発的な表出と 「日々を生きること」の歯車ががっちりと噛み合ってしまっている佐々木のソング・ライティングにあって、その生活の中からほろりと零れ落ちてしまったような珠玉のナンバーだ。新作の曲群の中でも異彩を放っていた一曲だが、このときばかりは先のMCもあって、とことんまで腑に落ちるようなパフォーマンスになっていた。

そしてステージは再びアッパー・チューン連打の後半戦へと突入してゆく。石井がホイッスルを吹き鳴らしながらフロアへとダイブした“Human License”。バンド一体型のリフで転がり、演奏途中に「俺の大切なメンバーを紹介します!」と佐々木がお馴染みのコールを披露した“プシケ”。そしてまるでafocのロック人生劇場における泣き笑いのエンドロールとして轟いたR&B“象のブルース”。サポート・メンバー=曽根巧の踊るようなギター・フレーズも炸裂し、熱狂のファイナル本編に幕を下ろしたのだっ た。

「曽根さん、36歳既婚者だぞ! いいなあ、結婚したいなあ。でも当分出来ないよね、だって裸でドラム叩いてるんだよ!? 嫁に送り出すお父さんの気持ちを考えてみろよ!」と、アンコールで一人ごちた挙句に勝手に怒り始めたのは渡邊(Dr.)である。そして最後に佐々木は「実は、身近なところで大切な人を亡くなってしまって、ツアー後半は結構、心がぐらぐらしてしまったんですけど、それでもここに立っていられるのは、別に言いたいことや、やりたいことがあったからじゃなくて、皆さんが待っていてくれたからだし、メンバーやスタッフがいてくれたからだと思います。本当にありがとう」と告げていた。

もちろんその言葉自体にも強く感じ入るものがあったのだが、さらに凄かったのはその前に「ツアー・ファイナルはそれとして、さっきまでので一応終わりだから、別の話として聞いて欲しいんだけど」と断りを入れていたことだった。佐々木にとってのその大きな悲しみは、まだ彼の中で咀嚼し切れていないもので、表現として形にすることも出来ていないものだ、と言っていたのだと思う。この表現者としての自覚と責任感の強さは本当に見事だ。afocはもっともっと凄いバンドになる。そう確信した瞬間だった。ロックはときにそれ自体が、社会のシステムの中に組み込まれてしまったひとつの芸能にしか 過ぎないのかもしれない。しかし、溢れ出る感情を殺さず日々を転げ回って生の実感を得るのか否かということは、またそれとは別の話だ。(小池宏和)

セット・リスト
1:最後の晩餐
2:フェルディナン・グリフォン・サーカス
3:Silent Noise=Avante-gard Punk
4:Chameleon Baby
5:Thunderbolt
6:ロシナンテ
7:Black Magic Fun Club
8:百鬼夜行
9:Red Dirt Boogie
10:コインランドリー・ブルース
11:Quiz Show
12:Human License
13:泥水のメロディー
14:プシケ
15:象のブルース

EN1-1:ロストワールド・エレジー
EN1-2:シーガル
EN1-3:(Don't)Close The Gate -session #5-

EN2:ブラックバード
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