倉橋ヨエコが倉橋ヨエコであることを辞める……。4月30日に廃業を発表した後、最新であり、そして最後のアルバムとなる『解体ピアノ』を引っさげて、全国を廻った<感謝的解体ヨエコツアー>。昨日に引き続き、東京キネマ倶楽部で行われた今夜のライブがほんとにほんとの最後のライブ。
浴衣や着物を着た女性もちらほらいるなか、ステージに現れた倉橋ヨエコは、真っ白なウェディングドレスに、『廃』とシルバーのラメで文字が入った黒い襷をかけ、そして頭にはティアラをのっけていた!! 自分を最終解体する夜に、ウェディングドレス……。彼女のことだから色々な想いがあって選んだ衣装だと思うが、正直、とても素敵でした。
口でうまく話せないから「うらみ帳(一般的に言うところのネタ帳)」に、人間の、女の内面に蠢く陰鬱な感情を言葉で連ね、それに昭和のにおいを感じさせる、ジャズやバラード、そしてロックな音楽をつけて歌ってきた彼女。8年間の音楽生活のなかで、ピアノ弾き語りやバンド形態まで、描く音も変化していったが、歌詞のなかで表現してきた彼女の独特な世界も、少しずつ外に開かれていっていた。が、辿り着いたのは今回の廃業。
『解体ピアノ』を作り終えたとき、もうこれ以上のものはできないと思った、だから廃業する。歌詞がまずあって、その次に音を創り出していったから、歌詞がなくなってしまったら終わりなんだという、廃業にたいする説明もMCで改めてちゃんとしてくれた。そして「引篭もっていた頃、家を出るのも怖くて、電車に乗っても途中で降りちゃって目的地になかなか辿り着けなかった。自分は弱い人間だから、これから強くなりたい」ということを語っていたとき、涙を流して言葉に詰まった瞬間があった。でも今夜泣いていたのは彼女だけじゃなく、最後の夜を見届けに来た人たちも同じだった。
1曲1曲が終焉に向かっていく。それも次のない終わりに。最初のアンコールでは、6畳一間にグランドピアノを置いて弾き語っていた大学生時代の曲を何曲かメドレーで歌ってくれた。そして二度目のアンコールでは古城康行が登場し、“依存症〜レッツゴー!ハイヒール〜”で見事なアジテーターになり、一層場を盛り上げてくれた。そして「倉橋ヨエコを辞めたから言います。この曲はおかあさんのために作りました」という言葉で始めた“楯”まで全24曲。今夜奏でられた楽曲も語られたMCも、すべてにおいて、倉橋ヨエコの集大成となったライブだった。
最後までミュージシャン、倉橋ヨエコが復活する可能性は匂わせなかった……。でもまたもう一度聴かせてほしい。ステージから彼女が去った後も、ずっと鳴り止まない拍手のなかで、切にそう思った。きっとまた、「うらみ帳」に言葉が溜まりに溜まったら、外に向けてピアノを鳴らしてくれるだろう。(石井彩子)
1.白い旗
2.鳴らないピアノ
3.感謝的生活
4.卵とじ
5.あいあい
6.盗られ系
7.過保護
8.白の世界
9.マネキン人間
10.友達のうた
11.損と嘘
12.夜な夜な夜な
13.春の歌
14.夏
15.人間辞めても
16.恋の大捜査
17.はないちもんめ
18.輪舞曲
アンコール(弾き語り)
19.メドレー
20.沈める街
21.ジュエリー
アンコール2
22.依存症〜レッツゴー! ハイヒール〜
23.東京
24.楯