リトル・バーリー @ 代官山UNIT

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リトル・バーリー @ 代官山UNIT - pics by 久保憲司pics by 久保憲司
リトル・バーリー、約4年ぶりの新作『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』を引っ提げての単独公演である。このバンドは普通の若手UKバンド(と言ってもすでにキャリアは10年)とは活動形態がかなり異なっていて、というのもフロントマンのバーリーが凄腕サポート・ギタリストとして様々な場で活躍しており、近年ではその活躍がリトル・バーリー名義での活動より活発だったりするという点だ。

たとえば、バーリーは今やプライマル・スクリームのツアー・ギタリストである。モリッシーのギタリストでもあり、彼に曲を書いたりもしている。加えて、ポール・ウェラーの新作にも参加しているし、スピリチュアライズドのレコーディング・セッションにも参加している。英国ロック紳士録に名を連ねる大御所達との仕事を次から次へとこなすバーリーのギタリストとしての腕は折り紙つきで、リトル・バーリー名義の前作から新作完成までに4年ものブランクが空いたのも、そんなバーリー単独の活動の余波を食らったからだとも言える。加えてこの4年の空白の間にはメンバー交代もあった。新ドラマーとして招聘されたのはヴァージル・ハウ。この人、なんとあのイエスのスティーヴ・ハウの息子である。ますます若手バンドらしからぬロックの伝説を纏い始めている、それが今のリトル・バーリーなのだ。

じゃあ、そんな超売れっ子であるバーリーが自身のバンド、リトル・バーリーに求めるものとは一体何なのか――それは恐らくロックンロールの基本であり、シンプリシティであり、土台である。リトル・バーリーの音楽が彼の揺るぎない基礎としてあるからこそ、彼はプライマルからモリッシーまで、ケミカルからウェラー、はたまたスピリチュアライズドまで自身のギターを自由自在に応用、発展させていくことができるんだってことを、改めて感じさせた来日公演だった。

会場はさすがに超満員である。なにしろ今回のツアーは東京オンリー、しかも代官山UNITというスモール・べニューなのだ。遠征組も多いのだろう、大きな荷物をロッカーに押し込んでいるファンや、各地の方言もちらほら聞こえたりして、開演前から期待値の高さが窺い知れる。今回のステージは新作『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』からのナンバーを中心にしたセットで、過去のヒット曲をブン回してオーディエンスを喜ばせるようなインスタントな展開にはならなかった。『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』が彼らのアルバム中でも突出して渋く、レアで、ロックンロールの求道を感じさせる内容であることも大きいだろう。ほんと、このアルバムのプロデューサーがエドウィン・コリンズであることが未だに信じられないほどのストイックな1枚だったのだから。

リトル・バーリーがバーリーにとってのロックンロールの基礎であることを証明したこの日のショウは、同時に後半に向かって徐々にその基礎の基礎、根幹に向かって深く掘り下げていくようなエクスペリメンタルな流れが印象的だった。3ピース・バンドによる3コード・ロックンロールのお手本みたいな簡潔な曲が連打される冒頭。手数は多くないベーシックなプレイ・スタイルだが、タムの一撃に異様な強度と説得力を持つ新ドラマーをまずは確認してほっとする。そしてバックビートで沸かせる前半へ。そこからスライド・ギターとスネアの小技のコラボレーションで激渋なブルーズを醸成し、こってりじっくり聞かせる中盤、そしてR&Bをベースにしたモッズ・バンド流ホワイト・ファンクになだれ込む後半と、それはまるで1時間をかけてロックンロールのルーツを辿るようなパフォーマンスだったのだ。特に凄かったのがバーリーのギターだ。中盤以降はスキルの高い「巧い」プレイヤーと言うよりもひょんひょんと奇音を発することも厭わないプレイで魅せる「独創的」なプレイヤーの側面が勝っていて、オールドスクールなモッズ・リバイバリストという彼のイメージを覆して余りある発見の一夜になったと言える。

特に中盤辺りでは、ファーストやセカンドの頃のような明快なバーリーズ・ロックンロールを期待していたオーディエンスは少し戸惑ったかもしれない。しかしその齟齬も“Now We Nowhere”の頃にはすっかり解きほぐれ、「Nowhere!」のコール&レスポンスが巻き起こり、フロアには横揺れのじわじわとした熱狂が立ち込めてくる。かつての彼らのような瞬間着火型のショウではなかった。でも見終わった後もいつまでも熱が胸で燻り続けるような、持続力の長いショウだった。ラストの“I Can’t Wait”はきっと彼らの新アンセムになるだろう。(粉川しの)
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